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俺の人生、サービス終了まであと六日らしい  作者: みき


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19/21

六日目 ③

 夕方。


 二人は川沿いの遊歩道を歩いていた。


 昼間より風が涼しくなっている。


 空は少しずつオレンジ色に変わり始めていた。


 川面に夕日が映る。


 美月は白い猫のぬいぐるみを紙袋に入れ、大事そうに持っていた。


「今日結構歩いたね」


「疲れた?」


「少し」


「座る?」


「うん」


 遊歩道の端にベンチがあった。


 二人で座る。


 目の前を自転車が一台通り過ぎる。


 そのあとは、しばらく誰も来なかった。


「静かだね」


 美月が言う。


「この時間いつもこんなじゃない?」


「そうだっけ」


「たぶん」


「たぶん禁止」


「まだそれ続いてたの」


「続いてます」


 二人で笑う。


 でも悠真は落ち着かなかった。


 今日言う。


 そう決めていた。


 朝から何度も頭の中で考えた。


 言葉まで考えた。


 それなのに、美月が隣にいると全部飛んでいく。


「悠真」


「ん?」


「緊張してる?」


「何で」


「さっきから手動いてる」


 気づけば、悠真は自分の指を何度も組み直していた。


「……少し」


「私も」


「美月も?」


「だって昨日の約束あるし」


「そうだった」


「忘れてないよね?」


「忘れてない」


 美月が川を見る。


「じゃあ」


「うん」


「どっちから言う?」


 悠真は少し考えた。


「俺から」


「いいの?」


「昨日、美月に明日言うって言ったから」


「私も言ったけど」


「じゃあ俺が先」


「分かった」


 美月は膝の上に手を置いた。


 悠真は一度息を吐く。


「高校の時」


「うん」


「俺、美月のこと好きだった」


 言った。


 思っていたより簡単だった。


 六年間言えなかった言葉。


 それが、たった一秒で口から出た。


 美月は何も言わない。


「……何か言って」


 悠真が言うと、美月が小さく笑った。


「知ってた」


「は?」


「知ってた」


「嘘だろ」


「分かりやすすぎたよ」


「じゃあ何で何も言わなかったんだよ」


「自信なかったから」


「知ってたんじゃないの?」


「たぶん、って感じ」


「たぶん禁止じゃなかった?」


「今はいいの」


 美月が笑う。


 でも目が少し潤んでいるように見えた。


「じゃあ、美月は?」


「言うよ」


「うん」


 美月は一度下を向いた。


 それから悠真を見る。


「私も、高校の時ずっと悠真が好きだった」


 悠真は何も言えなくなった。


「……本当に?」


「うん」


「文化祭の写真」


「悠真と二人で撮れるって聞いて、緊張してた」


「傘の時は?」


「嬉しかった」


「卒業式は?」


「告白しようと思ってた」


「何でしなかったの」


「悠真が普通に『またね』って言うから」


「俺のせい?」


「半分は」


「残り半分は?」


「私が怖かったから」


 美月は笑った。


 少しだけ泣いている。


「何で泣くんだよ」


「泣いてない」


「泣いてる」


「夕日」


「関係ないだろ」


「じゃあ悠真のせい」


「何で俺」


「遅いから」


 美月が目元を指で軽く拭いた。


「六年だよ」


「ごめん」


「ほんとに遅い」


「美月もだろ」


「私は待ってたの」


「何を?」


「悠真が言うの」


「だから分かんないって」


 二人で笑った。


 そのあと、悠真は少しだけ黙った。


 まだ終わっていない。


 高校時代の話は言った。


 でも本当に言いたかったのは、その先だ。


「美月」


「うん」


「もう一個ある」


 美月がこちらを見る。


「高校の時だけじゃない」


 声が少し震える。


 でも止めなかった。


「再会してから、毎日会って、話して。美月が遠く行くかもって聞いた時、普通に嫌だった」


 美月は黙って聞いている。


「俺、六年間ずっと好きだったわけじゃないと思う。美月のこと全然考えてなかった時もあったし」


「うん」


「でも、今は」


 一度息を吸う。


「今も好きだ」


 言えた。


 今度こそ。


 先延ばしにしなかった。


 美月は悠真を見たまま、何も言わない。


「……美月?」


「遅い」


「またそれ?」


「だって」


 美月の目から今度こそ涙が落ちた。


「私も、今も好き」


 悠真の胸の奥が一気に熱くなる。


「本当に?」


「何回聞くの」


「いや」


「私も好き」


 美月が笑った。


「ちゃんと言ったからね」


「うん」


「聞こえた?」


「聞こえた」


「じゃあ忘れないで」


「忘れない」


 二人の間に沈黙が落ちる。


 でも今までとは違った。


 何かを隠すための沈黙ではない。


 言いたかったことを全部言ったあとの静かな時間だった。


「じゃあ」


 美月が口を開く。


「これからどうする?」


「え?」


「両想いって分かったんだから」


「ああ」


「普通どうするの?」


 悠真は少し考える。


「普通に付き合うだろ」


 美月が笑う。


「普通って何」


「俺に聞くなよ」


「彼女いたことないんでしょ」


「美月はあるだろ」


「半年だけ」


「先輩じゃん」


「何の先輩」


「恋人の」


「嫌な言い方」


 二人で笑う。


「じゃあ」


 悠真は少し照れながら言った。


「付き合ってください」


 美月は一度だけ瞬きをした。


 そして、


「はい」


 と答えた。


 それだけだった。


 特別な音楽もない。


 花火もない。


 誰も祝ってくれない。


 川の音と、遠くを走る車の音だけ。


 でも悠真には、それで十分だった。


「何か変な感じ」


 美月が言う。


「何が?」


「今日から彼氏なんだ」


「そうらしい」


「他人事みたい」


「まだ実感ない」


「私も」


 二人の手がベンチの上で近づいていた。


 悠真は少し迷う。


 そして、美月の手に自分の手を重ねた。


 美月が驚いてこちらを見る。


「嫌?」


「ううん」


 美月の指が少し動く。


 そのまま手をつなぐ。


「高校の時にこれできてたらな」


 悠真が言う。


「たぶん無理だったよ」


「何で」


「二人ともこんなだったから」


「確かに」


「でも今できたからいいじゃん」


「そうだな」


 空はもうすぐ夕暮れを終えようとしていた。


 悠真は、美月の手の温かさを感じながら思う。


 今日ちゃんと言えてよかった。


 本当に。


 明日にしなくてよかった。


 そのことだけは、間違っていなかった。

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