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俺の人生、サービス終了まであと六日らしい  作者: みき


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7/21

三日目 ①

 朝、悠真はいつもより少し早く目を覚ました。


 目覚ましが鳴る三分前だった。


 枕元のスマートフォンを手に取る。通知が何件か並んでいたが、美月からのものはない。


 昨夜、最後に送ったのは自分だった。


『また明日』


 その文字を見て、悠真は自分でも少し変だと思う。


 昨日までなら、誰かとのやり取りを朝一番に見返したりはしなかった。


「……何してんだろ」


 スマートフォンを伏せる。


 顔を洗い、着替えて、簡単に朝食を済ませる。


 家を出る頃には、いつもの朝に戻っていた。


 駅へ向かう途中、悠真はいつもの道を歩いた。


 角を曲がったところで、少しだけ違和感を覚える。


「ん?」


 足を止める。


 いつも朝に寄る小さなパン屋が、閉まっていた。


 休みなのかと思ったが、シャッターには何も書かれていない。


 店先に出ていた黒板もない。


 営業時間を書いた札も外されていた。


「今日休みか」


 悠真はそうつぶやいて、そのまま通り過ぎようとした。


 けれど、二歩ほど進んでから振り返る。


 昨日までは確かに営業していた。


 昨日どころか、一昨日もその前も。


 朝になると焼きたてのパンの匂いが道まで流れてきていた。


 シャッターの前まで戻る。


 端に小さな張り紙があった。


『閉店しました。長い間ありがとうございました』


「……急だな」


 閉店日も書いていない。


 理由もない。


 悠真は少し首をかしげた。


 店の主人とは話したこともないし、毎日買っていたわけでもない。だから閉店すること自体は不思議ではない。


 それでも、昨日まで普通に開いていた店が、何の前触れもなくなくなっているのは変な感じがした。


「まあ、そういうこともあるか」


 時間を見る。


 立ち止まっている場合ではない。


 悠真は駅へ向かった。


 会社に着くと、今度は社内システムの一部が使えなくなっていた。


「また?」


 田中が画面を見ながら顔をしかめる。


「昨日も何か重くなかったですか」


「重かった。今日は完全に開かない」


「サーバー落ちてるんですかね」


「知らん。情報システムに聞いてみる」


 田中が内線をかける。


 少しして受話器を置いた。


「復旧未定だって」


「珍しいですね」


「まあ、そのうち戻るだろ」


 その言葉を聞いて、悠真は少しだけ笑った。


「何だよ」


「いや。田中さんも『そのうち』って言うんだなって」


「お前に言われたくない」


「昨日美月にも言われました」


「お」


 田中の表情がすぐに変わる。


「美月?」


「高校の同級生です」


「名前で呼んでるじゃん」


「昔からそうだからですよ」


「昨日も会った?」


「会いました」


「二日連続?」


「買い物に付き合っただけです」


「買い物」


「何ですか、その言い方」


「別に」


 田中は明らかに面白がっていた。


「で?」


「で、って何ですか」


「進展」


「ないですよ」


「本当に?」


「普通に買い物して、高校の近く歩いて、雨降って」


「雨?」


「傘一本しかなくて」


「はい」


「何が『はい』なんですか」


「それで?」


「それだけです」


「一本の傘に二人?」


「他にないでしょう」


「水瀬」


「何ですか」


「お前、もう少し自分の状況を客観的に見た方がいいぞ」


「何の話ですか」


「そのうち分かる」


「またそれ」


 田中は笑った。


 結局、社内システムは昼前まで復旧しなかった。


 そのせいで仕事が少しずれ込み、昼休みに入れたのも普段より遅かった。


 悠真は食堂で簡単に昼を済ませる。


 スマートフォンを見る。


 美月からまだ連絡はない。


 別に毎日連絡が来る約束をしたわけではない。


「また明日」


 そう言っただけだ。


 それでも、少し気になった。


 返信欄を開く。


『今日どうする?』


 そこまで打つ。


 しかし送らない。


「いや、何で俺から」


 昨日は美月から誘ってきた。


 今日は仕事もある。


 忙しいかもしれない。


 そう思って文章を消す。


 その直後、スマートフォンが震えた。


 悠真は反射的に画面を見る。


『今日、仕事終わるの何時?』


 美月だった。


 思わず笑いそうになる。


『いつも通りなら六時前』


『終わったら会える?』


 昨日までは、美月から誘われるたびに少し驚いていた。


 今日は違った。


『会えるよ』


 ほとんど迷わず送る。


 すぐに返事が来る。


『じゃあ駅前で』


『了解』


 それだけ。


 でも昨日より自然だった。


 まるで、何日も前からこういうやり取りをしていたような感覚がある。


「嬉しそうだな」


 横から田中の声がした。


「見ないでくださいよ」


「見てない。顔見ただけ」


「本当に俺そんな分かりやすいですか」


「かなり」


 田中はそう言って、自分の席へ戻っていった。


 悠真は画面を消す。


 朝のパン屋。


 使えなくなった社内システム。


 少し変なことが続いている。


 でも今は、そんなことよりも。


 仕事が終わった後、美月に会う。


 その方がずっと気になっていた。

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