第302話 新生活 x 準備②
「ここにするか… 」
「かなり危険な場所ですよ、そこ…最初はもう少し様子を見て置いた方がいいんじゃないでしょうか? 少なくともアルバイン線からはみ出さない方が無難ではあると思いますが… 」
コンラッドが言うアルバイン線とは要塞アルバインを頂点に断崖壁側へと富士の裾野のように広がる曲線を言う。
アルバイン線から先はほとんど人が足を踏み入れない領域になっている。深層のさらに先ということだ。
探索ギルドがたまに調査に入るらしいのだが確かにその付近で様子が変化するらしい。
俺も無茶をしたいわけでもないのだが他の狩人を避けるにはそれなりに奥に行かなければならない。流石に帝国が誇る大魔境だけあって上級狩人が想像以上に多かった。
そして、タルタインからのアクセスを考えた結果、アルバインからそれなりに近い位置取りになってしまった。
立ち入り禁止区域に近い場所の方が道が整備されている。結構奥の方まで車で移動出来るようになっていて狩り場への移動時間を短縮出来るのだ。
近い分、アルバインから俺の行動を見られるリスクが出てきてしまう。
だが逆に、俺の方もアルバインを観察することが出来る。帝国の技術を拝む機会が得られるチャンスでもある。
むしろ、俺は無意識にそう考えていたようにも思えてきた。それを一番の理由に選定していたんじゃないか?
まあ、それはそれでいいか…
重要なのはリスクを自覚して許容出来るかどうかだ。相手を見ると言うことはこちらも相手から見られると言うこと。見せたくない部分をいかにして隠して付き合っていくかが鍵になる。
よろしくなぁ、帝国…
「むしろここじゃないとだめだ。そんな気がしてきた。ここにするとする 」
「………そうですか。ではここで登録しておくとしましょう。変更は何時でも出来ますので変えたくなったら気軽に私へ声をかけてください 」
「そうさせてもらおう 」
無事?に狩り場が決まったところで北部大魔境についての詳しい情報を聞いていく。周辺にいる狩人の人となりとか気候とか魔物の種類やその生態についてある程度の知識は仕入れておいた。
十分に話をするとコンラッドと別れて一度タルタインに戻ることにする。しっかりと生活の地盤固めをしておかなければならないからだ。
ブラッセンで昼食を取ると来た道を戻る。
タルタインに到着した時には三時を回っていたがそのまま買い物に出かける。向かう先は電気屋だ。
結局のところ冷蔵庫はこちらで新しい物を買うことにした。その方が怪しまれないしキッチンが広くなったのでより大型の物にした方がいいような気がした。
なにより帝国の技術を知る機会にもなる。購入するかどうかは分からないが最新鋭の物をいろいろと見ておくことにしよう。
エンジュの案内で都市の中心部にあるビル街へとやってくる。駐車場にトライクを止めて目的の建物へ歩いていくが途中ですれ違う人の中に小型だが武器を携帯している人がそれなりにいたので俺が浮くようなことはなかった。
発展している都市とは言え北部大魔境の影響は少なくないらしい。外壁がない都市構造をしているからもっとのほほんとしているかと思ったのだが、むしろ外壁がないからこそ油断をしていないと言うことなのかも知れない。
目的のビルに到着して中に入る。そこは一階から最上階にあたる五階までを売り場にしている店だった。都会にある家電屋と言った趣だ。
外観は近代的なコンクリート製のビル。だが、内装には石や木、漆喰などが使われていてこちらの伝統様式に則っている。そこにレトロデザインの家電が所狭しと並べられていてなんとも言えない奇妙さを感じる。
そう思うのはこの世界で俺だけ何だろうけどな…
《私もその感情は共有出来ますが 》
その物言いから言ってあんまり共有出来なさそうに思えるんだけど…
それはおいといて家電を検分していく。大半は普通の家電だったが中には面白いものもあった。
