第19話 廃棄物の有効活用
半月後、エンダイバー家の応接室にはスティーブが呼び出されていた。
彼は町内で商会を営んでおり、エンダイバー家の御用商人のような立場の者である。
これまでエンダイバー家は、繭に始まりスライムの外皮や魔石、魔物の(毛)皮など様々な物を買い取ってもらっている。
この場には、当主のミヒャエルとサムエル・ダニエルの兄弟。
そして、執事のクリフォードが同席していた。
「本日は、新たな商品の買い取りと伺っております」
「これから広く売り出したいと思っているのだが、商人としての忌憚ない意見を聞かせてほしい」
「かしこまりました」
ミヒャエルの指示で執事のクリフォードがテーブルに置いたのは、四つの物。
二枚の掛布団と二着のベストだった。
「これらは、寒い季節に重宝する寝具と防寒着だ。手に取って、見てくれ。着てもらっても構わない」
「では、失礼いたします」
スティーブは、まず掛布団から見るようだ。
売れる商品かどうか、見極めようとする商人の顔になっている。
じっくりと掛布団を見たあとはベストだ。
こちらは、その場で着用した。
ダニエルはドキドキしながら結果を待つ。
果たして、自分が提案した物はこの世界の人たちに受け入れられるのか。
◇◇◇
ダニエルが使用人に頼んで作ってもらったのは、羽毛布団と羽根布団。それと、ダウンベストだった。
確認したところ、バウニー領でも矢に加工できる大きな羽根以外は廃棄処分をされているようで、これを商品として活用できればと考えたのだ。
バウニー男爵領で養鶏されているのは、ガチョウに似た鳥グースだった。
広大な牧草地で放し飼いにされているらしい。
前世でガチョウといえば、世界三大珍味の一つフォアグラとダウンコートやダウンジャケットなどに使用される『ダウン』が有名だ。
フォアグラは飼料代が多くかかるため候補からは外し、ダウン(羽毛)とスモールフェザー(小さな羽根)で作れる物をと考えた。
ダニエルは町の食肉店を回り、廃棄物となっている羽根を大量に回収し、アイボウに預けた。
それから、布地を扱う商店でベスト用の生地を、寝具店で掛布団を二枚買い、屋敷へ戻る。
まずは既製品を加工し、試作品を作ることにしたのだ。
二枚とも中に入っている綿を抜き、代わりにアイボウが仕分けしたダウンとスモールフェザーをそれぞれ比率を変えて詰める。
一箇所に偏らないよう、途中に縫い目を入れてもらう。
ベストは、縫い合わせる二枚の生地の間に同じ要領で詰め、縫ってもらった。
出来上がった試作品は皆に試してもらい、意見や感想を聞く。
一番多く上がったのは「軽くて良い」という声だった。
寒い季節になると重ね着をするし、布団は寒さをしのぐために厚くなる。
軽くて暖かいのは有り難いとのこと。
ミヒャエルは商品化することを決め、バウニー家へ話を持ち掛けた。
二つの領は隣り合っているため、行き来はすぐにできる。
試作品を見せ、羽根を買い取る契約を交わす。
まずはエンダイバー領で商品化し、軌道に乗ればバウニー領へ生産拠点の一部を移すことも視野に入れていた。
◇◇◇
少し考え込んでいたスティーブが、顔を上げる。
商人としての結論はどうなのか。
ダニエルは注目した。
「商品自体は、とても良い物だと思います。しかし、一つ懸念が……すぐに、他領で類似品が出るのではないでしょうか?」
「それに関しては、心配をしていない。上手に羽毛を洗浄できるのは、我が領だけだからな」
ダニエルは、始めからパクリ商品にどう対抗するか考えていた。
グースから取った羽根は、汚れを落とすために必ず洗う。
エンダイバー領ではダニエルがアイボウ(ジョウカ魔法)で綺麗にするため、羽毛は真っ白でタンポポの綿毛のようにふわふわしている。
臭いもない。
これが、水魔法で洗浄されても同じ状態になるのか検証をおこなったのだ。
結論から言えば、繭のときと同じような状況になった。
水魔法である程度汚れは除去できても、真っ白にもふわふわにもならなかったのである。
当然、臭いも残った。
これでは商品化しても保温性がなく、綿布団とあまり変わらない。
それに臭いが残るため、かえって敬遠される可能性が高い。
クリフォードが、ジョウカ魔法と水魔法で洗浄したダウンとフェザーをテーブルの上に並べる。
ミヒャエルの説明と現物に、スティーブは納得したように頷いた。
「あの繭と同じ方が洗浄されるのであれば、まったく問題はございませんね」
「布団もベストも、貴族向けと庶民向けに二種類つくった」
ダウンの配合比率が高い物の方がより軽く、保温性に優れ、価格も高い。
これは、ダニエルが前世で得た知識からきている。
布団店で『羽毛布団』と『羽根布団』の違いを店員に尋ね、教えてもらった経験が活かされていた。
「では、貴族向けはケビン殿の商会へ声をかけましょう」
「よろしく頼む」
商談は、無事成立した。
ダニエルは、ホッと胸をなでおろす。
ようやく、転生者として前世の知識を活かす商品を作ることができたのだった。
◇
ひと月後、エンダイバー領内で販売が始まった。
庶民向けの掛布団とベストを売っているのだが、両方とも売れ行きは好調だという。
まだ寒い季節でもないのに、なぜ?と首をかしげるダニエルに、サムエルが教えてくれた。
「冒険者ギルドの治療院が、羽根布団を採用したのだ。病人には、軽くて暖かい方が体に負担がかからないからな」
「なるほど……」
「ベストも、冒険者たちがよく買っているそうだ。暖かいのに薄いから、防具の下に重ね着しやすく持ち運びにも便利だと」
寒冷地へ遠征に行く場合や、ダンジョン内でも寒暖差のある場所で重宝するという。
「季節を問わず、売れそうですね」
「今の時季でこれだから、本格的に寒い季節になったらどうなるか……まあ、嬉しい悲鳴になりそうだが」
この状況に、ミヒャエルは生産拠点の一部をバウニー領へ移す計画を前倒しするか検討を始めている。
「町で布地を扱う商店が、新たな商売を始めたようだ。羽根布団用の保護カバーを売っている。客の好みに合わせて、生地も柄も選べるらしい」
「では、兄上のものにはスパイダーシルク製のカバーにしましょう!」
サムエルは、長期休暇が終わり王都へ戻るときに羽毛布団と貴族向けベストを持ち帰る予定となっている。
「私のは普通でいいぞ! そんな物を持って帰ったら、今度は何を言われるか……」
「『スパイダーシルク領』から、『羽毛布団領』と名称が変わりそうですね。それとも、『ベスト領』かな?」
「フフッ、どちらにせよ絡まれるのは勘弁だな」
「ハハハ、そうですね」
冗談を言いながら、兄弟は屋敷の居間で笑い合っていた。
────同時刻、執務室では届けられたばかりの書簡に、父が頭を悩ませているとも知らずに




