第304話 大魔境 x 拠点造り①
森の木々が後ろに高速で流れていく。魔境の中にあるギルドの拠点へと続く道をトライクが走る。
道の幅は意外にも広く、二車線分ぐらいはあった。車同士がすれ違うことも余裕で可能だ。なので舗装されていない道を遠慮なく飛ばせる。
途中でちょっとした坂道があった。出力を上げて登っていくと坂の頂点でトライクはその勢いのまま空中へと飛んでいく。放物線を描いて地面にタイヤから勢いよく着地するとサスペンションが沈み込み落下の勢いを減衰させる。
上下の揺れが収まっていく感触を全身で受け止めながら一定の速度をキープしたまま走らせていく。
ちゃんと整備されていてオフロード感はあまりないが、それでも地形的に地面が波打っていたり車体が跳ねる瞬間が何度もあった。チューニングした甲斐がある。
川にかけられた橋を何度か渡っていくと森の中に隠れるように建つギルドの拠点に到着した。いつだったかオードに連れられて訪れた拠点と似たような感じを受ける。
それなりに大きく背の高い建物のはずだが周りの木が太く、建物を超えて成長しているので小さく頼りなく見えてしまう。
深層にある拠点ならばそれも仕方なしと言ったところか…
他にも何台か車が駐められている駐車場にトライクを駐めて拠点に入ると職員に挨拶をした。
他の上級狩人に会うことはなかったが職員の中にも強者の雰囲気を纏った者が何人かいた。引退した狩人なのかも知れない。ここの防衛を担っているのだろう。
挨拶もそこそこに拠点を後にして狩り場へと向かっていく。ここから先に道はない。乗り物なしで未開の森の中を駆け抜ける。
直線距離にして拠点から狩り場まで百キロぐらいの道のりだ。途中に起伏があったり迂回ルートを通ることを考えても、時速四十キロぐらいで進み三時間もあれば到着出来る計算で進んでいく。
俺達も強くなったとは言え、深層でも深めのところに来ている。警戒しながら、この魔境の空気や土の感触を確かめつつの行軍になった。
何度か魔物の気配を察知して接触を避けるために迂回することもしたがだいたい予定していた通りの時刻に到着することが出来た。
まず最初にやることは拠点を作り上げる前の仮のベースキャンプを設営することだ。
軽く見回した感じでもちょうどいい枝振りの大木が何本も見えたので木の上に土台を建築してそこにテントを張ることに決めた。
周囲の木から枝を切り落として材料を集めると木術により融合、変形させて継ぎ目のない土台を作り上げる。
次に出来た土台を見定めた場所に仮置きしてから水平にしっかりと固定出来るよう木術を用いて変形させていく。その場所に合わせ細かな部分を調整していくとがたつきのないしっかりしたものが完成した。
そこにテントを設営してカムフラージュのための枝葉を置いて仮拠点の設営が完了することになった。
テントの中に荷物を置いてさっそく本拠点にふさわしい場所の選定に入る。
狩り場の中心当たりに移動するとそこから円を描くように探索していき俺が思い描く拠点が作れそうな素材を探す。
よさげな木があればいいんだが…
土術と木術を混合した探査術式で樹木の質を見極めながらうろついていく。索敵はジュジュに任せて俺は魔術だけに集中していた。
数日はかかることを覚悟して練り歩いていたら一時間ぐらいで良さげな木を発見することが出来た。
ツイてるな…
その木は周辺の木より一際背が高く幹が太い立派な木だった。だが、かなり弱っている。このままではあと五年持たずに朽ちてしまうだろう。しかし、それこそが俺の求めていた条件にぴたりと当てはまる。
俺のやりたいことは樹木そのものを拠点に改造することだ。ニルスからハンビィ達が木を改造して出入り口にしているという話を聞いてから今回の構想が頭に浮かんだ。
流石に健康な木を遠慮なく改造していくのはどうかと思いためらいがあったが、死にそうな木ならそこら辺の心理的抑制はうすい。むしろ、俺が手を加えることで寿命を延ばしてやろうと考えている。
樹木医という仕事もあるようだしな…
今日はもう当たりはだいぶ暗くなってきているので一旦仮拠点へと戻り作業は明日から始めることにする。
テントに戻って夕食を取りその日の活動を終える。
次の日は早朝から拠点作りを開始する。まずは木の状態を確認するところから始める。
魔力を流していき悪いところを特定していく。どうやら細菌に感染しているらしく腐っている部分がある。魔石を持たない生き物ならこう言ったこともあるのだろう。
木術を使い全体を強化しながら繊維の繋がりを整え悪くなっているところを修復する。完全に腐りきっているところは外へと患部を押し出すように操作して取り除いていく。
失った部分は他から組織を持ってきて補ってやり木の治療が完了した。
さて、それじゃあいよいよ加工していくとしますか…
下手に加工するとせっかく治療した木が死んでしまう。慎重に作業を進めなければならないが俺の木術なら大胆にやってしまってもなんとかなるだろう。先ほどの治療で手応えを掴んでいる。
幹の中程に出入り口となる穴を開ける。そこから中をくり抜いていき居住空間を作る。木の上半分を大きくくり抜いて上側を軽くすることで木の負担を抑えていく。
壁に当たる部分は十分に水分や栄養が通る程度に残して置くが、幹は直径三メートルぐらいあるので壁を残してもそれなりに生活空間は確保出来た。
