第百四十二~三話『まずいことになっ』
「───以上が、新学寮長。
ナガミカナムの件の詳細となります。如何致しましょうか?」
「あぁ、そうだな。
あのお堅い貴族連中共の計画にしては、良くやったと褒めておきたい所だ。......特に先方の赤。
件のフィリオン家には、これを渡しておいてくれ。」
「了解しました。では、失礼します。」
私の腹心であるエルエラ。
"魔導学園信徒幹部"の彼女が、静かに闇の中へと消えていくのを見送り、ふむと手を組み直す。
そして、その手の内で口元を隠しながら......
今しがた、エルエラから聞いた報告を思い出し、私は思わず笑いを噛み殺していた。
「くっ、ククッ......!
まさか、ここまで簡単に釣り糸に掛かってくれるとはなぁ、新学寮長よ......?」
新学寮長に対する、経過観察。
......もとい嫌がらせ。
この国でも古参の貴族家の幾つかから問題視する声があがっていた『ナガミカナム』に対する、質の悪い悪戯の報告書。
元は私が信徒たちを動かして裏から実行しようと思っていた対応だったが......今回、一部の貴族家が自分たちが手を加えたいと申し出て来たのだ。
申し出てきた家は『サティロス家』『ミローネ家』『レイバン家』『ロッドウッド家』等。
落ち目の貴族共を中心とした、権威を取り戻そうとする古参貴族達の連盟であった。
きっと、制裁を加えた先の報酬の、新学寮長の能力に関する利権のお零れにでも預かろうと思っていたのだろう。
だからこそ、私はその全ての貴族たちに『やりたいなら勝手にしろ』と伝えておいたのだ。
───何故ならば、今回。
私は下手に動けば失敗すると踏んでいたからである。
理由は単純で、新入生の入学に際する式典での新学寮長の礼法や立ち回りの完成度が、嫌に優秀であったからだ。
......登壇した新学寮長の表情。
一介の冒険者とは思えないポーカーフェイスに、私は少し億していたのかもしれない。
「だが、く......ッ!はははっ......!
蓋を開けてみれば、なんだ?完璧だ、完璧すぎるじゃないか?!!!」
今回の彼ら古参貴族たちの作戦。
詳細を聞いた時、なんて陳腐で幼稚な作戦なのだろうと思ったが、しかし冒険者上がりの魔導士ような野蛮な輩には存外短絡的な方がいい事もあるのだろう。
彼女に近しい存在を手玉に取っただけで、まさか最初から暴行を加えてくるとは、思いもよらない事態であった。
そして、今。
かの新学寮長は、件の貴族連中に訴えられて、『国に司える貴族』に暴行を加えたとして犯罪者の身分となっている。
今まさに、我が国の最高裁判所である『ワルプルギス裁判所』......その、犯罪者の何人たりとも取り逃した事の無い、事実上の処刑台にまで足を掛けてしまっていたのであった。
......ハハハッ?!
これが笑わずにいられるか!?
忌々しい五賢共の足を掬うためにも、今まで色々と策を練ってきたがどれも上手くいかなかった。
運命が私から逃れるように、尽く五賢の地位を揺さぶろうとしても完遂することは出来なかった。
だからこそ、今回生まれた隙。
『紫』と『赤』に擁立され学寮長となった、新米から突き崩そうと画策して───今回。
「まさか、ここまで流れる様に落ちてくれるとはなぁ!
あ奴らも、随分と厄介な手駒を引き入れてしまったようだ、ははははははッ?!」
そう、最早、こうなるのが"運命"だったとさえ思えるぐらい、トントン拍子で事が運んでいる現状だ。
こうやって私が笑いたくなってしまうのも、土台無理はないというものだろう。
だからこそ、感謝したい。
今回、学寮長を策略に嵌める為、作戦実行を担ってくれたフィリオン家の次男三男兄弟。
そして、この計画を聞いて、
二つ返事で快く協力してくれた、アレにも───
「後日、きちんとした褒賞をくれてやらねばならないな......?はははッ......!!!」
そう呟いて。
男は静かに黒のスーツを身に纏い、自らの執務室を後にしたのだった。
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「あぁ、はは。そうか、そうなんだよ。
私がやったんだ。私が......、はははっ......。」
「......うぉーい、新学寮長さーん?
現実逃避もいいけどさ、そろそろ現実に戻ってきてくれやしないですかー?めっちゃ暇なんすけどアタシ。」
「私が、私が......」
「いや、あんたに罪認められると困るんだけど?
