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俺の人生、サービス終了まであと六日らしい  作者: みき


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20/21

六日目 ④

 夕食は、駅近くの小さな居酒屋に入った。


「付き合った初日の夕飯がここ?」


 美月が店の看板を見ながら笑う。


「嫌なら別のところ行く?」


「ううん。こういうのでいい」


「昼も普通でいいって言ってたな」


「だって普通がいいもん」


「初デートっぽい店とかじゃなくて?」


「今日一日ずっとデートだったでしょ」


「そうなの?」


「今さら?」


 二人で店に入る。


 カウンターではなく、奥の二人席に座った。


 料理を何品か頼む。


 さっき告白したばかりなのに、話す内容は今までとそれほど変わらなかった。


 仕事。


 高校。


 田中のこと。


 美月の転職。


「転職どうするの?」


 悠真が聞く。


「たぶん、こっちに残る」


「俺のせい?」


「半分」


「半分なんだ」


「全部って言ったら重いでしょ」


「別に」


「じゃあ七割」


「増えた」


「残り三割は仕事」


「ちゃんと考えろよ」


「考えてるよ」


 美月は笑う。


「でも、こっちに残ってもやりたい仕事探せるし」


「そうだな」


「悠真もいるし」


 その一言に、まだ慣れない。


「何?」


 美月が聞く。


「いや」


「嬉しい?」


「うん」


「素直になったね」


「今日から」


「続くかな」


「続ける」


「じゃあ期待しとく」


 二人で食事をする。


 美月がスマートフォンを出した。


「今度映画行こうよ」


「何見る?」


「まだ決めてない」


「じゃあ公開予定見よう」


 美月が映画情報のページを開く。


 しばらく操作する。


「あれ?」


「どうした?」


「開かない」


「通信悪い?」


「また最近のやつかな」


 画面には、


『現在サービスをご利用いただけません』


 と表示されている。


「明日見ればいいじゃん」


 悠真が言う。


「そうだね」


 美月はスマートフォンを置いた。


「じゃあ映画は明日決める」


「うん」


「あと水族館も行きたい」


「近くの?」


「遠い方」


「結構遠いぞ」


「泊まりで行けばいいじゃん」


「いきなり旅行?」


「嫌?」


「嫌じゃないけど」


「じゃあいつ行く?」


「来月くらい?」


「休み合わせないと」


「予定見るよ」


「私も」


 未来の話が増えていく。


 映画。


 水族館。


 旅行。


「クリスマスって何する?」


 美月が聞く。


「まだ先だろ」


「すぐだよ」


「何したい?」


「イルミネーションとか」


「人多そう」


「彼氏がそういうこと言う?」


「事実じゃん」


「じゃあ人少ないところ探して」


「難しいな」


「時間あるでしょ」


「まあな」


 時間ならある。


 悠真はそう思った。


「誕生日いつだっけ」


「私?」


「うん」


「忘れたの?」


「月は覚えてる」


「日にちは?」


「……二十二?」


「二十四」


「惜しい」


「全然惜しくない」


「じゃあ二十四な」


「ちゃんと覚えて」


「何欲しい?」


「今聞く?」


「考える時間あるから」


「じゃあ考えとく」


 美月が笑う。


「悠真の誕生日も祝うからね」


「別にいいよ」


「そういうの禁止」


「じゃあお願いします」


「素直でよろしい」


 二人はずっと、これからの話をした。


 次の休み。


 来月。


 冬。


 来年。


 まるで今日まで言えなかった分を埋めるように。


 店を出た頃には、夜もかなり遅くなっていた。


 駅前は昼より静かだった。


 電光掲示板には運休の文字が増えている。


「今日電車少なくない?」


 美月が言う。


「何かあったのかな」


「最近多いね」


「まあ明日には戻るだろ」


「そうだね」


 それだけで終わった。


 二人は駅まで少し遠回りして歩いた。


 手をつなぐ。


 最初は少し恥ずかしかったが、しばらくすると自然になった。


「今日、長かったね」


 美月が言う。


「朝からいたからな」


「楽しかった」


「俺も」


「明日は?」


「仕事」


「知ってる」


「美月もだろ」


「仕事終わったら」


「会う?」


「うん」


「じゃあ会おう」


「何する?」


「今日みたいなのでいいんじゃない?」


「付き合って二日目なのに?」


「普通がいいって言ったの美月だろ」


