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異世界ふとん至上主義!  作者: 一人記
第二章

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第百四十五話『血の権利』



「はぁ、無関係......とな?

君、話をちゃんと聞いていたのかな?新学寮長君、子奴の母親はこの国を揺るがした犯罪者なんだがね?」


どうやら、私の突発的に出てしまった言葉を聞いて驚いてしまったようだ。


今まで聞いていた話の流れ。


それから察するに、イヴさんの"現お父様"らしき目の前の国主様、彼は『何言ってるんだコイツは?』と言ったような目で私を見詰めている。どうやら呆れているらしい。


明らかに見下しているような様子だ。

その、黄色い瞳の奥にある深い落胆が聞こえてくるかのような声色だった。


「......はい、ちゃんと聞いてましたが?

イヴさんのお母様が、貴方との契約を破り国に不利益を齎したって話ですよね?」


「あぁ、そうだ。かつての国に在籍していた優秀な研究員の貴族一人を拉致し、あろう事か国に対する交渉材料として使用してきたのだ。

曰く、『身分の差』がどうの『市民の権利』がどうの等と......。

全く、立場を弁えない平民らしい、訳の分からない要求だったさ。笑えるだろう?」


なるほど。

つまりは18世紀に起こった"フランス革命"、

国民の人権を求めた革命運動の走りの様なものが、この国で始まっていたという事なのだろう。


発端となった出来事は違うのかもしれないが、有名な商家の人間、それに類する身分の低い貴族......


そして、元々平民の身分であったイヴさんのお母様のような方が、騒ぎの"中心"となって革命を起こそうと画策したのだ。


......しかし、だ。

力を持った魔導士は、この国では取り立てて上級貴族の人間に多い傾向がある。


というか、この異世界中全てという規模で見ても、血筋というのは魔法という未知の力の才能を大きく左右する要素の一つなのだ。


例えば、マギア家の血を受け継いでいるイヴさん然り、シーアシラの元締めであるゼーヴィント家の娘であるルーチェさん然り、ことこの世界において魔法の才能というのは遺伝する可能性が限りなく高いのだろうと推測することが出来る。


だからこそ、特に魔法を教える学園を中心として廻っている魔導学園都市マナレルムでは、

イヴさんのお母様が提唱した様な『そういう思想』は到底受け入れられないモノだったのだと思う。


『全ての人間に与えられる平等な権利』


───それを追い求める者が、

当時の貴族達や目の前の国主様にとっては、自分たちの地位を貶めようとする恐ろしい集団のように見えてしまっていたのではないだろうか。

私の推察ではあるが、多分、八割方は合っていると思うのだが。


......まぁでも、それはそれとしてだ。


「ですが、やはりそれとこれとは関係ないですよね?

血縁関係はあれど、イヴさんが犯罪行為に加担した訳でもないでしょうし。

当の本人であるリゼリアさんは......もうここにはいらっしゃらないんですよね?」


「はぁ、居はしないが。だがな───?」


「じゃあ、関係ないじゃないですか!

──そうですよね?イヴさん!?」


「えっ......あ、うん。

そうだけど......でも......」


「いや、でもも何も無いです。犯罪に加担してないならイヴさん自身に罪はないでしょう!

それに、イヴさんにはこの人たちが大切にしている"高貴な血筋"とやらも流れていますし、国の中核として働いている実績があるじゃないですか!?

その時点で、貴方達にイヴさんのことをとやかく言う権利は無いはずですよね?」


隣にいたイヴさんに問いかけて、帰ってきたおどおどとした言葉を聞き私は堪らず言葉を発する。


見てられなかったのだ。

いつもの勝気のあるイヴさんとは、全くもって別人のような様子だったからだ。


「でも、私は、お母様の娘だから......」


俯いて呟かれた言葉。

それを聞いて、私は静かにイヴさんを見詰める。


......確かに、イヴさんは犯罪を犯してしまったリゼリアさんの娘なのかもしれない。


この、目の前の国主様や他の古参貴族が大切にする高貴なる血という分野においては、平民の血が流れた身分の低いモノなのかもしれない。


しかし、それは逆に考えれば、イヴさんはもう半分はマギア家の正当な血が流れている唯一の人間ということになる。



"焔の槍"の『フィリオン家』。


"蒼き月"の『ゼイアン家』。


"黒樹の(うつわ)"の『フェノゥ家』。



そして、"学園の主"であり、

目の前の国主様の家名である『キルシュタイン家』。


最後に、初代の"マナレルム歴"から血を残している最古参貴族である『マギア家』。


この、魔導学園都市国家マナレルムにおいて、上記の各五つの貴族家が、"五大貴族"として国の運営と外交を取り纏めている現状があるのである。


学寮長になってから()()()のついでに調べたが、どうやら本当に国の貴族たちと民衆の間に深い確執が存在しているようだ。


 だが、イヴさんの件に関していえば、単純に血や身分を大切にする古参貴族たちにとってはそれだけでアドバンテージとなると思うのだが......?



「はははっ、そうだよなイヴ?

