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機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー  作者: 井上 斐呂


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306/333

第306話 大魔境 x 交錯

巨大な熊が爪を振り下ろす。それを上に跳んで躱すと爪は後ろにあった大木の幹を軽々と粉砕した。


次の瞬間、熊は空中にいる俺目がけて相手の使う空術が間髪入れず炸裂させる。


圧縮された大量の空気が魔力の枷を外され魔術がその威力を発揮する。解放された圧力が轟音と共に周囲の木々を大きくしならせて枝を折り飛ばしていった。


幹を大きく削られた木はそこで千切れて、切り株を残して上だけが飛ばされていく。


熊はその圧力を利用して素早く後退し距離を取った。自らが放った魔術の結果を確認する。


だが、残念… 俺はもう既に回避している。


覇空遷移を使い後ろに回っていたのだ。隙だらけの大きな背中が見える。


しかし、その背中は魔力変異により硬質で鎧のような甲殻に覆われている。半端な攻撃では魔力防御がされていなくても大したダメージにならなそうだ。


ならば…


―複合属性魔術【水・衝】、弾水透波術式


衝撃を内部に通す。


渦水烈震かすいれっしん


水を纏った拳を甲殻に叩きつける。衝撃波が装甲を貫通して真っ直ぐ内部へと浸透していく。ズンと拳を押し返してくるような手応えがあった。


相手はたまらず前方へ転げ回る。内臓を揺さぶられる痛みのためか体を丸めるように地面へと両腕をついて咳き込むように息を絞り出す。口からはだらだらとよだれが垂れる。


そこへ全身に雷光を纏ったジュジュが襲いかかる。背中から首の後ろに取り付くと首筋へ牙を突き立てた。牙から電流を流して熊を痺れさせていく。


不意を打たれて大した防御は出来なかったはず。熊の動きは鈍い。体力も魔力も減らされていった。


しかし、熊の巨体は尋常ではない体力を秘めている。魔力にもまだまだ余裕がありそうだった。


そのまま押し切れるかに見えたが、抵抗出来るようになってきたのか徐々に体に動きが戻る。


回復術による体機能の修復か変異による絶縁性の獲得なのか…


―雷神装


どちらにせよ相手の対抗策が完成するのを待ってやる義理はない。


《ジュジュッ… 》


念話で合図を送り、留目を刺すべく俺も首へと攻撃を仕掛ける。一足飛びに熊の頭上に躍り出ると首目がけて垂直に落下していく。


―雷光輝刃


ジュジュが離れた瞬間、電子を固めた刃で刀身を伸ばされた“絶雷”が首を両断した。


地面に着地して斬撃を止めると同時に熊から離れる。遅れて首が地面に落下して転がり力を失った首のない体が倒れ伏せる。


ふう… これで俺達がここのぬし


この熊は俺の狩り場と一部が重なるように縄張りを作っていた。木の幹に爪痕を付けたりして縄張りを主張しているのを発見してから注目して動向を監視していたのだが、ここの環境にも慣れてきたところで狩る決断をした。


改めて仕留めた獲物を見る。体長は六メートルを超す。上級上位を超える強力な魔物だろう。


今は全身を青い鎧のような甲殻で覆っているが出会った時は普通の毛で覆われた灰色がかった青色の熊だった。戦いの最中に可逆性のある変異をして強くなった。


なかなかに手強かったのだが余力を残して狩ることが出来た。こちらに来てからこいつの前に二体ほど上級上位の魔物を仕留めたのだが、俺とジュジュが連携すれば難なく狩れる。


もう少し奥まで行っても大丈夫そうだな…


慎重に進む必要はあるだろうが更なる収入アップのチャンスでもある。積極的に狙っていこう。


まあ、それはそれとしてこいつを解体するか…


ここからギルド拠点までは道のりで百キロないぐらいだが丸ごと運んでいくのは現実的でない。素材を厳選して持っていくより他ない。


しかし、一体どの素材に高値がつくのか? 初めて見る魔物だからなんとも言えないが生物種によって大体の傾向がある。それを参考にしてやるとしよう。


まずは魔石だな…


うつ伏せに倒れている体をひっくり返して仰向けにしてやる。胸部を覆っている分厚い甲殻が邪魔になるがこれはいい値が付きそうだ。ちょうどいいのでこれも売りに出すとしよう。


ナイフで縁に切れ込みを入れて引っぺがす。そのあとに魔石を抜き取る作業に入る。


今までだったら肋骨を切断して心臓を露出させる方法をとっていただろうが今回は解体術を使う。ここまでデカくて強い魔物だとそうやるのも大変だ。


心臓の上当たり、肋骨の隙間に手を当てて魔力を流し込み魔石までの経路を繋ぐ。体組織を動かして魔石を体外に押し出すようにしてやると肉を割って赤い魔石が顔を覗かせてきた。


