【以下改訂中!注意っ!】第百四十三話『学園の主』
「......やぁ、新学寮長殿よ。
そんな何もない場所で後ろを向いて...一体誰と話してるんだ?私も、是非とも聞かせてもらいたいのだが?」
「えっと、さっき上で裁判官の隣に居た方ですよね。
私はいまフラリアさん以外とは誰とも話していませんでしたが......どうかしましたか?」
ちらりと後方を確認して言葉を発する。
さっきまで後ろに居たイヴさんは、もう既に姿を消していた。
恐らく、いつも通り瞬間移動系の能力か魔法、もしくは存在を隠匿する能力なんかを使っているのだろう。
私はその様子に内心ほっとしながらも、スーツの男......銀髪黄目の男に返事したのだ。
「はぁ、誰とも話していませんでした、ねぇ。
その割りにはお二人共会話が断片的だったように思いますがね。」
「......まるで第三者の誰かが。
貴方達の間にでも居るかの様でしたよ。新学寮長殿?」
はー、なるほど。合点がいった。
イヴさんが見つかるなんてヘマする訳ないと思ってたが、こいつ元からこっちに意識割いてたのか。
イヴさんの発した声は聞こえてないっぽいし、談合の会話も聞かれてないけど、しかし私たちの会話は筒抜けだった。
だからそれで異変に気がついて、こっちにやってきたと。
「はは、気のせいじゃないですかね。
この場には、現に私たち以外には誰もいない訳ですから。」
なら、まだ誤魔化せる可能性はあるな。
そう考えて、私は目の前にいるキルシュタインという男ににこやかな笑みを浮かべて、話を逸らそうとした。
しかし、
「うーんそうですか?
ですが......やはり違和感があるんですけどねえ。」
───男の胸元に光る、赤の宝石。
薄らとした黒灰色のストライプで彩られている黒スーツの胸元を引き締めている、フリルタイの中央に鎮座しているそれを触りながら呟く。
「新学寮長殿の近辺から───。
魔法を発動した際の、微かな魔力の揺らぎを感じたのだがねぇ。誰もいないとなると、必然的に君が犯人となってしまうのだが。はてさて、どうしたものか。」
「っ......!」
こいつ、最初からそれが目的かッ......!
男の発した困り声。
その内容を聞いて、私は内心歯噛みした。
私の周囲で魔法発動の兆候があった。
それはつまり、私が魔法で逃げ出そうとした、または私を逃がそうとしている第三者がいるという事実の裏付けである。
「魔力の揺らぎですか。気のせいじゃないですかね?
私もフラリアさんも、信徒様達に捕まった時から"魔封じの枷"で拘束されてますし。
こんな状況で魔法なんて使えませんし、使いませんよ。私たち───」
「ははは、そうかそうか。
私の気のせいならば、良かったのだがね?」
そして、そんな私の言葉を聞いて。
男は私に返すように、にこやかに笑いながら───
「......それで、今、誰と話していたのかな?
私は只それだけを聞きたく、此方に伺った次第なのだが?」
突如として、スっと目を細め。
こちらを睨みつけて、確定した事実を突き付けるようにしてそう問い掛けてきたのだ......!
「......さぁ、そんな事を言われましても。
私としては、知らないと言う他ない程、心当たりがないのですが──。」
ヤバい。まずいことになった。
私は何とかしてこの場を乗り切るために、会話を何とか逸らそうとして視線を泳がせる。
「はぁ、心当たりがない、ねぇ。
仮にも国の学寮長ともあろう者が、私に欺瞞を働くなどあってはならないことなのだが───?」
しかし、男はそんな私の様子を嘲笑うように、更に険のある声で問い詰めてくる......!
───と、そんな時だった。
「はぁ、いいわよ......。
わかりました。降参しますわ、国主様。
ここには私が勝手にやって来ただけですから、新学寮長さん達に圧をかけるのは止めて下さいませんか?」
ふっと、瞬間移動をするかのようにして。
ほんの僅かな魔力の揺らぎとともに、イヴさんが私たちの目の前に現れたのだ。
その様子を見て、私ははっと息を飲んだ。
「ちょ、い、イヴさんッ......!?
