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異世界ふとん至上主義!  作者: 一人記
第二章

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第百四十四話『真理の魔女』




齢一桁にも満たない幼少期。


私が、まだ心も体も中途半端で、何もかも両親の真似事をして生きていた昔の話だ。



思えば、私は子供として。


そして、魔導士として。



とても良い環境に恵まれていたんだと思う。



だって、自らに与えられた子供部屋。

幾つもの魔導具が立ち並ぶ部屋の本棚を見れば、そこから溢れ出るほどに積み上げられた色とりどりの魔導書達。


子供用の分かりやすい注釈がなされた、可愛らしい挿絵のある教本が私を出迎えてくれたのだ。


そして、そんな魔導書を読み込んで。

読了した時に、両親から私に買い与えられていた"ご褒美の玩具たち"。


それらは、大抵の場合、

一つ十万ゴルド以上もする高級品の魔導具......子供魔導士専用の玩具に見せかけた魔導具で、魔力の操作を練習するための訓練用魔導具だったりしたし。



......だって、私は"マギア家"の一人娘だったから。



───先々代の"五賢の紫"。


 私の実の父である、

『レオハルト・マギア』様。


当時、かのフィリオン家が『フィリオン=ウォルフ』学生寮を治めていた時代の学寮対抗戦において、他学寮全ての代表を一人で打ち負かしたという逸話を持つ傑物。


"幻想戦闘領域(セクターズ・イデア)"内の戦闘において、無類の強さを誇っていたという第二十九代『五賢の紫』......"レオハルトお父様"。


それと、他国から来た優秀な魔導士である『リゼリア』母様との間に産まれ、私は"マギア家"の長女......


つまり、マナレルムでも長い歴史を持つ"五大貴族"の跡継ぎという称号と共に、"イヴ・マギア"の名を貰ってこの世に産まれ落ちたのだ。


だからこそ、とうぜん私のお父様もお母様も、

私の魔導士としての、ひいては五賢の紫としての大成を願っていたし、その為に時間もお金も惜しまなかったのだろう。


そして、そこには愛情も含まれていた。


私は将来有望な魔導士として、

少々不自由ながらも厳しくも暖かい家族と、大いなる魔法の知識に囲まれながら豊かな幼少期を過ごしていた。


私たち家族は、誰よりも何よりも幸せな家庭だったと、自負できるぐらいには恵まれた環境だった。




───そう、幸せだったのだ。


"レオハルト父様"はとても生真面目で、魔法研究一筋の仕事人間ではあったが、偶にあるお休みの日には家族との時間を大切してくれる人だった。


私との魔法訓練には、忙しいながらも顔を出してくれていたし、幼い私が眠る時には、いつも自分が大好きな魔法研究の話をして寝かしつけてくれていた。



そして、"リゼリアお母様"は五賢の仕事で忙しいお父様に変わり、私の教育を熱心に見てくれていて、

優しいながらも時折厳しく、娘が優秀な魔導士となれるように魔法を教えてくれていた。




二人とも、

私にとっては魔法の師匠のような人達だった。


大切な大切な私の師匠であり、家族だったのだ。






そう、全てはこの国のために。





全ては、魔法という真理を追い求めるために。









私たち家族は、それだけの為に、心からの忠誠を国に誓っていて───









『......お父、さま......?』







そして、私のお父様は。



レオハルトお父様は......

私の目の前で破裂して死んだのだ。





自身の固有スキル、

魔力循環の出力を操る『星辰の導き』によって、自らの身をぐちゃぐちゃにさせながら。目の前で。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 レオハルトお父様が死んでから。