「そうだけど」


「じゃあ飯でも食おう」


「どこ?」


「明日決める」


「また明日」


「今度は禁止なんだろ」


「覚えてたんだ」


「さすがに」


 駅が近づく。


 別れる場所。


 六日前なら、ここで美月と再会することすら想像していなかった。


 今は手をつないで歩いている。


「じゃあ、ここだね」


 美月が言う。


「うん」


 手を離す。


 少しだけ寂しい。


「今日ありがと」


「何が?」


「いろいろ」


「俺も」


「ちゃんと言ってくれて」


「美月も」


「六年かかったけどね」


「もう言うなよ」


「一生言うかも」


「長いな」


「覚悟して」


 二人で笑う。


 美月が改札へ向かう。


 途中で立ち止まった。


 振り返る。


「悠真」


「何?」


 美月が笑った。


「じゃあ、また明日」


 何度も聞いた言葉だった。


 でも今日は、今までで一番自然に返せた。


「また明日」


 美月は手を振り、改札の向こうへ消えていった。


 悠真はしばらくそこに立っていた。


 それから一人で帰宅した。


 家に着く。


 服を着替える。


 風呂に入る。


 ベッドへ座ったところで、スマートフォンが震えた。


 美月。


『家着いた』


『俺も』


『今日ほんと楽しかった』


『俺も』


『彼氏になった実感ある?』


『まだちょっと』


『ひどい』


『美月は?』


『ある』


『早いな』


『六年待ったから』


『またそれ』


 悠真は笑う。


 少しして、美月から新しいメッセージ。


『明日どこ行く?』


 悠真は考える。


 仕事終わり。


 どこかで夕食。


 映画の予定も決めたい。


 旅行の話も。


 話すことはいくらでもあった。


『起きてから決めよう』


 送信。


『了解』


 数分後。


『おやすみ』


 悠真は画面を見る。


 今日一日。


 美月と出かけた。


 ぬいぐるみを取った。


 高校へ行った。


 告白した。


 恋人になった。


 明日からは、今までとは少し違う毎日が始まる。


 そんな気がしていた。


『おやすみ。また明日』


 送る。


 すぐに既読。


『また明日』


 悠真はスマートフォンを枕元に置いた。


 部屋の電気を消す。


 暗闇の中で、今日のことを思い返す。


「言えてよかったな」


 小さくつぶやく。


 もし今日も先延ばしにしていたら。


 また今度。


 明日でいい。


 そう言っていたら。


 美月とはまだ昔の友人のままだった。


 でも今日は違う。


 ちゃんと言った。


 それだけで、こんなにも明日が楽しみになる。


 明日は仕事がある。


 終わったら美月に会う。


 映画の予定を決める。


 来月の旅行も。


 クリスマスも。


 誕生日も。


 これからいくらでも時間はある。


「明日か」


 悠真は少し笑った。


 目を閉じる。


 眠りはすぐにやってきた。


 町にも、いつものように夜が訪れていた。


 住宅街の明かりが、一つずつ消えていく。


 誰かが眠る。


 誰かが明日の予定を立てる。


 誰かが目覚ましをセットする。


 誰かが、


「また明日」


 と言って通話を切る。


 朝になれば、また一日が始まる。


 誰も疑っていなかった。


 悠真も。


 美月も。


 この世界で暮らす誰もが。


 明日が来ると信じていた。


SYSTEM NOTICE


SERVICE TERMINATION SEQUENCE STARTED.


00:00:10


00:00:09


00:00:08


 悠真のスマートフォンの画面が一度だけ光った。


 美月から新しいメッセージが届いていた。


『明日、楽しみにしてる』


00:00:07


00:00:06


00:00:05


 悠真は眠っている。


 通知には気づかない。


 明日の朝に読めばいい。


 美月も、そう思って送ったのだろう。


00:00:04


00:00:03


 窓の外。


 町の明かりが一つ消えた。


 また一つ。


 そしてまた一つ。


00:00:02


 美月の部屋。


 机の上には、今日取った白い猫のぬいぐるみが置かれていた。


 その隣で、スマートフォンの画面が消える。


 最後に表示されていたのは、悠真とのやり取りだった。


『おやすみ。また明日』


『また明日』


00:00:01


SERVICE TERMINATED.


ACTIVE USER : 0


ACTIVE PROCESS : 0

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