第303話 新生活 x 準備③:トライク改修
仕事に関してまずやらねばならないのが魔境の中に拠点を築いていくことだ。俺の狩り場にはかなり巨大な木が林立しているそうだから建材は現地調達で何とかなるだろう。
キッチン用品なんかに使う金属素材はそこまでの量はいらないだろうから持ち込んだ体を装うのは難しくない。
しかし、どこか帝国内で素材を調達した履歴を作っておかなければならないな。
そろそろ人間の姿で乗れるロボットの試作機を作ってみたいので鉄材は大量に調達しておきたい。しかし、そうなると運搬には車を使うのが望ましい。
トライクでは運ぶ量に限界があるからな…
車なら亜空間にあるのだがそれを使ってしまうと出所の証明が難しい。自然な感じを出すなら帝国内で運搬用の車両を購入するのが一番良いのかも知れない。
ハイエースのような箱形の大型車両が一台あれば家の中にいろいろなものがあったとしても不自然じゃない。
日常の買い物なんかのちょっとした移動をそれで行えば普段から沢山の物資を動かしているように見えなくないだろうか?
後部の窓を黒塗りにして運転席側とカーテンで仕切れば中がどうなっているのか見えない。そうすれば空気を運んでいるのか物を運んでいるのかなんて区別がつかないだろう。
車体の沈み方でどれぐらいのものを乗せているか推定出来るかも知れないが、日頃から常に誰かが監視しているなんてことは流石にないはず…
これでいくか…
エンジュ、俺の希望に添うような車種は買えるだろうか?
《はい、いくつか候補がございます。画像を表示いたしましょうか? 》
いや、そこまではいい。直接見て確認する方が楽しい。明日、冷蔵庫を受け取ったら早速買いに行くとしようか…
ん? いや、何か引っかかるな… なんだろうか?
ああ…
黒塗りハイエースか…
これは…
…逆に怪しくないか?
日本では拉致監禁とかいったイメージがなくもない。怪しい物品を運ぶにはもってこいな仕様だ。
こっちの世界ではどうなんだろう?
窓を黒塗りにするより後部座席にシートでも被せておいた方が無難かも知れないな。疑われないようにするために別の疑いを持たれては本末転倒だ。
魔物として見られるのと犯罪者として見られるの、どっちがマシかって話だ。
まあ、どっちも嫌に決まってるわな…
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翌日は冷蔵庫が届く前にトライクの改造に取りかかる。
魔境に作られた道路は途中までは舗装されているそうだが未舗装道路の方が多い。荒れた道を走行するためのオフロード仕様への改修を行う必要がある。
サスペンションのストロークを深く、柔らかくして路面の凹凸に対応出来るようにする。そして、タイヤをオフロード仕様の厚くて溝が深くてでこぼこした物に履き替えた。これで地面を掴めるグリップを生み出せるだろう。
加えて今回は魔導系の機能を追加して見ようかと考えている。
俺が魔術でどうにかする方が細かな調整が効くのだが俺自身で何でもかんでもやってしまうとマシンを動かしている感じが弱い。
機械と言うよりか器塊って感じがする。オートバイと言うより自転車といった方がわかりやすいだろうか?
先ずはタイヤに整地術の機能を組み込んでいこう。未舗装道路をタイヤが削ってしまうことを防ぎたい。整地術でグリップが増して走破力も向上させることが出来る。
人工魔石に制御用の回路を組み込む。これはオンオフの指令を受け取って実行するのと魔術出力の上限を決めるリミッターの役割を持たせる。これは人間で言うところの脳に当たる部分だ。別の魔石を用意してこちらには地面を一定の硬さに調整する土魔術を組み込む。
このように一つ以上の魔石を使用して魔術現象を引き起こすひとまとまりを魔導回路と言う。
今回は制御系と魔術系で分けて魔力供給源を運転者に頼る形にしたが、実際のところは魔石一つで制御、魔術、供給のすべてを行うことも可能だ。ただ、そうやってしてしまうと回路の寿命が著しく短くなってしまう。特に供給系は別に置くのは必須ともいえる。
制御系を別に用意した方がきびきびしたレスポンスを得られるから制御と魔術も別々にするのが一般的だ。俺もそれに倣って魔導回路を設計した。
作成した二種類の魔石を銅線で繋いでホイールの中に仕込むのだがタイヤのゴムを挟んで地面に魔術を作用させようとするとそれなりにロスが出てきてしまう。
普通に整地術を使う時も靴底が邪魔になったりはするのだがそこら辺は慣れてしまえば肉体の感覚、すなわち脳機能の方で自然に処理出来る。
魔導具においては使用者が技量で補う設計も出来なくはないが今回は肉体から離れていてそれも難しいので仕組みで何とかする。
ゴムタイヤの中に銅線を通して魔力の通りを向上させる。その分、タイヤの強度が下がってしまうので対策をしなければならない。強度を上げるためにゴムの量を増やすのは本末転倒だ。
それ以外の方法で強度を上げるには素材を強化するか構造を変えるか魔術を使うか… パッと思いつく限りだとこの三通りだな
もちろん全て試していく。
素材の強化に関しては何か別の材料を混ぜ合わせる根本的な強化は難しい。混ぜ合わせる素材の候補を何種類も用意出来ないし下手をすると丈夫にはなっても環境耐性が悪くなる可能性もある。
