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機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー  作者: 井上 斐呂


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301/333

第301話 新生活 x 準備①

天気のいい休日は家族揃って庭でBBQ…そんな感じのイメージだ。


ジュジュとふたりだけではあるがなんだか楽しそうだ。やってみることにしよう…


ただ、ここは周りに狩人の多い閑静な住宅地でもある。庭でBBQってのは常識的にありなのか判断がつかない。


ガレージの中でやるか… 煙は空術でどうにでもなりそうだ。今は空になっているからスペース的にも後始末的にも問題ない。


腹を決めると早速、一階に降りて準備を開始する。


折りたたみのテーブルと椅子を設置して食事が出来る場所を作ると炭焼き台を出してそこに炭を入れ魔術で火をおこす。


それなりに煙が出てきてガレージ内に薄らと煙が充満していった。俺もジュジュも酸素的には問題ない。目や鼻がやられることもないのだが料理が見えなくなると食事が楽しくなくなってしまう。


想定通りに対処しよう


換気扇を回してシャッターを三面とも少しだけ開ける。空術を用いて大量の空気で煙を薄めながら排出させていけば火事が起きていると誤解されることもないだろう。


熱源の用意が出来たところで焼き網を上に乗せると早速食材を焼いていく。


タレに漬け込んだ肉を網の上に並べる。俺が今までに狩ってきた魔物の肉だ。面倒だからいろいろな種類の肉を混ぜ込んである。


炭から発せられる遠赤外線で肉が焼けていきいい匂いがしてくる。


それに釣られてたのかジュジュが二階から降りてきた。肉を焼いている俺に近づくと遠慮がちに頭をスリスリしてくる。


《待っててね 》


肉を焼く手が踊る。トングを使って肉をひっくり返していく動きが自分でも大袈裟なものになっているなと自覚出来る。はやる気持ちを抑えきれず無駄に何回も返してしまうのはご愛敬だ。


ただ肉を焼く作業をこんなに楽しいと感じてしまうのは何故なんだろうか?


しばらくして肉が焼き上がった。トングから箸に持ち替えて皿に盛り付けていく。今の肉体なら食中毒菌も問題ないのだが地球でやっていた習慣から自然とそうしてしまう。


そもそも、魔物にそう言った菌はいないんだったか…


こう言った地球からの習慣をなくしていかないといつか突っ込まれるかも知れないな。とくに地球では合理的なことがこちらでは不合理になってしまう様なことには注意が必要だ。


うっかり説明までしてしまったらおかしな人物として見られる。


試しに生肉を掴んだトングで焼けた肉を掴もうとする。しかし、なんだか手が止まってしまう。


抵抗があるな、気持ちが悪い…


意識するとより抵抗感が増していく。


一度染みついた衛生観念をゼロベースから見直すなんてことは並大抵のことではないのかも知れない。ちょっとやそっとでは直せそうもない。


乳幼児期を過ぎればほとんど感染しなくなるんだったかな…それでは俺の衛生観念とずれが生じて当然か… 旧文明からの習慣に期待したいところだがどこまで再現なされているのかわからない。


いや、まてよ… 魔石障害の所為と言うことにしておけばやり過ごせるのか……?