魔石制御の家電だ。
これは一般家電と同じく主機能は電気により駆動するがその制御を魔石に担わせる仕組みになっている。マイコンのかわりに魔石が使われていると言った感じだ。
きめ細やかな制御がなされる分、省エネ且つ高性能だ。値段も普通の物より高い。
そして、それよりも更にグレードの高いものがある。魔導具に相当する物だ。ここ迄来ると家電とは言い難いが、機能的にはひとくくりにした方が理解がしやすい。
制御用の魔石とは別に魔術発動用の魔石が備え付けられており、通常の家電では機構を電力で動かすことにより効果を発揮させるところを魔術で行うという物だ。
掃除機では空術で気流を発生させて吸い込み、冷蔵庫では同じく空術で冷媒を圧縮膨張させて冷気を生み出すと言ったふうに行っていくらしい。
エネルギー源にはまた別の燃料用の魔石をはめ込んで使うらしい。そうなるとコードレスで使える。
まあ、まだ値段が高いからおいそれと買えるような代物ではない。掃除機なんかは使用者が魔力を供給して使用するのだが使う人間の魔力の過多が性能に表れてしまうのも欠点だな。
電力を魔力に変換して使えないかという研究もあるようだがまだまだ完成にはほど遠いらしい。
エンジュ… そんなことまでよく知っているな…
《ふふ… 》
そろそろどれを買うか決めようかと思い冷蔵庫コーナーを見ていたら更に上位のモデルが展示されていた。
へぇ、ここまで出来るのか…
魔導タイプの物で低温熱変換で冷やす仕組みになっているという。コンプレッサーが必要なく、冷気を庫内で回す必要もない。その分、大容量に出来るし食材が乾燥しにくい。冷蔵では均一に冷やせて冷凍に至っては内側も外側も万遍なく同時に凍らせることが出来る。
ある意味では究極の冷蔵装置だな…
まさか、高温熱変換コンロとかオーブンもあるのか?
《あります。ご案内いたしましょうか? 》
いや、そこまではいいや。やろうと思えば出来るし
しかし、やはり電子制御の物はないようだ。魔境にわけ行って鉱山開発なんてのはなかなか難しい事なんだろう。レアメタルを新しく掘り出そうってことにはならないか…
旧文明の遺産には電子機器とかないんだろうか? そこから鋳つぶしてレアメタルを回収…はしなさそうだ。博物館とかに飾られてそう。少なくとも帝国が保持しているだろう。一般に出回ることはない。
魔石から回路のような物を作れるならそれでいい。俺もそうやってロボットの制御をすればいいんだ。その方がこの世界らしい。
方向性が見えてきたところで、あらためて冷蔵庫を買うことにする。魔石制御タイプで電力供給で動くやつだ。
容量が大きいスリードアタイプで野菜室もついている。そこら辺は見た目がレトロでも地球と変わらないようだ。
店員さんを呼んで買うことを伝え支払いを済ませる。運んでくれると言うので明日の午前中に家に届くように依頼した。
買い物を済ませて外に出ると日が沈みかけるような時間だった。当たりは薄暗い。
良さそうな時間だったので夕食も都心部で済ませることにした。エンジュの案内でジュジュも入れる料理屋へと移動していく。
ついたのはビルの二階に居を構える餃子屋だった。餃子と言ったのは単純にほぼ同じ料理だったからでこちらの名前はルカリニと言うらしい。ファーストフード以外で専門店というのは初めてかも知れない。
案内を受けて席に着きメニューを確認していく。
へぇ… いろいろあるな…
皮の中に包む具材のバリエーションが多い。肉に野菜、海鮮、きのこ類、、、え、昆虫? そんなものまで…
日によって違うようだが五十種類ぐらいはある。皮の種類も何種類かあったり、調理方法も焼き、茹で、蒸し、揚げとバリエーションがある。
適当に何種類か注文してみる。昆虫らしき物は外しておいたが…
注文してから五分と経たずに最初の料理が運ばれてくる。焼き餃子だ。皮の底面がしっかりと小麦色に焼かれて芳ばしい香りがする。
