第14話 【閑話】ある日の、エンダイバー兄弟と魔道具
「やあっ!」
木剣を構えたサムエルが、大型掃除機へ斬りかかる。
それをしなやかに、ひらりと躱した大型掃除機は、ヘッドでサムエルの足元を横に薙ぐ。
すんでのところで飛び上がり後ろに避けたサムエルだったが、そこはまだノズルの攻撃範囲内。
すぐに追撃を受け、最後はお尻をツンと突かれた。
「また、負けたな……」
サムエルは木剣を下ろし、大型掃除機と試合後の礼を交わす。
これまで五回対戦し、一勝三敗一引き分けで負け越している。
しかも、勝てたのは初戦だけで、次は引き分け。その後は三連敗中なのだ。
「私の攻撃をしっかりと学習しているから、二度目は通用しない。本当におまえは賢いな」
サムエルが優しく本体を撫でると、嬉しそうにくるりと回転する。
そんな一人と一台の微笑ましいやり取りを、ダニエルはニマニマしながら眺めていた。
「では、次はダニエルだな」
「いえいえ、僕は大丈夫です!」
「何が大丈夫なんだ? おまえも、魔道具以外に身を守る術を持っていたほうがいいだろう?」
サムエルが示唆したのは、変異種のオークとの戦いのこと。
あの時、防御魔法『城下』が発現していなければ、ダニエルは命の危険さえあったのだ。
サムエルに追従するように、大型掃除機が激しく同意している。が、ダニエルは華麗に無視を決め込む。
兄の言葉が正しいことはわかっている。
でも、人には得手不得手があるのだ。
自分には剣の才能はない。ダニエルは三歳のときに覚った。
だから……僕に剣術は無理です!
と、言いかけたダニエルの臀部に強い衝撃がはしる。
痛みは全くないが、後ろから叩かれたということはわかった。
振り返ると、大型掃除機が(腰に手を当て、鬼の形相で睨んで)いた。
「無視したことは悪かったけど、そんなに怒るなよ……」
掃除機に両手などない。もちろん、表情があるわけでも。
きっと、いま自分が見ている光景は幻影に違いない。そうに決まっている。
でも、大型掃除機が振り上げるノズルが、なぜ竹刀に見えるのだろうか……
◇
サムエルの目の前で繰り広げられているのは、弟が自分の魔道具に追いかけ回されている光景。
どうやら、彼は魔道具の逆鱗に触れたらしい。
ダニエルに助けを求められたが、残念ながらサムエルの実力では到底勝ち目はない。
だから一言、「頑張れ!」と激励だけはしておいた。
やり過ぎてダニエルが気絶してしまうと自分が消えることもわかっているのか、絶妙に手加減をしているのがわかる。
魔道具とは、これほどまでに有能なのか。
同じ『神の餞』持ちでも、無属性はすごい!
サムエルは感心しきりだ。
追いかけっこは、ダニエルが心を入れ替えるまで続いたのだった。
◆◆◆
この日を境にして、ダニエルは剣術にも精を出すようになった。
彼の後ろには常に魔道具がいて、少しでも気を抜こうものなら、すぐさま愛の鞭ならぬ愛のコードが飛んでくる。
最恐鬼教官の爆誕であった。