あの、今出てきて大丈夫なんですッ......?!」
あ?ていうか、国主様って......?
「......え?あの人そんな身分高い人なんですか!?イヴさんッ!!??」「ぐっ、ながみちゃんそれ首ッ......?!」
思わず目の前に現れたイヴさんを掴んで揺さぶる。
いや、だって、気になるだろう!?
こうしてイヴさんが目の前に現れたこともそうだけど、今言った言葉......!
"国主様"という言葉が本当ならば、私の目の前にいる黒スーツさんはこの国のトップということになるのだ。
つまり国王である。総理大臣である。どうやっても軽視していい相手では無い。
だからこそ、私は慌ててイヴさんに駆け寄ったのだ。
「わかった、分かったから。
ながみちゃん。ステイ。とりあえず一旦落ち着いて話聞いてくれないかしら?」
「ですがイヴさん、国主様って一番偉い人ってことでそれで───!!!」
「......うん、うんわかった。分かったから。
オーケー、ながみちゃん。話がこんがらがるから一旦、暫くの間黙っててくれると有難いわ。とってもね???」
「あ、ハイすみませんでした黙っときます。ほんとすみませんでした」
額に青筋を浮かべるイヴさんの顔を見て、私はすっと冷静になって後ろに下がる。
その末代まで呪い殺されそうな据わった瞳を見て、私は一瞬で心が浄化されてこの世の全てがどうでも良くなったのである。怖い。イヴさんとっても怖い。
「うわぁ新学寮長さんソレ滅茶苦茶ダサすぎるw
普通に考えてそこで引いたら負けじゃね??圧掛けに弱すぎっしょ???w」
うん。隣でフラリアさんがくすくすと笑いながら私の事を煽ってきているが、そんな事はどうでもいい。
怖いものは怖いのだ。
私は逆らいたくないものには、逆らわない主義なのである。
という訳だから、私は大人しくお口チャックして、2人の話を聞くことにした。これは戦術的撤退である。保身とかビビったとかでは全然ない。ないったらない。
「ほう。
まさかお前が、逃げも隠れもせずに出てくるとはな、紫?」
そして、そんな私を他所目に話し始めるスーツの男。
会話を聞く限りアーレントという名なのであろうこの国の国主が、イヴさんに対し目を向ける。
「臆病で卑怯者のお前が、まさかこの私の前に姿を現すなど、一体どういう風の吹き回しなんだ?」
「えぇ、まぁ。今出ていかなければ、"アーレント様"があのまま二人のことを潰してしまいそうでしたから。それは、流石に見過ごせませんでしたわ。」
国主様の言葉を聞いてふぅとため息を吐くイヴさん。
その表情は貼り付けられた笑みで、しかしちらりと私たちの方を見て困ったように眉を下ろす姿は、いつも通りの世話焼きなイヴさんのそれだった。
「はぁ、なるほどなぁ。
お前は随分と新学寮長殿に肩入れしているようだ。マギア家当主であり、五賢の紫ともあろうお前が、なぁ?」
「はい、彼女の事は、私が誰よりも推しているという自覚があります。彼女には、それだけの価値がある。」
平然とした態度で呟かれたイヴさんの言葉に、思わず噴き出しそうになる。
イヴさん、私の事そんなふうに思ってたのか......?!
国主に対して引けもせず呟かれた言葉を聞いて、私は驚愕してたじろいていた。
普通に恥ずかしい。けども嬉しい。
「ちょ、新学寮長さんめっちゃ褒められてますよ?良かったっすね?wったあ痛たたぁッ!??」
そしてそんな私を茶化すようにして、隣のフラリアが肩を叩いてきたのでその手をつねって黙らせた。
全く、こんな状況で何をふざけているのか。甚だ看過できない精神性である。
そんなことを考えながら、二人のやり取りを見ていた。
フラリアさんもイヴさんもいつも通りだったから、私は落ち着いて気が抜けていたのかもしれない。
しかしそれも、次の光景を見るまでの話だった。
「......それに、です。
今回の暴動事件の件は、曲がりなりにも彼女を新学寮長に擁した私にも責任がある訳ですから。
彼女の監督責任者として、ここで出ていかなければマナレルム貴族としての面汚しだと考えました。
関係者である私が、彼女達の弁明をしなければ───」
───バチン。
と、会場に音が響き渡る。
そして、目の前にいたイヴさんが少し俯いて、赤くなった頬を抑えるように手を当てて黙り込んだ。
「少し黙れ。イヴ・マギア。
私は、お前の意見など聞いていないのだよ」
その光景を見て、私は一瞬で頭が真っ白になる感覚を覚えた。視界が広がるように感じる。前頭葉が熱い。
しかし、ダメだ。飛び出しては駄目だ。イヴさんが私に任せろと言ったんだ。
イヴさんなら大丈夫。
こんな事で、怯むような人じゃない。
だから、ここで飛び出したら。
全て無駄に......
