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俺の人生、サービス終了まであと六日らしい  作者: みき


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2/21

一日目 ②

 美月から連絡が来たのは、その日の夜八時を少し過ぎた頃だった。


『明日とか言ってたら絶対そのまま半年くらい経ちそうだから、今日ご飯行かない?』


 悠真は風呂から出たばかりだった。


 髪をタオルで拭きながらメッセージを読む。


「今日?」


 時刻を見る。


 二十時七分。


 少し遅い気もする。


 ただ、予定はない。


 冷蔵庫には冷凍チャーハンと卵しか入っていなかった。


『今から?』


『今から』


『行動力すごいな』


『悠真がなさすぎるだけ』


 そこまで読んで、悠真は笑った。


『分かった。どこ?』


 返事はすぐ来た。


 家から歩いて十五分ほどの所にあるファミリーレストランだった。


 着替えて外へ出る。


 夜の空気は少しだけ涼しい。


 駅前ほど人はいなかったが、道路にはまだ車が多かった。


 店に着くと、美月は窓際の席にいた。


「早くない?」


「家近いから」


「俺も近いけど」


「悠真が遅いんじゃない?」


「連絡来てから二十分で来たんだけど」


「高校の時なら十分で来てた」


「高校生と二十四歳を比べるなよ」


「歳取ったね」


「まだ二十四」


「田中さんと同じこと言ってる」


「誰?」


「会社の人」


 向かいに座る。


 メニューを開く。


「何食べる?」


「パスタかな」


「六年ぶりの再会でファミレスってすごいな」


「悠真、こういうの嫌?」


「全然」


「でしょ」


 美月は満足そうにメニューをめくった。


 注文を終えると、自然と高校時代の話になった。


「あの先生まだいるのかな」


「数学の?」


「そう。いつもチョーク折ってた人」


「ああ、いたな」


「悠真、よく怒られてたよね」


「寝てただけ」


「授業中寝て怒られるの普通だから」


「ちゃんとテスト取ってたからよくない?」


「そういう問題じゃない」


「美月だって化学の時間寝てたじゃん」


「寝てないよ」


「完全に寝てた」


「目閉じて考えてただけ」


「何を?」


「将来について」


「絶対嘘」


 二人で笑う。


 六年間の空白は思ったより簡単に埋まった。


 大学の話。


 高校の友人が今何をしているか。


 文化祭でクラス全員が遅くまで残ったこと。


 体育祭で美月が転んだこと。


「それ覚えてるの最悪」


「目の前だったし」


「悠真、笑ってたよね」


「笑ってない」


「絶対笑ってた」


「心配してた」


「笑いながら?」


「優しい笑顔」


「最悪」


 料理が届いた。


 美月がフォークでパスタを巻きながら、ふと思い出したように言う。


「そういえばさ」


「ん?」


「高校の時、私に好きな人いたって知ってた?」


 悠真のフォークが止まった。


「急だな」


「昔話してたから思い出しただけ」


「知らない」


「嘘。噂とか聞かなかった?」


「全然」


「意外」


「誰?」


「教えない」


「なんでだよ」


「今さら言ってもしょうがないし」


「同じ学校?」


「そう」


「同じクラス?」


「質問は禁止」


「もういいよ」


「気になる?」


「少し」


「少しなんだ」


 美月が意味ありげに笑う。


「じゃあ悠真は?」


「何が?」


「好きな人」


「いたよ」


「え」


 今度は美月のフォークが止まった。


「いたの?」


「いた」


「知らなかった」


「言ってないからな」


「誰?」


「教えない」


「私には聞いたじゃん」


「美月も教えなかっただろ」


「同じ学校?」


「質問は禁止」


「むかつく」


 美月が笑う。


 悠真も笑いながら水を飲んだ。


 胸の奥が少しだけ騒がしかった。


 好きだった人。


 目の前にいる。


 そんなことを今さら言う必要はないと思った。


 六年前の話だ。


 卒業式の日も言えなかった。


 大学に入ったら、どうでもよくなると思っていた。


 実際、美月のことを何年も考えない時期もあった。


 それなのに今日会っただけで、当時の感覚が少しずつ戻ってきている。


「悠真?」


「ん?」


「ぼーっとしてる」


「してない」


「してたよ」


「仕事で疲れてるだけ」


「社会人っぽい」


「美月も社会人だろ」


「私はちゃんとした社会人だから」


「俺がちゃんとしてないみたいに言うな」


 食事を終えても、二人はしばらく店にいた。


 コーヒーを追加して、昔話を続ける。


 高校三年の文化祭。


 受験。


 卒業式。


 そこから大学生活。


 仕事。


 六年分すべてを話せるわけではない。


 それでも、知らない時間を少しずつ交換していくような感覚があった。


「転職とか考えないの?」


 美月が聞いた。


「俺?」


「うん」


「今のところは別に」


「今の仕事好き?」


「好きでも嫌いでもないかな」


「悠真らしい」


「どういう意味」


「昔からそうだったじゃん。何か絶対これがしたい、みたいなのあんまりなかった」


「悪かったな」


「悪いって言ってないよ」


「美月は?」


「私はちょっと考えてる」


「転職?」


「うん。まだ決めてないけど」


「へえ」


「そのうちちゃんと話す」


「何それ」


「今日は昔話の日だから」


「勝手に決めたな」


「次があるんだからいいでしょ」


 その言葉に、悠真は一瞬だけ美月を見る。


「次?」


「何。もう会わないつもりだった?」


「いや」


「じゃあいいじゃん」


「まあな」


 店を出た頃には十時を過ぎていた。


 二人で少し歩く。


 分かれ道まで来る。


「今日はありがと」


 美月が言った。


「俺何もしてないけど」


「来てくれたじゃん」


「誘われたから」


「そういうところも変わらないね」


「何が?」


「別に」


「なんだよ」


「また行こうね」


「うん」


「いつ?」


 悠真は少し考える。


「また今度な」


 口にした瞬間、美月がじっとこちらを見た。


「何」


「悠真の『また今度』って、信用できないんだよね」


「今日も同じこと言われた」


「誰に?」


「田中さん」


「じゃあ直した方がいいんじゃない?」


「そのうちな」


「それも信用できない」


 美月が吹き出した。


「じゃあ、おやすみ」


「おやすみ」


「またね」


「うん。また」


 美月が歩き出す。


 悠真も反対方向へ向かう。


 少ししてスマートフォンが震えた。


『今日は楽しかった』


 悠真は歩きながら返信する。


『俺も』


 数秒後。


『ちゃんと次もあるからね』


『分かってる』


『また今度は禁止』


『厳しいな』


『じゃあね』


 そこで会話は途切れた。


 悠真は画面を消した。


「また今度、か」


 口にすると、本当にいつになるのか分からない言葉だった。


 高校を卒業した時も、似たようなことを言った気がする。


 また会おう。


 また遊ぼう。


 いつでも連絡できる。


 そう思っていたら、六年経った。


「まあ、今度はそんなに空かないだろ」


 悠真は一人でつぶやいた。


 その言葉を疑う理由は、どこにもなかった。

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