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俺の人生、サービス終了まであと六日らしい  作者: みき


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3/21

一日目 ③

 家に帰ってからも、なかなか眠る気になれなかった。


 時刻は十一時を過ぎている。


 明日も仕事。


 いつもなら動画を少し見て、そのまま寝る時間だった。


 けれど悠真は、ベッドに寝転がりながらスマートフォンの写真を眺めていた。


 美月と再会したからだろう。


 急に高校時代が懐かしくなった。


「どっかに写真あったよな」


 スマートフォンには大学以降の写真しかほとんど残っていない。


 悠真は起き上がり、クローゼットの下に押し込んである段ボール箱を引っぱり出した。


 実家を出た時、母親がまとめて持たせてきた物だ。


 卒業アルバム。


 昔の教科書。


 大学受験で使った参考書。


 捨ててもよさそうな物ばかりだった。


「よく持ってきたな、これ」


 卒業アルバムを開く。


 今見ると、全員幼く見えた。


 自分もそうだ。


「髪長っ」


 高校三年の悠真は、前髪が目にかかるくらい伸びていた。


 美月が今日、


『制服ぐちゃぐちゃだった』


と言っていた意味も分かる。


 ページをめくる。


 体育祭。


 文化祭。


 修学旅行。


 部活動。


 クラス写真。


 そして、文化祭の日の写真に手が止まった。


「これ……」


 教室の前。


 悠真と美月が二人で並んでいる。


 誰が撮ったのかは覚えていない。


 美月は制服の上からクラスで作ったエプロンを着ていた。


 悠真は頭に変な飾りをつけられている。


 二人とも笑っていた。


 写真を見た瞬間、その日のことがかなり鮮明に戻ってきた。


 文化祭が終わったあと。


 教室を片づけて。


 夕方までみんなで話して。


 駅まで美月と二人で帰った。


 途中で美月が、


『今日楽しかったね』


と言った。


 自分は、


『来年もやればいいじゃん』


と言った。


『来年は卒業してるでしょ』


『じゃあ大学で』


『違う学校だったら?』


『その時考える』


 確か、そんな会話だった。


「その時考える、か」


 今と大して変わっていない。


 悠真は苦笑した。


 美月のことが好きだと自覚したのは、高校二年の終わり頃だった。


 告白しようと思ったことは何度かある。


 けれど二人で話す関係を壊したくなかった。


 もう少ししたら。


 文化祭が終わったら。


 受験が終わったら。


 卒業式の日に。


 卒業式では、美月を探した。


 見つけた。


 話もした。


 結局、何も言わなかった。


『じゃあ、またね』


 最後はそれだけだったと思う。


 それから本当に六年会わなかった。


「好きだったな」


 小さく言う。


 過去形にした。


 そうするのが一番自然な気がした。


 今日会って少し楽しかったからといって、六年前の感情と今の感情を同じにするのは違う。


 美月には美月の六年がある。


 自分にも自分の六年がある。


 そう思いながら、もう一度写真を見る。


「……まあ」


 次に会った時でいい。


 もっと話してみれば分かる。


 そもそも明日になれば、今日の妙な高揚感も少し落ち着いているかもしれない。


 悠真は卒業アルバムを閉じた。


 段ボールへ戻そうとして、少し考える。


 結局、アルバムだけは机の上に置いた。


 ベッドに戻る。


 スマートフォンを手に取る。


 美月とのメッセージ画面。


『ちゃんと次もあるからね』


『分かってる』


『また今度は禁止』


 そこまで見て、悠真は少し笑った。


『じゃあ次いつにする?』


 そう打ってみる。


 送信ボタンの上で指が止まる。


「……明日でいいか」


 文章を消した。


 時刻は十一時四十一分。


 ニュースアプリを開く。


 寝る前に見るのが習慣だった。


 国内。


 経済。


 スポーツ。


 地域。


 上から順番に軽く眺める。


 途中、一つの記事を開いた。


『ページを表示できません』


「あれ」


 戻る。


 別の記事を押す。


 同じ。


『ページを表示できません』


 もう一度戻る。


 最初から記事の画像が表示されていなかった。


「通信悪いのか?」


 Wi-Fiはつながっている。


 動画サイトも開ける。


 試しにブラウザを立ち上げると、普通に検索できた。


「アプリの不具合かな」


 その程度にしか思わなかった。


 ニュースアプリを閉じる。


 少しして、もう一度開いてみる。


 さっきまで表示されていた記事が何件か消えていた。


「更新されたか」


 悠真はスマートフォンを充電器につないだ。


 部屋の電気を消す。


 暗くなる。


 布団に入って目を閉じる。


 明日の仕事のこと。


 昼に何を食べるか。


 美月から連絡が来るか。


 そんなことをぼんやり考える。


 今日の朝までは、美月と再会するなんて思ってもいなかった。


 人生というのは、たまにこういうことが起こるらしい。


 でも別に急ぐ必要はない。


 明日もある。


 今週もある。


 来月も。


 来年も。


 時間なら、いくらでもある。


 だから美月に聞きたいことも、自分が言いたいことも、次に会った時でいい。


 また今度でいい。


 悠真はそう思いながら眠りについた。


 机の上には、開かれていない卒業アルバムが置かれていた。


 画面を消したスマートフォンには、美月との最後のメッセージが残っている。


『また今度は禁止』


 その言葉を悠真が本当の意味で理解するのは、まだ少し先のことだった。


          *


SYSTEM NOTICE


SERVICE TERMINATION SCHEDULED.


残り時間――


あと六日。

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