第310話 機動騎士
(別視点)
こちらが攻撃態勢に移行しているのは相手も理解しているだろう。しかし、どういうわけか地面に留まって動かない。
だが、戦闘はもう始まっているのだ。そんな相手に対して空中から攻撃を仕掛けていく。
―バシュッ…
空気を吹き出すような音と共にリゼラの銃口から光弾が発射される。それを見てガン・ザシャはようやく気付いたように動き出した。
初弾を地面を転がるようにしてかろうじて躱すと、森の木々の間を縫うように動いて的を絞らせないようにする。対してリゼラは空中を飛んで後を追いかけながら光弾を放つ。
―バシュッ…バシュッ……
何発も放っていくがその度に野生の勘で巧みに躱される。それでもイスハムは冷静に動きを見極めて挙動の予測精度を上げていく。外す度に射撃は正確になっていった。
「そこっ! 」
確信をもって引き金を引く。気合いが声になって表れ、終に照準が相手を捉えることになった。直撃する軌道だ。
光弾が当たる前にガン・ザシャは体を捻って向きを変えると右腕で受けた。防御には成功する。だが、当たった瞬間、炸裂した光により腕は半ばで吹き飛ばされる。
地面に落ちた腕を気にすることなく、そのまま森の奥へと引き返していく魔物の姿を二機のリゼラは空中で停止しながら見守っていた。銃は未だ構えたままであったが操縦者はもう十分だろうと確信していた。
機動騎士を用いて魔物を殺すことは固く禁じられているのだ。やむを得ず殺す場合でもどのような状況でそれを行うのかは厳密に決められている。そのため今回も追い返すだけに留めることになった。
やがて魔境に完全な静寂が訪れると構えた銃を下ろす。
イスハムは手応えに違和感を感じていたが魔物に襲われていた狩人のことを思い出すと頭の片隅に追いやってそれについて考える。
(無事なんだろうか… )
心配ではあったが救助まではリゼラ隊の役目ではない。イスハムに出来ることはなかった。
生きてさえいれば何とかなるだろうと思いアルバインに戻ることに決めた。この場にこれ以上留まる意味はない。管制塔へ連絡を入れる。
「管制塔、任務は完了した。帰還する 」
『こちら管制塔。状況確認………了解した。帰還せよ』
「了解 」
二機のリゼラはもと来た道を帰っていった。
格納庫に帰還すると機体を整備台に固定する。そして、操縦席から降りて休憩に入った。別の操縦士と交代し休憩室に入ってから一息つけると、タレドと先ほどの戦いについての話になった。
「隊長、随分と簡単に終わりましたね 」
「ああ、そうだな… 」
確かに早く終わった。ヤツは想像していたよりあっさりと引き上げた。攻撃もしてこなかった。そこになんとなく引っかかるものがある。ただ、それが違和感の正体とは思えない。
「あの状況で直撃させるのは流石ですよ 」
「あのぐらいは当然…と言いたいところだがどうかな… 」
「? そうですかね? 」
「ああ、確かに森の中で木の間を通して狙うのは難しい 」
タレドに自分の考えを話しながら自分の中にある違和感の出所を探るように頭を巡らせていった。
「だが、アイツの動きは妙に単調だったように思う。それに一撃で腕を吹き飛ばせた 」
「狙ってやったんじゃないんですか? 」
「そこまで威力は込めてなかったはずだ… 不意を突けただけかも知れないがそれにしても変だ… 」
「そう…ですか… 」
それっきりイスハムは黙り込んでしまう。ひとり黙々と頭を悩ませていたら不意に浮かぶものがあった。
(まさか… 追い詰めていたのか? )
狩人が生身でガン・ザシャを追い詰める。そんなことは可能だろうか? 帝国は広い。それが出来そうな人材には心当たりがあった。大陸全土に広げればもっと多いのだろう。
だが、そんな人物がたまたまあの場所にいたと言うことか。可能性は低そうだ。
(なんだったんだろうな… )
考えても深層にたどり着けるわけでもない。イスハムはそれ以上考えることをやめた。
~~~~~~~~~~~~~~~
逃げられたか…
おのれっ! 邪魔しやがってぇぇ…
横からならぬ上から入ってきた闖入者によって狩りは中断を余儀なくされた。まあ、有り体に言ったら失敗だ。
何の成果もっ、得られませんでした!
………いや、あるか…成果…一応
ヤツが逃げていったあとを追っていくと吹っ飛ばされた腕が残されていた。これを拾って今回の成果と言うことにしよう。
だが、しかし、少ない…
ああっ…くそっ… 憤懣やるかたない! 腸が煮えくり返る……
……ほどでもないな、なぜだろう?
まあ、理由は簡単だ。あの二体の人型ロボット達。俺の興味は既にあのエテ公からロボットに写ってしまっている。
いいものを見た…
人型の機体が空中を縦横無尽に動き回り銃撃を行う。まさに浪漫だ。異世界にきて良かったと言って過言ではないな…
《過言です 》
えっ… 俺の心が… 否定された…だと
《死んで良かったなんて… バカッ… レインのことなんて、知らないっ! 》
……急に青春漫画みたいなノリだな、どうした?