ちゃんとディベートしてくれなきゃ、アタシじゃ勝ち目ないんすけど?ねぇ、聞いてるー?(バシン!)」
「...ッ、いッ!??あ?私は何を......?」
ヒリヒリとする背中への痛みで我に返る。
黒と白を基調にした清廉でモノクロチックな壁面に、中間色である灰色の柱を点在させた楕円形の空間。
そこに、私はいつの間にか席を用意されて、フラリアさんと隣合って座らされていた。
見れば恐らく信徒であろう黒のローブを着た生徒達が、慌ただしく何かを準備しているのが分かる。
その白黒空間にある、左右の通路を行き来して、分厚い書類や魔力の込められた恐らく魔導具のようなもの等を運び込んでいるようだった。
そんな彼らの忙しない様子を見て思い出す。
───そうだ、そうだった。
今、私が座っているのは"魔導学園裁判所『ワルプルギス』"にある被告人用の待機席だ。
そして、そんな被告人用の待機席で。
何故か意識を失っていた私は、いつの間にか隣りに座っていたフラリアさんにどうやら叩き起されてしまったようだ。
「しかし、何故私はこんな所で気絶を......?
たしか裁判所の控え室でイヴさんに怒られたまでは覚えてるんだが......そこから記憶が......。」
「いやその記憶、数時間前ね?
紫さんに怒られて、その後で新学寮長さんと貴族連中どもの裁判が始まって、お互いの話が平行線過ぎたから一旦休憩になったっしょ?
それで、今は待機席に座って、二人で雑談してた所で......」
「───って、え?待ってもしかして今気絶してた?
もしかして今、気絶しながらアタシと喋ってた感じのヤツなん学寮長の人????」
驚いた様子のフラリアさんの表情。
その驚愕の目と説明を聞いて、私は数秒目を逸らして完璧に思い出した。
「あぁ、そうだった。私、貴族の赤髪を殴ったせいで裁判所に連行されて、絶賛圧迫裁判中なんだったよ......」
そう、事の発端は何を隠そう数日前に起こった"新学寮長一派"による赤髪貴族ぶん殴り事件である。
アヌを護る為に犯した行為だったが、どうやら本当に彼奴ら貴族だったらしい。
それも、結構有名で古参な貴族家であらせられ......
私が彼らを暴行したというニュースは魔導学園新聞や噂話言伝等で瞬く間に広まり、魔導学園中で話題になってしまったのだ。
そして、その火に浮かされるようにして、私の学寮には大量の訴状が届くようになり本日。
『被告人、では、罪の告白をしなさい。』
"いや、あの。
私は自らの無罪を主張するので......。
出来れば罪の告白ではなく無実の証明と明言していただければ嬉しいのですが......。"
『......ほう?貴様は自らが罪を犯したという自覚がないと?過失は万に一つもないと主張すると言うのかね?新学寮長君よ?』
"あ、いやあの、それは違うんですけど。
なんというか、過失が大きいのはフィリオン家のご子息さんの方だと私は思っていてですね?その理由が二つほど───"
『はぁ、どうやっても罪を告白しないと言うのかね?
自らが国の中核を担う人間を加害したという事実に、犯罪を犯したという罪に背くということであるか???』
"いやだから話聞いてくれます?"
......うん。
以降はそれのエンドレスタイムだった。
私は魔導学園の最高裁である『ワルプルギス裁判』とやらに出廷させられ、こうやって無限の尋問を投げ掛けられている真っ最中なのであった。
「はははっ、スレイブ伯爵、最近はどうですか?魔法理論の研究はお進みですかな?」
「いやぁ、それがまだまだ掛かりそうでして。
あと数週は研究室に籠らないと、論文の提出には程遠いと言った所です。ハハハ......」
そして、そんな私の頭上。
私の被告席を中心として段差を挟み、円状に連なっている傍聴席と裁判官席の先にて、世間話と洒落込んでいる貴族たちの声を聞いてため息を吐く。
こいつら、めっちゃ面倒臭いのだ。
私を裁判所に呼び出して先ずは此方の証言を聞くとか言っておきながら、私が話している最中にガンガン割って入ってきて邪魔してくるし、言い分も聞いてくれない。
どうやってもこちらの非を認めさせようという魂胆が丸見えで、口調からして譲歩する気がないのが見え見えって感じであるのだ。
「ははははっ、そうですかそうですか!
では、お隣の"キルシュタイン様"におかれましては、最近も以前通り御壮健ですかな?」
......そして特に、だ。
「あぁ、それはもう!