平たい感じの形をしているが分厚くてちょっとした盾みたいな感じになっている。相当な魔力を内包しているようで持っている手に重さのようなものを感じる。


これは高値が付くぞ…


魔石だけで数千万エスクはいきそうだな。他の素材も合わせれば今回だけで五千万はかたい。


《気が早すぎやしませんか? 》


売れた時のことを想像してほくほくしていたらつっこみが入る。水を差された形だがエンジュの言うことももっともだ。まだ、売れていないどころか解体も終わっていないのだ。


そうだな… 今は価値の最大化に努めるときか…


狩人の嗅覚…というかむしろ商売人の嗅覚か。熊の体を隅々までチェックしてとにかく金のにおいがする場所を徹底して洗い出していく。


爪はやはり売れそうだな。良質な武器の素材にもなるし工芸品にも使える。手足に付いた甲殻もいい値がつきそうだし手足は丸ごと持っていくとしよう。骨も使える。


頭も持っていくとしようか…


頭があれば容易に全体の大きさを想像することができる。オークション会場で他の部位と一緒に展示すれば入札もヒートアップすることだろう。


簡単に億を超えてしまうんじゃないか…


《守銭奴… 》


そう言うなよ… ギルドに卸すなら俺にはあんまり関係ないんだし…


《それもそうですね。失礼しました 》


人が何かに熱中しているシーンを想像するのはどういうわけか楽しい。自分がそれを仕掛ける側であるならばなおのことだ。


それはいいとしてそろそろ包むか…


布を広げて胸部の甲殻をその上に置き、そこに切断した頭と手足を乗せる。魔石を間に入れて最後に布でまとめ上げてロープで縛れば梱包の完了だ。


残りの部分は亜空間に入れて俺が素材として余すところなく使っていくつもりだ。威凄流鬼イスルギ擬人ギヒトの強化に使えるだろう。


肉の一部を食用に卸そうかとも思ったが熊の肉はあんまり人気がないんだよな…


加工次第で美味くはなるんだがそこまでするなら他の肉にするって言う人間が大半だ。一部の愛好家か魔力格が高い肉なら何でもいいって人ぐらいにしか需要がない。あまり儲けにはならなそうだ。


梱包した獲物を担ぎ上げると拠点へと向かう。一晩ゆっくりと過ごして肉体を回復させてからギルド拠点に卸しに行く予定で行動する。


これでしばらく狩りは遠慮しておくか…


大量に市場へ供給すると値崩れを起こすかも知れない。


街とここを行き来して情報を集めることに専念しよう。


~~~~~~~~~~~~~~~~

(別視点)


「こちら、イスハム。リゼラ一号機、問題なし。待機に入る 」

『こちら、タレド。リゼラ二号機、問題なし。待機に入る 』


操縦士の交代によって機動騎士に乗り込むと動作を確認する。いつでも動かせることを確認すると交代が完了したこと管制官へ無線で伝える。


『こちら管制塔、了解した。そのまま待機。指示を待て 』


「一号機、了解 」『二号機、了解 』


管制塔は状況を確認して操縦士の二人へ指示を出す。イスハムは了承して通常通り待機任務を開始した。


十中八九、何事もなく終わることになるだろう。よくて訓練偵察に出るぐらいだ。退屈と言えば退屈な日常。だが、気は抜けない。管制塔の気まぐれで突然訓練が始まることもある。それに…


(今はアレが出ている。何かが起きるとしたらこういう時だ )


アレが何なのかイスハムは知らない。だが、帝国を防衛する巨大な何かが、ここアルバインに格納されていて年に数回の間隔でそれが動かされていることは騎士達の間でウワサになっている。


操縦士であるイスハムはその何かの存在を感じ取ることがあった。今はそれがどこかに行っているらしい。


そう言う時、この魔境では何かが起きやすいと言うことを経験から感じ取っていた。決して大きなことが起きるわけでもないのだが操縦士としては貴重な実戦の場だ。期待は出来る。


(集中、集中…と… )


操縦桿を握る手に力を込めて意識を機体へと同調させる。すると機体の隅々まで把握することが出来るようになる。


全てが問題なく稼働出来る、自分の体のように動かせることを確認すると管制官へ報告を行った。


「定期報告。一号機、問題なし 」


~~~~~~~~~~~~~~~~~

(別視点)


この広大な魔境を支配しているものがいる。数は二つ。最奥に一つと比較的浅い場所に一つ。いつの頃からかもう忘れてしまったが、この二つが互いに睨み合い均衡を保つことで平穏が保たれている。


《《ソレ》》にはその平穏が上から押しつけられているようで息苦しく感じられる。同じように感じるもの達はソレの他にもいるのだろう。


だが、その二つの存在が同時にいなくなる時がある。それは一定の間隔で訪れるものだった。今回も季節が巡るようにやってきた。


今はまだ互いの出方をうかがっていて誰も動こうとはしていない。このまま様子見が続くようであれば自分が最初に動こうと考える。


暗い森の中、闇に紛れて二つの瞳が怪しく輝いていた。



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