出来た円柱状の空間は高さ六メートルぐらいある。それを三分割にして床を作っていく。フロアの移動は壁に沿って円を描く様な階段を作ることで行うことにした。
床の一部に昇降用の穴を開けて階段を作ると基本的な構造は完成した。次は窓を作ろうと思う。
魔物から見て分からない様にしたい。窓用の穴を設けたあと、締めた時に樹皮と一体化するように戸を作成して取り付ける。壁と一体化して頑強に塞げるように小型だが分厚い設計になった。窓というよりか潜水艦などのハッチに近いかも知れない。
出入り口にも同じような扉をつけて基本構造は完成した。全ての戸を閉じれば外観的には普通の木にしか見えないはずだ。
しかし、ちょっと物足りない感じがするな…
出来上がった空間を眺めながらそれが何かを考えていたら、ふと思い浮かぶことがあった。
万一、拠点を襲われた時に崩壊しないように丈夫に作っておく必要が有るのではないかということに思い至る。
上級上位もそうだが、それ以上の魔物から攻撃を受けたら最悪この木がぼっきりと折れてしまう。
修復は可能だが今後過ごす時間が長くなって愛着が湧いてからそんな事態に陥れば確実に凹む。
と言うわけでガッチガチに固めるために補強をしていこう。魔鉄で作ったフレームを壁や床、天井に沿って貼り付けるように組んでいき各フロアを華五畳に囲む。何本かフロアを貫くように上から下まで通して全体で衝撃を分散させるようにする。
ここまでやればそれなりに持つだろう…
補強が終わると内装工事に入る。
フロアの床は剥き出しでも生活出来るが硬く作っている。補強のための鉄材も走っているので快適性は低い。あらためて平らで柔軟性がある床を作るとしよう。
鉄材の隙間に床板を乗せる木製の土台を作っていく。適当な大きさの木製ブロックを木術でフロア材にくっつけていき土台が完成する。その上に横木を接着していき、更にその上にフローリングを敷いていった。
床が完成すると次は家具などを作成して備え付けていく。最初はキッチンからだ。
キッチンは排気の関係から三階に作ることにした。焼き台の位置を決めると天井に穴を開けて換気口を枝の間の隙間に通していく。外に回って雨や虫が入ってこないように笠や網をつけた煙突を設置した。
内部に戻るとレンジフードを取り付けてその下に焼き台を置き固定する。隣に大きめの作業台を作り更にその隣にシンクを取り付ける。
シンクの上部には水を入れるタンクを取り付けてそこからホースを伸ばしてシンクの蛇口と繋ぎ水が使えるようにする。
水の供給には少し苦労するかも知れないが亜空間を使えば問題ない。水源はまだ探していないが遠いようだったら井戸を掘ることも検討するとしよう。排水管を通すのは訳あってあとにする。
あとは食器棚を取り付け、折りたためる机と椅子を置いてダイニングにもする。
三階はとりあえずこれでいい。次は二階だ。
二階は寝室にする。部屋の直径は二メートル半と言ったところでベッドを置くだけで一杯になってしまうどころか普通の規格のベッドを置くのも難しい。
おまけに俺とジュジュが一緒に寝られるようなものでなければならない。なのでこの部屋に会わせたベッドを作成することにした。
半円形に近いベッドフレームを作り出して置いてみる。壁際にピッタリと収まり階段へアクセスするのも容易なスペースがある。面積もあるのでふたりでも余裕だろう。
次はこのフレームに合わせたマットレスを作らなければならないがどうやって作ろうか?
フレームに使った素材はこの魔境の物なのでマットレスの素材もここのものを使うことにしよう。
周辺にある木々から空術と木術の複合術式で大量の葉っぱを集める。水術で水分を抜きながら洗浄しつつ高温熱変換で殺菌を行って劣化しないように加工した。
これを厚みを出すために立体縫製した布カバーに詰めていき一応の完成となる。
フレームの上に設置してから試しに俺とジュジュでそこにダイブしゴロゴロと転がってみる。すると問題点が浮かび上がってきた。
カバーの中の葉っぱが俺達の動きにより押し出されて分布が偏ってしまうのだ。一旦、葉っぱを全て抜いて対策を考えてみる。
内部をある程度細かくブロックに分けて詰めていくのがいいか…
それぞれ形が異なる小さめのカバーをいくつも作り出していく。これを指定の場所に置いて合わせると大カバーにあった半円を形成する。
小カバーに葉っぱを詰めていき順番に大カバーに入れて改良型マットレスが完成する。
試してみるとなかなかにいい感じだったのでこれを使っていくことに決定だ。使っているうちに不具合がでるようだったらその都度改良を加えていこう。
二階が終わると一階に降りてこの階をどのようにするかを考える。
物置ぐらいにしか使い道はないかも知れないな…
とりあえずは棚を配置して狩りに使う道具類を保管しておく場所に決める。
棚の設置もそこそこにして次は通気口を作っていく。床の近くから壁の外に向かって斜め下向きに穴を開けていき貫通させる。下向きなのは雨が入ってこないようにするためだ。
穴の周りに網を張って虫が入ってこないようにしてから外側に周り穴のところを木のうろに見えるように加工する。
これでキッチンまで繋がる換気が出来るようになった。
中に戻り一階の中央に位置取るとここから今回の拠点作りの二つ目の目玉工事に取りかかっていく。