ここはゴムの分子配列や炭素の散らばり具合を整えて強化する方向性でいこう。
次に構造の変更による強化だが、これは主にゴム質内部に混ぜ込む銅線やワイヤーの配置をいじることで実現させた。タイヤの溝なんかにも変更を加えたがそちらは期待したほど効果を発揮していない。
最後に魔術による強化だ。発動用の魔石に強化術式を組み込むだけなのだがこれには問題があって魔力の消費量が増えてしまうことだ。
先に行った二種類の強化によって必要な魔術強度は軽減されているがなるべくなら限界まで効率を上げて長く保つようにしたい。
必要最小限の強化がどれぐらいなのかを想定して回路を刻み込んでいく。強化する物質の特性まで考慮した魔術はさらに消費を抑えてくれることだろう。
これで整地術の搭載は終わった。次はフレームの変形機能をやっていこう。
フレームの変形によるホイールベースや車高の可変を俺が鉄術を使わなくても出来るようにトライク自身に鉄術を組み込んでやる。
これは仕組みとしては整地術よりも楽に作ることが出来る。鉄を変形させるだけだ。しかし、単純故に魔力の消費を抑えるのは難しい。
ワイヤーを操作したりするだけだったらそれほど出力はいらないが加重を受け止める為に硬くしてあるフレームを変形させるのはある程度出力を要する。
どうするか…
ちょっと悩んでから変形をゆっくりとさせる方式を採用することにした。単純だがこれが一番エネルギー効率を上げてくれる。
問題があるとすれば急な変形が必要になった時に対応出来るかという点だがそれは俺の操縦技術で何とかすればいい。
マシンを扱う技量が求められるか… らしくなってきたな…
ジュジュ用のシートを拡張して全体の重量バランスの調整が終わるとトライクの改修は完了した。
亜空間から取りだしてガレージに置くとバージョンアップした姿を眺める。
見た目には魔導具が仕込まれていることは分からないだろう。
外観的には変更点はあまりないが無骨なオフロードタイヤに履き替えサスペンションを強化した足回りは全体の雰囲気をワイルドな物に仕上げている。
座席に腰を下ろしてハンドルを握ると全く別のマシンに乗ったような感覚がする。それは気のせいなんだろうが魔石が組み込まれて俺とは別に独自の魔術をこいつが使うことによって俺という存在と分離されたように感じる。
ハンドルに設置した魔術を発動させるための物理スイッチが機械感を演出しているな…
もともとあったライトの点灯スイッチやクラクション、ウインカースイッチに整地術の発動スイッチと可変用のスイッチが新たに加わった。
スイッチが沢山あるのは……好きだな
特に用もないのにポチポチと押してしまう。遊んでいたらジュジュが座席に乗り込んでくる。
感触を確かめるのもそこそこに俺の背中に顔をスリスリしてくる。ヒートアップしてくると首の後ろをペロペロと舐めてきた。
ちょっ…くすぐったい…
そのまましばらくじゃれ合っていたら車が家に接近してくるのを感じた。トラックだな。大きさを感じる。
そのまま家の前の道路に止まった。注文していた冷蔵庫を届けに来たのだろう。
じゃれ合いを中断して座席から降りると内側からシャッターを開けて迎え入れる体勢を整える。予想通りに冷蔵庫が運ばれてきたのでシャッターの手前に置いてもらい、受け取り伝票にサインをした。
中まで運んでくれると言っていたがそれは断って自分で運ぶことにする。見られて困る物はないはずだが人によって何に注目して何を思うかは異なるものだ。どこに穴があるか分かったものではない。
シャッターの中に入れると外から見られないように閉じてから、梱包材ごと冷蔵庫を亜空間に入れる。そのまま台所まで移動すると開けてあるスペースに亜空間から取り出して設置した。
キッチンに冷蔵庫の姿が現れるといよいよ新生活が始まるのだという気分になる。他の物が使い回しの分、新しい冷蔵庫は特にそれを印象づける物となったのだろう。
冷媒が落ち着くまで電源は入れずに昼食の準備に取りかかる。なんとなく凝った物を作る気になれなかったのでサンドイッチを作るだけに済ませた。
昼食が終わるとハイエースを購入しに車屋に向かう。エンジュの話では納車まで数日はかかるというので今日は購入だけだ。
トライクを走らせて店に到着すると外観と内装を確認する。更にボディに手を触れて魔力を流し、内部構造まで把握していく。
特に問題はなさそうだったのでオプションが何もついてない一番グレードの低い物を購入した。必要ならば自分で手を加えていけばいい。
価格は五百万エスクを少し切るぐらいだった。大きさはこちらの方が大きいのだが最初に購入した車よりもだいぶ安い。商用車的な扱いで内装がチープだったり帝国の方が生産体制が整っていて製造コストがかからないとかあるんだろう。
その後はトライクを走らせて都市観光をしたり買い物をしたりする。地道に行動履歴を積み上げよう。
数日後、納車を受けてからは街中の移動はハイエースで行い、物資の購入を進めていく。更に数日が経過した。
都市での生活基盤もある程度整え終わった。いよいよ魔境での狩人生活を始めていくとしよう。