私はスレイブ殿と違い、魔法研究の必要がありませんから!毎日毎日書類を処理する日々ですよ、ははは!」
この、裁判官の隣にいる男。
今は人の良さそうな笑みを浮かべている糸目のこの男が実は一番ヤバいのだ。
裁判官でもないのに最高責任者の隣に座り、天下の裁判官様よりも自由に発言を繰り出しては、私のことをなじり虐めてくる壮年の男。
黒の落ち着いたスーツに、暗めの銀髪。
その、壮年ではあれど何処か寒気を感じるような鋭い瞳を周囲に向けて、されど対面する貴族に対しては軽やかに対応し笑みを崩さない胆力のなせる技。
そんな、第一印象ナイスミドル紳士な彼が、この場の誰もを支配している存在だと言い切れる。
「いやぁ、それはそれは......!
どちらも大変そうですが、キルシュタイン様におかれましては相変わらず健勝なご様子で安心致しましたよ。やはり幾つになられても現役ですねぇ。」
「はははっ!いやはや、もう私も60を超えましたから......現役などと、その様な事は言えませんがね!
......ですがね、やはりこのような裁判などがあると忙しくなりましてねぇ?」
「私ももう老体でして。
早く、終わってくれると嬉しいのですがね───?」
そんな彼の言葉と同時。
話していた周囲の貴族たちが私を注視するように視線を動かす。
「そうですか、そうですか。
ならば今回も早く終わるといいですねぇ?」
「えぇ。私としても、それを願っているのですが。
如何せん、生かされた魚の活きがいいようでして。全く、困ったものですな!はははははッ!」
そして、私のことを見下す様に鼻で笑った後、直ぐに先程と同じような好々爺の表情で談笑に戻るのだ。
うん、このアウェー感である。
泣きたい。
普通に真上から掛かってくる圧強すぎて、顔面漂白剤で洗顔されてる気分である。
でも、そんな中、私も頑張ったのだ。
頑張って頑張って頑張って、必死に無罪を主張し続けて───!
「そして今、話が平行線過ぎて纏まらずに休憩に入ったって訳なんだよねー。
いやー、大変だねー新学寮長さんも。同情するわー。」
「いや、フラリアさん?
同情するのはいいんですけど、出来れば貴方も話してくれると助かるんですがね......?
事の経緯とか話す担当とか、片方負担してくれると私も楽なんですけど......?」
「わぁ、とっても綺麗な青空ー。
今日ってもしかしなくても、お昼寝日和じゃんね?新学寮長さん?」
分かり易く目線を逸らし、天蓋付近の裁判所の窓の外を見つめるフラリアさん。
うん、空、とっても綺麗だねー。
後、にこりと語りかけてくるフラリアさんの黒髪と赤メッシュがよく映えていて、この斜め45度からの流し目が高得点───って。
「いや、あの。そんなチルられても困るんですけど。
話流そうとしましたよね今?裁判の証言について少しも助けてくれる気ないですよねフラリアさん?」
「いや、アタシ、口ベタなんでー。
こういうパキッとした場で喋るのはちょっとめんど......ちょっとハードル高いかなーって?」
「いや、今めんどって言いかけましたよね?!
私、その面倒臭いのをめちゃくちゃひとりで頑張ってやってたんですけど!?あの圧強い人と裁判官に貶されながら、めっちゃ頑張ってたんですけど!??」
思い出される苦痛。苦行。責め苦。
もうあんな言葉責めはひとりで背負い込みたくない。
だからこそ、私は必死に目を逸らそうとするフラリアさんに対して、此方も必死に食い下がるように彼女の肩を揺らしまくって対抗していた。
「うぉあ、あ、ちょっ、ちょっとやめろし!??あたま、頭揺れるからぁ───?」
「いやですよ!??私だってさっきの裁判で罵倒されまくって脳衰弱してるんですよっ!??このぐらい甘んじて受けて下さい───!!!」
「はぁ。貴方達、何してるのよ......?
仮にも裁判中の被告人が、あまり公衆の面前でいちゃつかないで貰えると助かるのだけどね?」
すると、その背後から。
静かに、こっそりとした小声でもって、よく見知った声が私達に掛けられたのだ。
「......あれ、イヴさん?さっきぶりですね?
こっちに来て大丈夫なんですか?」
「いや、まぁ大丈夫......では無いけど。今の貴方達を放置しておく方が、多分大丈夫じゃないから。
私の有り余る五賢パワーで何とかして此処まで来たのよ?全く......。」
紫色のドレスのような礼装に、その上から黒ローブを被って体と顔を目深に隠している。
そう、いつもとは違う服装をしたイヴさんだ。
そんな彼女が、いつの間にか私たちの座る待機席の後ろからこそこそと囁いてきていたのだった。
「うわ、イヴっち滅茶苦茶お洒落くないすか?