小皿にタレを取るとそれにつけて口の中に放り込む。噛みしめると野菜の甘味と風味が口の中に広がる。最初は野菜がメインの餃子だ。
しゃきしゃきした歯ごたえがいい。中にきのこが入っていて噛んでいるときのこの旨味と香りがやってくる。飲み込むと香草のような爽やかさを僅かだが鼻の奥に感じた。
ジュジュの分は小皿にとって、上からタレを数滴垂らして食べさせる。
《・・・・・》
そんなに好みではないみたいだな…やはり肉がいいということか。でも、これはこれで悪くないと言った感情もあるみたいだ。もっと食べると言ってきた。
野菜の味にも慣れてきたようだ。いい傾向だと思う。
焼き餃子を食べていたら次に水餃子が運ばれてきた。深い器の中にゆで汁が張られその中で光沢を放ちながら餃子が浮かんでいる。
レンゲのような深めのスプーンでゆで汁を切りながら掬い上げそこにタレを数滴垂らして口の中に入れる。餃子はチュルンとした感触を生み出しながら舌の上に滑り込んできた。
噛みしめるともちもちとした噛み応えを返してくる。さっきの焼き餃子より厚めの皮にしている。
そんな皮を破ると中から旨味の詰まったスープがジュワッと溢れてくる。出汁の味と豚肉と白菜の甘味と旨味が混ざり合って皮の味が強化される。少し遅れてスパイスやしょうがの香りと刺激が感じられて臭みと油のしつこさを軽減してくれる。
ん? 何か入ってるな…
タケノコのようなシャクシャクした歯ごたえの物が入っていた。それがもちもちペニペニした食感にアクセントを与えてくれて楽しい。
ジュジュもこれには満足したようで舌で掬い上げるとほとんど噛まず飲み込むようにして次々と胃の中に納めていった。
次の皿が運ばれてくると皿の上にはかりんとうまんじゅうのようなきつね色の丸っこい物体が乗せられていた。これが揚げ餃子なのだろう。
随分と形が違う…
箸でつまんでタレにちょんとつけて中程にかぶりつく。
―サクッ…
パイ生地のような重層的で厚みのある、サクサクとした食感の皮だった。見た目だけではなく皮の製法もだいぶ異なるらしい。
生地の中身は先ほど食べた水餃子と一緒の物だ。生地が肉汁を閉じ込めていてかみ切るとなかからとろっと溢れてくる。内側の生地は肉汁を吸っていて外側とは違った味と食感になり、生地と餡の一体感が増す。味と食感のバランスが取れた逸品だ。
いや… まてよ…
中身が一緒かに思えたがどうにも味付けが違うようだ。こちらの方が味が若干濃い。タレをつけずに食べた方がいいのかも知れない。
試しに丸ごと一個、そのまま口に放り込んで食べてみたがどうやらこれが正解のようだ。好みの差はあるのだろうがこの方が外の皮がパリッとしたまま食べられる。
一口で食べれば肉汁が外に漏れ出ることもない。サイズ的に丸ごと口に入れて多少余るぐらいだ。食べやすいサイズだと言える。
冷めないうちに、サクサクの食感が失われないうちに次々と口に放り込んでいく。熱々の肉汁が口の中を刺激してそれがなんだか心地良かった。
揚げ餃子も残り一つのところで蒸し餃子が運ばれてきた。フルカヴントでは蒸籠ごと運ばれてきたがここでは皿に移して提供するスタイルだった。
大きな蒸籠で一度に蒸しているのだろう。
皿の上には蒸したキャベツの葉が敷かれその上に餃子が載せられている。皮は透き通った感じで中にある海老の赤みが透けて見えていて見た目に華がある。
箸でつまんでみるとぷにぷにとした感触が伝わってきた。これもまた別の種類の皮を使っているのだろう。
タレにつけて口に運び歯で圧力をかけていく。ぷにんとした感触のあとにブツンとした抵抗を残して千切れ、中の海老がプリプリした食感を返してくる。
味もさることながら食感が楽しい料理だった。
最初の注文分を平らげる前に追加で何種類か注文してその日の夕食を終えた。
家に戻ると今後の予定を考えていく。