そこからの人生は、酷く錆び付いたものだった。


私たち残された家族、リゼリアお母様と私は、

当時当主であったレオハルトお父様の死を境に"マギア家"の家名を剥奪されたのだ。



何故ならば、私達に平民の血が混ざっていたから。



『リゼリアお母様』は、貴族ではなかった。

"レオハルトお父様"のような純マナレルム国民の貴族ではなく、他国から来た平民の魔導士であったから。



これ幸いにと、他の古参貴族たちに迫害を受けたのだ。




『ごめん、ごめんね、イヴ......。私のせいで、ごめんね。』



そう言って、私の肩を抱きながらすすり泣く母の姿を、私はどんな瞳で見つめていたのだろうか。



今となっては分からない。



だがしかし、それが絶望の表情であっても、悲哀の表情であっても、私たちが明日を生きていけないような状況にあるのは間違いがなかった。





だからこそ。




だからこそ、お母様は"あの話"を受けたのだろう。






『平民の魔導士、リゼリア。"真理の魔女"よ。

私が、お前らの身分を保証してやろう。必要ならば、政略結婚という形で我が家名をくれてやってもいい。


その代わり───』



取り潰しとなったマギア家の一室。


その一室で、深々と頭を下げるお母様と、酷く下卑た笑みを浮かべて頭を下げる母を睥睨するアーレント。



その、鋭い黄色の瞳と、

目の前にいる国主様の瞳の色が繋がり記憶の中でフラッシュバックして......思わずびくりと肩を揺らす。


「はぁ。イヴ・マギアよ。

お前は、自らの立場を理解しているのか?」



「あの時、私とお前の母が交わした契約。

それによって、お前は既に私の姓を受けているのだよ。

それを理解していながら、自らの罪と立場を理解していながら、私に逆らうというのかね?」



「それは、そうですが......。っ......、でも───」



『でも、私は、ですが、───』


あぁ、何度も繰り返したフレーズだ。


幼少の頃、私がお母様と共に養子として国主様に拾われて、そこから私の生活はまたも一変した。



───お母様は"第三十代目の紫"となった。


キルシュタイン家の当主。

アーレント・キルシュタインと婚約することによって、お母様の身分は平民から貴族のものへと復帰した。


そうなれば、最早、お母様が五賢の一人となるのは確実だった。





『真理の魔女』





当時、"リゼリアお母様"の活躍を見た魔導学園の生徒たちが、恐れと畏敬を含めて呼んだ"蔑称"だ。




 魔法学、基本の四属性『火・水・風・土』と、


『光・闇』の二属性を組み合わせた六属性魔法の扱いにおいて、当時の魔導学園に私の母以上に魔法を扱えた魔導士は居なかった。




 特に『光と闇』。


この二属性とそこから派生する『空魔法』について、私のお母様"リゼリア様"は、他を圧倒する天賦の才を示したのだ。



『───魔導士、リゼリア。


其方を全ての魔法を極めし"真理の魔女"として、魔導学園の徒となることを認めよう。これからも励む様に。』



そして、それは当時。

歴代でも最強と謳われた五賢の紫である、"レオハルトお父様"も含めての話だった。


お父様の魔法戦闘においての強さは格別であったが、

こと魔法の扱いにおいては"リゼリアお母様"の右に出る者は居なかった。




───何故ならば、お母様には。


とある"特殊なスキル"が備わっていたから。





「お前の母、リゼリア・キルシュタイン・マギアは、確かに優秀な力を持った魔導士だったさ。


魔導の真髄に触れようと、当時の魔導学園にて必死に研鑽を重ねて、全ての既存魔法を研究・究明し、

そして現魔導学園においての基礎魔法理論の大部分を創り上げた稀代の天才魔導士......



物事の真理を見通すという『勤勉』の"天啓(エメト)スキル"によって、

低迷していた"魔法(まほう)"と"(スキル)"についての違いを解明した『真理の魔女』。


それが、お前の母である、リゼリアという女の特異性であり、私がお前たち家族を我が家督に迎え入れた理由のその全てだった。」




そう、お母様は天才だった。


努力できる天才だった。



たとえ、お父様が数十万人に一人という"固有スキル"を持った魔導士だったしても、それを努力と才能で上回ってしまうのがリゼリア母様だったのだ。



"天啓(エメト)スキル"という、

神により与えられし祝福のスキル。



特に、その中でも『勤勉』という天啓スキルは、第一次(ノーマル)スキル"努力"、第二次(グレート)スキル"尽力"を進化させることによって発現する特異なスキルであり、世界に一人しか持つことが許されていない特別なスキルである。