《おや、お気に召しませんか? 》
そう言う問題でもないんだが…
《冗談でも言うべきではないことをやんわりと指摘させて頂いたのですが… 》
………ああ、そうだな… すまない
《ご理解頂けたようでなによりです 》
まあ、それはそれとしてロボットだ。あれはいいものだ。
《……… 》
全身を黒いカラーで統一した機体はリューミオン遺跡で見たものと材質的に同一な気がする。大きさは五メートルぐらいと小さいがその分、小回りがききそうだ。
本体は理力で動いているのだろう。そういう感じがした。魔力とはまた違った気配も感じられたのだ。あれは理力で間違いないはず。
使っていたライフルのような武装も光線を放つ物だった。本体から理力の供給を受けて発射する仕組みになっていると考えられる。
発射時に鳴り響く圧縮空気が解放された時のような音は銃身を冷却するときに生じるものなんだろう。ただ光線を放つだけならあんな音はしない。
理力を扱う際に何らかの作用によって発熱してしまうのは外部から供給を受けたり理力の作用を調整することで起きてしまうのだろうか? ビームの速度がいやに遅かったりしたのはそのためかも知れない。
理力で制御された光は高速よりも遅くなる。とは言え普通なら半減する程度で速いことには変わりないのだが…
あそこまで速度を落としているのは威力を上げるためとか消費を抑えるためとか理由があるのだろう。
機体内部にはパイロットが乗っていたと思われる。遺跡では無人だったがあれは違いそうだ。
その根拠は魔力の気配と機体の動きにある。背中に装備されたフライトユニットは魔術で揚力を得ていた。理力の節約のためだろうが魔力を動かしているならその制御には人間がかかわっている方が合理的に思う。
魔術の動かし方に人間の癖のようなものが感じられたし、二機の動き方に個性のようなものが見て取れた。有人機で間違いないだろう。
魔力を介して魔石と理力石を同調させることで自分の体のようにコントロールが出来るようにしているんじゃないだろうか?
同調しても信号を変換することになるのだからラグが生じるはずだが二機の動きを見ていてもそんな感じはしなかった。技術的に課題をクリアしているのか、それともパイロットが何とかしているのか…
そこはなんとも言えないな
フライトユニットについても気になる点がある。メインとなる部分はバックパックを背負うような感じで装着されているのだが背面一体を覆うように広がっていて外部アーマーのような感じになっていた。
空術で気流を生み出し、それを翼で受けて揚力を生み出す仕組みになっているようだが大きな翼が備え付けられていると言ったわけでもなく、機体の大きさに比べて小さな翼がついているだけだった。
小さい翼がいくつもついているような構造で、背中に四枚、腰に二枚、脚部に二枚、足に二枚の合計十枚の翼が付いていた。数を増やして揚力を確保しようという設計なのだろう。
そうするのは飛行中の運動性能を向上させるためかな? 実際に空中で急旋回からの急停止をやってのけた。あの猿を追いかけていた時の動きも機敏だった。
あの戦闘では行わなかったが木々の間を飛行することも想定しているに違いない。おそらく翼を折りたためる設計になっているのではないだろうか?
あんなものが有るなら…
《あの~ 》
なんだ、エンジュ? 今いいところなんだが…
《拠点の修復はよろしいのですか? 》
……ああ、そうか… それがあったな……
《・・・・・》
ジュジュもこれからどうするって感じに聞いてくる。拠点を直して休憩するとしようか… いや、その前に何か食べるか… 腹が減ってきた…
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(別視点)
森の中を逃げ惑う。
相手に追跡されていないことを確認するとそこで立ち止まり息をついた。そこで先ほどまでの戦いについて考える。
いや、考えてしまうといった方が正しいだろう。理性では考えたくないと感じつつも戦いの本能は次に備えた分析を行うために情報を反芻していく。
冷徹な思考手順は自分自身に残酷な事実を突きつけ理解させる。
―あのまま戦っていれば自分は死んでいた
変異を行って戦ったとしても敗北は必至であった。突然乱入してきたもの達によって中断させられなければ今こうしてはいられない。
追い立てられ腕を吹き飛ばされたが生き残ることは出来た。
それを理解すると自分の中にある感情にも気付かされる。
逃げ延びることが出来て……安堵している
その感情を自覚して愕然とする。これは弱者が感じることだ。既に忘れかけていた感情を再び呼び起こされて怒りが湧いてくる。
自分自身に対する怒りが…
いつも邪魔をしに来るあの大きい人型、あれに助けられたと言うことも怒りに拍車をかける。
吹き飛ばされた右腕を再生することも忘れていた。歯を食いしばり、拳を握りしめ、全身を震わせる。怒りを忘れぬよう内側にため込むために堪えているようにも見える。
再びアレと戦うことでしかこの思いは晴らしようがない。ガン・ザシャはそう理解していた。
だが、もうじきこの魔境に支配者が帰ってくる。すぐに戦うことは出来ない。次の機会が来るまで預けなければならない。
本来ならそのことに怒るべきだ。しかし、むしろ安堵している。すぐに戦ったとしても勝てない。今は力を蓄えるべきとき。時間を得ることができたのだと…
そう感じてしまっている自分に更に怒りが募る。
森の中に長い長い叫び声が響き渡っていった。