「......はい、すみませんでした。
出過ぎた真似をしました、アーレント様......」
しかし、そんな私の想いと反する様に。
イヴさんは俯きながら、深く、深く、頭を下げて、震えながら『申し訳ありません』と呟いた。
そして、後ろ手で纏めていた綺麗な髪を肩へと垂らし、小動物のように小さく揺らしたのだ。
その光景を見て、思う。
......いや。
私は、何をしているのか?
「......ぷっ、ははは。ハハハハッ!
イヴよ、イヴ・マギアよ!お前、珍しくしゃしゃり出てきたと思えばもう折れたのか!
五賢の紫が聞いて呆れるなぁ、ええ?」
そうだ。そうなのだよ。
私のこの新学寮長という立場は、"五賢の紫"であるイヴ・マギアさんと同じく"五賢の赤"であるルドルフさんに擁護してもらって確立したものである。
私が魔導学園の第二次試験において、今まで誰も解けなかった古代魔導語の問題を解読してしまった為に、確立せざるおえなくなった地位なのだ。
「ほう、成程。それはそうだな。
お前の言う通り、今回の件は確かにお前にも責任の一端があるかもしれないな?」
「えぇ、そうなのです。
ですから、その裁判の件について一つ、私から提案が御座いますのですが......。」
だからこそ、私は国主様とイヴさんの会話を聞いて、思わず胃の辺りがキリキリとし始めていた。
「今回の件、一旦、全てを私の責任として扱わせてもらい、その上で訴訟を起こされた貴族の方々には賠償という形での解決を考えているのです。
一度、きちんと事件の詳細を確認してみて、私の方から貴族の方々に"お話し"しに行きますので......それで如何でしょうか。国主様?」
「ッ!?い、イヴさんッ......!?
それは、あまりにも───」
「ながみちゃん、いいから。黙ってて。」
そう、何故ならば、私が今生かされているのは......。
他でもない、このイヴさんの口添えと、新学寮長というイヴさんに貰った地位のお陰であるのだ。
......そして、今。
私はまた助けられようとしている。
「ほう、なるほどな。
かの五賢の紫殿の言いたいことは分かった。それも一理ある意見ではあるだろう。理解は出来る。」
「......では、国主様。
今回のワルプルギス裁判において、私が新学寮長の身柄を預かる事を認めて頂けるでしょうか......?」
だからこそ、私はその事実に。
イヴさんが、私のことを自らの責任として庇ってくれているこの状況に。
酷く、歯痒い思いを抱きながら───。
「......いや。
しかし、だからこそだ。
だからこそ、あまり出しゃばるなと言っているのだ。
五賢の紫、真理の魔女......"イヴ・マギア"よ?」
「......っ!?それは、どういう......。」
しかし、その"国主様"の否定の言葉を聞いて。
明らかに動揺した様子のイヴさんの表情を見て、歯痒い思いと同時に少しだけ疑問を抱いていたのだった。
「いいか、イヴ。
お前は、私の言うことを聞いていればいいのだよ?それを、分かっているのかね?お前は。」
「い、いや、ですが───。」
その二人の様子を見て、少し───
「......?イヴ、さん?」
......少しだけ。
なにかイヴさんの様子がいつもとは違うような、
イヴさんがいつも放っている"圧"のようなものが足りないというような。
イヴさんの顔が、少し青ざめているような───?
そんな、不思議な違和感を覚えていたのだった。
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