だから存外に言ってやっているのだろう。

我が愛すべき愚娘のお前に、"邪魔だからこの件に関わるな"とな?」


「っ───。」


アーレント・キルシュタイン。

この国の国主様であり、自らのお父様である彼に睨みつけられてイヴさんが萎縮する。


ぐっと握られた拳は、私側から見ればわかるように大きく震えており、顔からは明らかな動揺が見て取れるほど血の気が引いていた。


「血や立場、そこにある身分は簡単なことでは変質しない。魔法の才と同様に、争えない物なのだから。

そして、一度犯した罪は、それから先何度でも起こり得る信頼度の揺らぎとなって現れるものなのだよ。」


国主様が自らの黒スーツの襟を正しながら、私に向けて刻々と語る。


「だからこそ、貴様の様な雑種に触れることを許容することは出来ぬのだ。新学寮長君よ?」


「......つまり?何が言いたいんですか?」


「つまり、愚娘が貴様と関わることで、我が家の"箔"が落ちると言っているんだ。

あまり出しゃばらないで、今回の裁判で大人しく負けて貰えると助かると言っている。」



......なるほど。


つまり、これ以上イヴさんに迷惑を掛ける前に、この裁判で大人しく負けろと。



「私に、死んでくれと言いたいわけですね。国主様は。」



「あぁ、そうだ。分かっているじゃないか。

このまま何もせずに裁判に負けて、手早く処刑されてくれると有難いのだよ。

全く、新学寮長君は頭が小さくて会話が出来ないとばかり思っていたが、どうやら小鬼(ゴブリン)程度の理解力はあるらしい。助かるよ。」


ハハハハハ、という国主様の笑い声が響く。

随分と下卑た笑みだ。きっと私のことが心底嫌いなのだろう。


その黄色の瞳で見下しながら、国主様は続けざまに口を開き始める。


「それと後、先程の罪についての話だが。

私としては、大いなる罪を犯した者の直系が"後に続く者"として罪を禊ぐというのは、断然有り得る話だと思うのだがね?


罪を犯した者の跡継ぎが、その罪の後始末を継がなくて誰が継ぐというのか?


私としては、其方の方が甚だ疑問だがね。

新学寮長君よ。」




「......ふむ、なるほど?

罪は犯した本人ではなく、その"繋がり"にあると。国主様はそう言いたいわけですね。」




私の言葉を聞いて、イヴさんが俯く。



それを見て、目の前にいる男がにやりと笑った。





「罪を犯した者共は、その罪の意識に苛まれて、罪を償って生きていくものなのだよ?

その、罪の根源が消え去るまで、人の悪意というのは続いていくのだから。当然だろう。」



「......」



「......なぁ、イヴ。

お前は、お前の今は亡き母親の代わりとして、私と国に償う運命にあるのだよ。わかるだろう......?」




「......」




───あぁ、やはり駄目だ。





───色々ごちゃごちゃと考えて冷静になろうとしてみたが、やはりコイツは駄目だ。





私はすぅと息を吸い込んで、自分でもわかるほどに据わる目を静かに揺らしながら立ち上がる。


そして、そのまま国主様の元へ歩き出した。



今回の原因である貴族の人ぶん殴り事件───

私が自らの感情に任せて動いたせいで起きてしまった今裁判の事件を省みて、冷静になろうとしていた。


この国では、現代の思想は異質だ。


だからこそこんな状況になってしまった訳だし、結果的に私の行動のせいでイヴさんやアヌの立場を悪くしてしまったとさえ思っていた。


いや、まぁ普通に殴ったのは私が悪いけども。

赤髪くんをボコボコにしたのは、完全に120パーセント私の責任でしかないんだけどもだ。


それでも、血や身分の考え方に相違があるのは、この世界の常識があって私がそれを理解していないからだと思っていたのだ。




だからこそ、自重しようと思っていた。





「ほら、行くぞイヴ。早くしろ。」


「っ、ですが、お父様......。」


「早く。私は時間が惜しいのだ。

無駄な労力を使わせるなよ、愚娘。」


「は、はい......分かりました......。」



しかし、そんな事をしている場合ではなかったのだ。



だって、今、目の前で、

私の大切な"友人"であるイヴさんが理不尽に罪を背負わされている。


アヌが自分を殺すことを強いられている。



───私の友人たちが、他人の思想によって、

"この世界の常識"によって自由を奪われて蔑まれようとしているのだ。



『ですが、お父様......。』


『あの、わたしは大丈夫だから───』



イヴさんも、アヌも、

あんな顔で俯いて良い人間じゃない。



あんな震えた声で笑っていい人間じゃない。



あんな悲しそうな目で世界を見つめていい人間じゃない。




───この世界の常識は、間違っている。




少なくとも、私の尊敬すべき大切な友人たちが蔑まれているのだけは、声を大にしておかしいと言える異質なものだと私は思うから。








───だから、



ここで立ち上がらない訳にはいかないだろうが。私。






「あの、国主さん。

少し、私と賭けをしませんか?


この裁判の勝敗、勝った方が、敗者に一つルールを定められるということで。」




「......はぁ。賭けとな?

貴様は今から死ぬ身分にあるのだが、そのような危険な賭けをする利益が私にあるとでも思って───」




「......私の翻訳能力。

それと、もうひとつ固有スキル。

『ふとん召喚』という能力には、特殊能力の着いた物質を無尽蔵に生成できる力があります。


───負けたら、無条件でそのスキルを使い、国の奴隷でも何でもやっていいですよ。」


「......ほう?」「な、ながみちゃ───!?」







「けれど、その代わり、貴方が負けたら───」









「この国の制度について。

今一度、御一考のほどをお願いしたく存じます。


......というか、国の身分制度から何から何まで、改定してイヴさん達に謝って貰いたいです。


どうでしょうか?

負けるのが怖いから受けられませんかね?国主様?」




そう言って、私はにこりと笑って。


驚いた様子のイヴさんを庇うようにして、国主さんの目の前に立ちはだかったのだった。





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