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俺の人生、サービス終了まであと六日らしい  作者: みき


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18/21

六日目 ②

 喫茶店を出たあと、二人は本屋へ向かった。


 美月が新しい小説を見たいと言ったからだった。


「悠真って本読む?」


「たまに」


「何読むの?」


「何でも」


「またそれ」


「本当に何でも読むんだよ」


「恋愛小説は?」


「ほとんど読まない」


「何で?」


「恥ずかしい」


「読むだけで?」


「何かむずむずする」


「悠真らしい」


「美月は?」


「読むよ」


「好きなの?」


「結構好き」


 美月は棚から一冊取った。


 表紙を見せる。


「こういうの」


「どんな話?」


「ずっと友達だった二人が、大人になってから恋人になる話」


 悠真は数秒止まった。


「……狙ってる?」


「何が?」


「いや」


 美月が笑う。


「偶然」


「絶対嘘だろ」


「本当だって」


「買うの?」


「うん」


「じゃあ貸して」


「恋愛小説読まないんじゃなかった?」


「ちょっと気になる」


「じゃあ読み終わったら貸す」


 美月は本を持ってレジへ向かった。


 悠真はその後ろ姿を見る。


 読み終わったら。


 その言葉が自然に未来を作る。


 来週か。


 再来週か。


 いつになるか分からない。


 でもその時も美月と会う。


 それが当たり前のように思えた。


 本屋を出たあと、ゲームセンターへ行った。


 美月がクレーンゲームの前で止まる。


「これ欲しい」


 小さな白い猫のぬいぐるみ。


「取れるの?」


「悠真取って」


「無理」


「やる前から?」


「こういうの苦手」


「じゃあ私やる」


 美月が百円玉を入れる。


 一回目。


 動かない。


 二回目。


 少しだけずれる。


 三回目。


「惜しい」


「全然惜しくないだろ」


「今のは惜しい」


「あと何回やるの」


「取れるまで」


「怖いな」


 結局、千円以上使っても取れなかった。


「もうやめろって」


「あと一回」


「さっきも言った」


「今度こそ」


 美月がもう一度操作する。


 アームがぬいぐるみをつかむ。


 持ち上がる。


 二人とも少し前へ出る。


「いけ」


「いけいけ」


 ぬいぐるみが落ちる。


「……」


「……」


 穴のすぐ横。


「惜しい!」


「これは惜しい」


「でしょ!」


 美月が本気で悔しがっている。


「次俺やる」


「え」


「一回だけ」


「取れる?」


「知らん」


 悠真が百円玉を入れる。


 適当に位置を合わせた。


「そこ?」


「うん」


「もうちょっと右じゃない?」


「美月失敗してるんだから黙って」


「ひどい」


 ボタンを押す。


 アームが降りる。


 白い猫をつかむ。


 持ち上げる。


「お」


「え、待って」


 そのまま穴の上。


 落ちた。


「取れた」


「嘘」


 美月が景品口からぬいぐるみを取り出す。


「一回で?」


「才能あるかも」


「私の千円返して」


「知らないよ」


 美月は猫のぬいぐるみを見て、それから悠真を見る。


「これ、もらっていい?」


「美月が欲しかったんだろ」


「でも悠真が取った」


「じゃああげる」


「ありがと」


 美月は嬉しそうに抱えた。


「大事にする」


「そんな大げさな」


「最初のプレゼントじゃん」


 悠真の動きが止まる。


「プレゼント?」


「違う?」


「いや、まあ」


「じゃあ最初のプレゼント」


「付き合ってもないのに?」


 言った瞬間。


 二人とも黙った。


 美月がぬいぐるみを見る。


「……そうだね」


 声が少し小さくなる。


「いや」


 悠真はすぐ続ける。


「そういう意味じゃなくて」


「分かってる」


「今日言うから」


 美月が顔を上げた。


「うん」


「だから、それ持ってて」


「……うん」


 今度の返事は少し嬉しそうだった。


 ゲームセンターを出る。


 昼を過ぎている。


 二人は簡単に昼食を済ませ、そのあと昔通った高校の近くまで歩いた。


 休みの日だから、校内は静かだった。


 運動部の声が少し聞こえる。


「ここ、何回来たんだろ」


 美月が言う。


「毎日だろ」


「三年間だから……すごい回数だね」


「考えたことないな」


「普通は考えないよ」


 校門から少し離れた道を歩く。


 卒業式の日に話した場所も通った。


 美月がそこを見て足をゆるめる。


「ここ」


「覚えてる」


「昨日話したところ」


「うん」


「本当に覚えてる?」


「美月が『またね』って言って帰った」


 美月が少し驚く。


「そこまで?」


「その時は普通だと思ってたけど」


「そっか」


「美月は?」


「覚えてるよ」


「何考えてた?」


「言おうかなって」


「昨日の話?」


「うん」


「でも言わなかった」


「言えなかった」


 二人は立ち止まる。


 昔はここに制服姿で立っていた。


 今は二人とも大人になっている。


「もっと早く、こういうことしてればよかったね」


 美月が言った。


「こういうこと?」


「一緒に出かけたり。話したり」


「高校の時も話してただろ」


「学校ではね」


「じゃあ俺が誘えばよかった」


「ほんとだよ」


「美月も誘えばよかったじゃん」


「私は待ってたの」


「何を?」


 美月がこちらを見る。


「悠真が誘ってくれるの」


「……分かるわけないだろ」


「だから鈍いって言ったの」


「そんなに?」


「かなり」


「高校の俺に言ってくれ」


「今日言ってる」


「遅いな」


「お互いね」


 二人は笑った。


 笑ったあと、少しだけ静かになる。


 悠真は思う。


 本当に、もっと早くこうしていればよかった。


 六年前。


 五年前。


 一年前。


 何なら一週間前でも。


 でも、過ぎた時間は戻らない。


 今できることをするしかない。


「美月」


「何?」


「夕方、ちょっと行きたいところある」


「どこ?」


「川沿い」


「この前の?」


「うん」


「分かった」


 そこで言おう。


 悠真は決めた。


 ちゃんと顔を見て。


 昔好きだったこと。


 今も好きなこと。


 全部。


 美月は何も知らず、白い猫のぬいぐるみを抱えて歩き始めた。


 その姿を見ながら、悠真も隣へ並んだ。


 午後の空は青かった。


 少し遠くを見ると、雲の形が妙に変わらないような気もした。


 けれど、そんなことを気にする理由はなかった。

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