だからこそ、"平民"という身分であるリゼリアお母様と、マナレルムの『最古参貴族』である"マギア家"のレオハルトお父様が婚約を認められていた訳だし、

お父様が死ぬまでその他の古参貴族共に軽い嫌がらせを受けながらも、私たち家族が迫害されなかった理由となっていたのだ。



そして、私たちを政略結婚によって抱え込んだアーレント国主様(おとうさま)の思惑として、その力を有効活用しようという考えがあったのだろう。



「だというのに、あの女───」



しかし───。



「......あの魔導学園の全てを覆した"犯罪者"は、私との契約を裏切って外界へ逃げ出したのだ。


魔導学園内に潜んでいた入学組の平民達数名と、

私たち貴族側の人間を捕え反抗し、国に下克上をするという企てを決行した後......


お前の母親は、お前を置いて逃げ出したのだよ。


まさかその事実を、お前の母が犯した罪を覚えていない訳ではあるまいな?イヴ?」




その言葉を聞いて。


目の前にいる、"アーレントお義父様"の言葉を聞いて、思い出される記憶。




『ごめんね、ごめんねイヴ......。

私を、貴女を置いていく私を、どうか許して頂戴......。』




......なんでも、お母様が捕らえた人間というのは、とある古参貴族の研究者だったらしい。



 お父様の固有スキル、

『星辰の導き』について"研究"していた、お母様と共に魔法と魂の研究を大いに進めた率役者となった魔導士だ。




───多分、復讐だったのだろう。





父を殺した研究者を。




この国を、お母様は許せなかったのだろう。







「新学寮長の件は、こちらで処理をする事が決定している。お前の介入する余地はないと言っているのだ。

全て、私と私の元にある貴族達の意思で決定付けられる。それは確定事項だ。」




だからこそ私は、足掻いて足掻いて足掻いて、




「ですが......ですが、アーレント、お父様......。」




息を吐き言葉を紡ぐが、




「どうか、どうか一考の余地をお願い頂けないでしょうか......。」




その先に未来はないと、




「私は、いつも。

いつもこの国の為を思って、行動しているのです......」






心のどこかで、

理解させられてしまっているのだ。







......だって、私は"真理の魔女"なのだから。






「ですから、どうか。私が思う国のために、一考の余地をお願いしたく思っているのです......。」









この願いに対する、

世界(おとうさま)の答えは知っているのだ。







『おとうさま、お父様、聞いて下さい。


私、この魔導学園の財政書について、間違いがあるのを見つけたのです......!




この、○○貴族家の記載が、従来の納税処理の規律から外れていて───』






「......はぁ、だから......。


存外に黙って見ていろと言っているのが、分からないのかと聞いているんだがな?︎︎我が愚娘よ???


平民風情のお前が、父親を亡くし貴族として没落したのを見かねて、情けで私の養子として迎えてやったというのに......



その、お前の平民の母譲りの、"真理を見通す"とかいう足りない頭で、今一度よく考えてみると良いのではないだろうか?



我が愚娘の"五賢の紫"、"真理の魔女"、"イヴ・キルシュタイン・マギア"よ???」






そう発せられる"アーレント国主様(おとうさま)"の言葉を聞いて、瞳を見て。






「それは、そうです......が......」






私は、どくどくと鳴り出した鼓動を抑えるようにして、目線を下に下げて歯の奥を力強く噛み締めて───






「......あの。すみません。


なんか、さっきから国主さんがごちゃごちゃごちゃごちゃ言ってる内容......私怨すぎませんか?


"国の貴族捕らえて下克上!"とか、"約束した契約を無下にして逃げ出そう!"とかは、流石にリゼリアさん?が悪いとは思いましたけど。


......でも、それとイヴさんって───」









「全くもって、

無関係じゃないですかね?国主さん???」











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