さっき控え室で説教してた時はシブいローブだったのに、いつの間に着替えたんすかぁー?」
「貴方、イヴっちって......まぁ、いいけど。」
「此処は、流石に貴族たちが集まるからね。さっき自室で礼服に着替えて来たのよ。
私も、五賢の一人として貴族階級を以てここにいる訳だから、礼節を破る訳にはいかないのよ。面倒臭いけど。」
フラリアさんの問いかけに、相変わらずこそこそとしながらイヴさんは何処か落ち着かないように周囲を見渡す。
フードの端をぐっと持ち下げながら、傍聴席から顔が見られないように務めているようだ。
......多分、貴族連中にバレると不味いんだろう。
イヴさんは五賢という身分を持つと同時に、この国の貴族でもある訳だしな。
「......」
それに、イヴさんの周囲から。
微かに魔法の発動した痕跡が見られるし。
たぶん、イヴさんのローブか自分自身に、認識阻害とか透明化とかの効果が着いているのだろう。
恐らく、バレたら一発退場どころの騒ぎじゃない。
五賢パワーでなんとかしてきたって言ってたし、多分犯罪一歩手前ぐらいのやつだ。
そりゃあここまでそわそわもするだろう。
「......っていうか、そんなことよりもよ?貴方たち、本当に大丈夫なんでしょうね?さっきまでの裁判、傍聴席から見てたけど本当に勝算あるの?」
イヴさんに言われた言葉を聞いて、思い出す。
そういえば、控え室で怒られている時にイヴさんに問い詰められてついポロったんだった。
「あー、そうですよね。
私、勝算有りますって言いましたもんね......?」
そう、いや実はあるんですよ。勝算。
現在進行形で負けてるように見えてるかもしれないけど、実は一発逆転起死回生できる策が───
「ある......はず......なんですけどね......?」
.
「はぁ!?はずってッ......!??」
「あ!いや!ほんとにあるんですけどもね?!
でも、今の所五分五分というか、来てないというか、準備出来てないというか......!!!」
───そう。
実はなんと、今回の裁判の為に用意していた準備物。
私がこれがあれば余裕だろと高を括っていた"アレ"が届いていないのである。
赤髪Aを殴り飛ばした後に、予めとある人に相談して、この裁判を勝ち確サヨナラホームラン出来るように解決法を準備して貰っていたのだが......。
「でも、それが間に合わなくてですね?
まだ準備に時間がかかるそうで、来てないんですよね。困ったことにね......?」
......まぁ、という訳で五分五分なのだ。
裁判終了までにブツが来たら勝てるし、ブツが来なかったら私とフラリアさんの死亡確定。
だからこそ、私は全力で議論に負けないように、必死に時間稼ぎをしながら貴族連中とやり合っていたわけなのだよ。
まぁ、そういう意味では相手側が話を聞いてくれなくて良かったのかもしれなかった。話長引くし。
「っ、はぁ。貴方たち、このままの流れじゃ死ぬの分かってて言ってるのかしらね......?
そのブツとやらを待つにしても、多分数刻後にはギロチン台の上で寝てる訳だけど?大丈夫なのホントに?」
「いや、大丈夫ですよ絶対!多分ですけど......!」
「どっちよそれ......。
確実と不確実が混ざってるわよ貴方......?」
呆れた顔で私を見つめるイヴさん。
その目を受けて、思わずたじろいでしまう私。
そして、そんな私の隣では宇宙猫みたいな目で遠くを見つめてるハハッと笑う哀れなフラリアさんの姿があった。
うん、出会ってからずっとへらへら元気だったフラリアさんも、流石に死が間近に迫った現状では笑えないようだ。
「ははっ、アタシ、頭パァンするんだなぁ。
老い先短い人生だったぁ......」
うん、凄く申し訳ない。
正直、自分からアヌの元に飛び出してはいたが、フラリアさんは明らかに私の行動の巻き込まれではあるし、むしろ被害者と言っていいだろう。
......だから、本当はね??
私としても、フラリアさんの方の裁判だけは肩代わりして免除にしてあげたかったんだけどもね......?
「いや、フラリアちゃん???
貴方どっちかっていうと、ながみちゃんよりも罪重い存在だからね?普通に。」
「ぐっ......!アタシの方が罪が重いって......!
いや、でも、そんな訳なくない??だってアタシ一般市民だし......?一般人だし??」
しかし、現実はそう簡単ではなかったのだ。
イヴさんから発せられた言葉に、フラリアさんがびくりと肩を揺らす。
そして、そのイヴさんの言葉に反論するようにして、弁明しだすのだが......。
「いや、貴方ね。
正直それが一番の問題よ?