万一の時にはそうしよう


頼れそうな知り合いがいないところに来たから再びこう言ったことを考えてしまっている。


また最初から、溶け込んでいく作業をしていくんだな…


自分がレイゼルトに築き上げてきたものの大きさを実感した初日となった。


~~~~~~~~~~~~~~~~


ん? ………ああ、そうか


目覚めると自分が今何処にいるのか分からなくなって困惑した。見覚えのない天井がみえたからだろうか?


旅の間、ホテルの天井を見続けてきた時は感じなかったのに、今こうしてこんなことを思うのは使い慣れたベッドと枕のせいかもしれない。


ジュジュは俺の隣で寝ていたのだがいつの間にか俺は壁際ギリギリに寄っていてジュジュもベッドから手足がはみ出している。部屋も広くなったことだしもっと大きなものに買い換えるのがいいだろう。


とは言え今日からすぐにでも仕事の準備に取りかからなければならない。仕事に熱心、真面目な狩人。そういったイメージをここでも作り上げていく。


朝食を取って出発する準備を完了させると北へ向けてトライクを走らせていく。


目指す場所は要塞都市ブラッセンだ。北部大魔境と人間界との境界部に建設された街で人口のほとんどを狩人と騎士が締める戦闘に特化した構成になっている。


俺にとっては正体バレのリスクもあるが凄腕の狩人で通ってきた人間がそこに行かないという選択肢は無いだろう。


現地に行ってみないと分からないこともある。何も分からないうちから尻込みするのはよろしくない。


頭の中にある不安を片隅に追いやってこれからの狩人生活をイメージしていく。前向きに考えないと楽しいことも楽しくなくなってしまうのだ。


また、魔境の中に拠点を作っていくんだな…


秘密基地を作ることが嫌いな男子がいるだろうか? いや、いるはずがない(疑問反語)。もっと言うと女子だって大半は好きだろう。


ワクワクしながらあまり車通りのない道を進む。


タルタインからブラッセンへの高速道路は開通していない。需要があまりないのと万一の時に魔物の通り道になることを恐れてのことだという。


だが下道も片側二車線はある広い道路だ。快適に進める。


基本的に何もない道路だが、途中で何度か大きな建物の前を通り過ぎることとなった。この道路を管轄する公団と騎士団が同居している施設だ。


魔物が出た時とか道路が破損した時とかあそこから出張ってくるんだろうか?


そのおかげでこんな辺境の道路でもひび割れも凹凸もなく、タイヤは滑らかに転がっていける。


税金を払っている甲斐があるというものだ……もちろん感謝の念もあるが


トラブルもなく三時間ほどでブラッセンが見えてきた。だが、街よりも目を引くものがある。


街の背後に巨大な建造物が見える。大きな壁だ。


高さは四十メートル程ある。長さはどれほどのものか目視では全容が見えなくて見当もつかないが、東西に長く延びていて完全に大魔境と人間界を隔てていると聞く。


西はラズラン沙漠との境界を作っている山脈と繋がり、東は帝国と共和国を隔てる山脈と繋がっているのだそう。三百キロぐらいはあるんだろうか? 厚さも七メートル程もある。とてつもないスケール感だ。


正式な名称はないが一般的に断崖壁と呼ばれているらしい。


街自体は外壁で囲まれていると言うこともなくそのまま入っていける。外縁部のまばらな住宅地を抜けて中心部へと入り狩猟ギルドへと到着する。


こちらもタルタインのギルドと同じく、なかなか古びた厳めしい面構えをしている。


こちらの方が出来てから四百年ほどと新しかった。ややデザインがシンプルなのはその為だろうか?


中に入り魔境についての情報を集めようといつものように手続きを行っていく。


「初めまして。レインさんの担当をしますコンラッドと申します。よろしくお願いします 」


「よろしく頼む 」


担当になったのはキリアムと同じく男性の職員だった。年齢は地球で言うと三十才ぐらいだろうか? キリアムより年齢はだいぶ上だろう。


「早速だが狩り場の選定を行いたい。相談に乗ってくれ 」


「かしこまりました。少々お待ちください 」


コンラッドは少し席を外すとすぐに戻ってきた。手には紙が丸められた大きめの筒がある。


それを机の上に広げると北部大魔境の地図が表れる。やや癖がついていて手を離すと丸まろうとしてしまう。


それに俺が手を当てて魔力を流すと木術で真っ直ぐにしてやる。


「今のは…木術ですか 」

「そうだ 」

「そんな魔術まで使えるんですね。驚きました 」

「うむ…まあな 」


どうやら俺が使える魔術の一部ぐらいしか伝わっていない様子。ギルドと言え、何でもかんでも情報を集めていると言うことでもないらしい。騎士団の方は分からないが似たり寄ったりかも知れない。


少し安心…か?


軽い遣り取りのあと魔境の現状について説明を聞いていく。


主に他の狩人や騎士団がどこら辺で活動をしているのかについてだが、それは地図上に色分けされて結構詳細に把握されていた。これだったらかち合うことなく選定することができそうだ。


コンラッドの説明を聞きながら地図に目を通していた俺だったが地図上の魔境の中に妙な記号を発見した。説明を遮って聞いてみることにする。


「すまない、これは一体何だろうか? 」


指をさして聞く。魔境のけっこう奥の方に大きめの円が描かれているところだ。色分け的には騎士団関連の施設に当たるらしい。ブラッセンから真っ直ぐ北に行ったところにある。


位置的には何かがあってもおかしくない様に思えるが大きすぎる。もしかしたら誇張して描いているのかもしれないが他の施設とかが結構正しい縮尺で描かれているので違和感があった。


「やはり気になりますか… 」


コンラッドは少し得意気な笑顔を見せる。よくぞ聞いてくれたって感じがあるな。説明したかったんだろう。俺が聞かなくてもいずれ説明はしたかも知れないがコンラッド的にはこの流れでこそ説明のしがいがあるって感じだな。


「これは帝国が誇る要塞、アルバインです 」


声を弾ませて説明が始まる。


「魔境最奥の魔物に対抗するために建設された巨大な大きさで直径が三百五十セウスもあるんです 」


へぇ、これで原寸大なのか…


「これが出来たおかげで断崖壁まで強力な魔物が来ることがなくなったと聞いています。完成したのは二百年程前になるそうです。これの存在が魔境に対して圧力をかけることで今の均衡を保っていると言って過言ではないでしょう… 」


その後も解説は続く。


内部がどうなっているのかは極秘となっていて騎士団でも中に入れるのはエリートだけなんだとか。詳細を知る人間は一般人では誰もいないが狩人達のウワサによると帝国で開発された最先端の技術はここに持ち込まれてテストされるんだとか。


狩人達は規則上アルバインに接近することは出来ないが遠くからでも妙な魔力波動を感じたり、高速で空を飛ぶ巨大な何かを見たとかいう話はかなりあるという。


いろいろ話してくれたが俺が気になったのはそのぐらいだ。あとは適当に聞き流した。


その後も地図を見ながら気になったところを聞いていく。


ブラッセンからアルバインへと真っ直ぐに伸びるラインとその周辺は狩人が近づいてはならないエリアだそうで、それ以外なら騎士団が管轄するエリアは立ち入って大丈夫らしい。


それなら他の狩人の縄張りさえ気に掛ければ、あとはわりと自由に選べそうなんだがどうしたものか…



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