言っちゃ悪いけど身分なしで貴族をぶん殴ってることが最も危ないというか、馬鹿というかね......?」
「......あー、えっと。いやでもぉ?
アタシってば、相手の貴族の人、そんなに思いっきり殴ってないしぃ───???」
「いや、貴方の相手してたお兄さんの方、顔面とアバラの骨1、2本いってたけどね???
顔面殴りに行った後、明らかに全力で腹まで殴りに行ってるわよねフラリアちゃん?ねぇ???」
......という訳で。
私が暴行罪とするならば、フラリアさんは殺人未遂ぐらいの罪になってたのだ。
よって、私だけに罪を被せることも出来ず......
フラリアさんの裁判はどうやっても回避することが出来なかったのである。
「ぐ、ぐぅ......、や、やりすぎたぁ......。」
「そりゃそうよ......。
ぐっちゃぐちゃだったものフィリオン家の次男......。普通に可哀想だったわよ彼......?」
まぁ、そんな訳で。
フラリアさんは私よりも危険性が高いとかで、私よりも早く信徒の人に拘束されて連行されていったのだ。
信徒の黒ローブ集団数十人に囲まれてドナドナ。
私はそれを見て裁判の準備を開始出来たぐらいだったので、相当お兄さんの方をボコボコにしてたんだろう。
フラリアさん、恐ろしい娘である。
まぁ、でも、その光景を見て私も準備を進められたので、良しとするのだが───
「あと、それとねフラリアちゃん。貴方どうやってこの国に入れたのよ......?
まさか、身分を提示する物がボロボロの冒険者証だけって、この国の一貴族として普通に驚きだったんだけど私???」
「......あー、それはなんというか。あたしソロAランク冒険者なんで。なんかいけたとしか言いようがないというか。なんというか......。」
しかし、問題はそれだけでは無いようだった。
イヴさんとの問答を聞いて、私は思わず目を見開いて驚いてしまう。
フラリアさん、Aランク冒険者マジか。
赤髪Bの炎の槍から助けてもらった時に、恐らく強い人だろうなとは思ってたが......。
まさか、私よりも数段高いAランク冒険者だったとは驚きである。
「ちょ、Aランク?!
貴方、Aランク冒険者って、冒険者の中でも上位五パーセントしか居ない身分じゃない!?
なんでそんな人間がこの国に来てんのよ!?普通、国から出して貰えないでしょ......!?」
イヴさんの言葉を聞いて、またもや驚く。
Aランクの冒険者ってそんな凄い人だったのか......。
総数が分からないから何とも言えないが、しかし上位五パーセントって。本当に狭い門じゃないか。
でも、まぁ確かに私が会った事あるAランク以上の冒険者って、リギドさんかシィさんぐらいだし。
ザック先輩とかアーネさんとかがBランクで停滞しているのを加味しても、彼らが本当に凄い人達なんだろうなというのは分かってはいたんだが。
......って、あれ?
てことはフラリアさんって、ザック先輩とかアーネさんたちよりも、強いってことになる......?
「まぁまぁまぁっ!? それはまぁいいじゃないっすか! それよりも、今は裁判でどう勝つか、でしょ???」
しかし、そんな私の思考は、フラリアさんの大きな声によってかき消されてしまった。
「...うん、まぁ、確かに。話を逸らしてるのは分かるけど、今話すべきはそっちかもね?」
「そうですね。私も、今はフラリアさんのことよりも、この裁判をどうやって勝つか、どうやって負けないかの方が大事だと思います。」
───そう、結局は負けなければいいだけだ。
裁判がどれだけ長引こうと、どんなにバッシングを受けようと、私が準備した物が届けば、逆転できる自信がある。
いや、自信しかない。
だからこそ、今重要なのは私の準備した物が届くまで、どう裁判を乗り切るか、なのだ。
「うん、それもそうね。だからこそ、私がここに来たのも、貴方たちにアドバイスしようと思ったからよ。話を聞いてみて、ひとつ言えることは───」
そう言った私の言葉に、イヴさんが頷きながら一理あると言った表情を浮かべた。
そして、ヒソヒソと声を潜めながらアドバイスをしようとしていた......その時。
「って、まずッ───!?」
口を開こうとした瞬間だった。
「......やぁ、新学寮長殿よ。
そんな何もない場所で後ろを向いて...一体誰と話してるんだ?私も、是非とも聞かせてもらいたいのだが?」
そう言って、先程「ワルプルギス裁判所」の裁判官の隣にいた黒スーツの男。
私たちを見下すように笑っていたキルシュタインとやらが、私に向かって歩み寄ってきていたのだった!
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