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俺の人生、サービス終了まであと六日らしい  作者: みき


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10/21

四日目 ①

 昼休みの少し前、悠真のスマートフォンが短く震えた。


 仕事中だったので、すぐには見なかった。資料を一つ仕上げ、上司へ送ってから画面を開く。


 高校時代の友人、佐々木からだった。


『懐かしいの出てきた』


 その下に写真が何枚か送られている。


「何だこれ」


 一枚目を開く。


 高校三年の文化祭。


 教室の前で何人かが並んでいる集合写真だった。


 悠真は端の方にいる。今見ると、髪も長いし、制服の着方も適当だった。


 隣には美月。


 笑いながら、片手で小さくピースをしている。


 悠真は画面を少し拡大した。


「……若いな」


「何見てんの?」


 田中が横からのぞこうとする。


「高校の写真です」


「例の子いる?」


「何でそれ聞くんですか」


「いるんだな」


「いますけど」


「見せて」


「嫌です」


「いいじゃん」


「自分の昔の写真見せるの恥ずかしいんですよ」


「じゃあその子だけ」


「もっと嫌です」


 田中は笑いながら自分の席へ戻った。


 悠真はもう一度写真を見る。


 昨日、美月に言えなかった言葉を思い出した。


 遠くへ行ったら、普通に寂しい。


 結局、まだ言えていない。


 メッセージ画面を開く。


 写真をそのまま美月に送った。


『佐々木から来た』


 既読はすぐについた。


『うわ』


『何その反応』


『若い』


『まだ十八だろ』


『悠真、髪長い』


『そこ?』


『制服もぐちゃぐちゃ』


『一日目にも言われた』


『事実だから』


 悠真は笑う。


 少しして、美月からもう一件届く。


『この写真、覚えてる』


『俺も』


『文化祭の最後の方だよね』


『たぶん』


『たぶん禁止』


『じゃあそう』


 そこで少し間が空く。


 悠真はもう一度写真を見る。


 当時は気にしていなかったが、二人の距離は思ったより近かった。


 肩が触れそうなくらいだった。


 そのうえ、美月の顔は少し赤いようにも見える。


 気のせいかもしれない。


 そう思っていた時、美月からまたメッセージが届いた。


『この時、私すごい緊張してた』


 悠真は思わず画面を見直した。


『なんで?』


 すぐには返事が来ない。


 一分。


 二分。


 昼休みの時間になり、周りの社員が立ち始める。


「水瀬、飯」


「今行きます」


 スマートフォンを置こうとした時、画面が光った。


『秘密』


「またかよ」


 小さくつぶやく。


「何が?」


 田中が聞く。


「何でもないです」


「最近それ多いな」


「うつったんです」


「誰から?」


「……友達です」


「例の子?」


「飯行きましょう」


 悠真は立ち上がった。


 昼食を食べながらも、頭にはさっきの写真が残っていた。


 美月が緊張していた理由。


 文化祭。


 二人で写真を撮った。


 それだけなら緊張する理由はない。


 少なくとも悠真なら。


 いや、自分は当時かなり緊張していた。


 好きだったから。


「水瀬」


「はい」


「またぼーっとしてる」


「してません」


「最近してる」


「田中さんまで言うんですか」


「その子にも言われる?」


「何回か」


「じゃあしてるんだよ」


 田中が笑う。


 悠真は返事をせず、味噌汁を飲んだ。


 午後になってからも、美月から連絡はなかった。


 こちらから聞き直そうかと思ったが、「秘密」と言われたばかりだ。何度も聞くのも変だろう。


 仕事が終わる頃、美月からやっとメッセージが来た。


『今日ちょっと遅くなる』


『仕事?』


『うん』


『了解』


『何が了解なの』


『いや、なんとなく』


『今日会う約束してないよ』


『そうだった』


 送ってから、悠真は少しだけ恥ずかしくなった。


 ここ数日、毎日会っていた。


 だから今日も会うものだと勝手に思っていた。


 美月からすぐに返事が来る。


『会いたかった?』


 指が止まる。


『別に』


 そう打って、消す。


『まあ』


 それも消す。


 結局、


『最近毎日会ってたから』


 と送った。


 少しして、


『そっか』


 だけ返ってくる。


 それが少し不満そうにも見えた。


 文字だけでは分からない。


 悠真はまた打つ。


『美月は?』


 今度はすぐ既読になった。


 返事は少し遅かった。


『少し』


 悠真は画面を見つめた。


『少しなんだ』


 送る。


 昨日、自分が美月に言ったのと同じ言葉。


 美月も気づいたらしい。


『仕返し?』


『違う』


『絶対仕返し』


『美月が昨日言ってたから』


『じゃあ本当は?』


 また返事に困る。


 悠真は歩きながら考えた。


 本当はどうなのか。


 今日会わないと聞いて、少し残念だった。


 それは確かだった。


『少しよりは』


 送る。


 今度は、美月からなかなか返事が来なかった。


 駅に着く頃、やっとスマートフォンが震えた。


『私も』


 その二文字を見て、悠真は立ち止まりそうになった。


 後ろから来た人を避け、ホームの端へ寄る。


 何と返せばいいのか分からない。


 いつもなら冗談の一つでも言えるのに、今日は言葉が出てこない。


 少しして、美月からもう一件。


『仕事終わったら電話していい?』


『いいよ』


『たぶん九時くらい』


『分かった』


『寝ないでね』


『まだ寝ない』


『前に十時前に寝たことあるじゃん』


『高校の時だろ』


『覚えてる』


 悠真は少し笑った。


 美月は、自分でも忘れていたようなことをよく覚えている。


 それが最近、妙に嬉しい。


 帰宅して、夕食を済ませる。


 風呂にも早めに入った。


 時刻は八時四十分。


 まだ二十分ある。


 悠真は机の上に置いてある卒業アルバムを手に取った。


 あの日の文化祭のページを開く。


 美月が「緊張していた」と言った写真とは別のものだが、同じ日の写真が何枚か載っている。


 教室。


 飾り付け。


 クラスのみんな。


 美月。


 昔の自分。


「何で緊張してたんだろ」


 口にしてから、答えが一つしかないような気がした。


 でも、そんな都合のいい話があるだろうか。


 高校時代。


 自分は美月が好きだった。


 もし美月も。


「いや」


 悠真はアルバムを閉じた。


 勝手に期待するのはよくない。


 それに、もしそうだったとしても六年前の話だ。


 今とは違う。


 そう思ったところで、スマートフォンが鳴った。


 画面には、


『朝倉美月』


 の名前。


 悠真は一度息を吐いてから通話ボタンを押した。


「もしもし」


『お疲れ』


「お疲れ」


『起きてた?』


「まだ九時だぞ」


『悠真なら寝てるかと思った』


「俺を何だと思ってるんだよ」


『高校の時、修学旅行で十時に寝た人』


「朝早かったんだよ」


『みんなまだ起きてたのに』


「今は起きてる」


『じゃあよかった』


 美月の声が耳元で笑う。


 それだけで、さっきまで考えていたことが少しどうでもよくなった。


「仕事大変だった?」


『ちょっとだけ。でも終わった』


「そっか」


『うん』


 短い沈黙。


 でも切ろうとは思わなかった。


 美月も同じなのか、通話はそのまま続いていた。


「で」


『何?』


「写真」


『ああ』


「何で緊張してたの?」


『まだ聞くの?』


「気になるから」


『秘密って言ったじゃん』


「じゃあ何で緊張してたって言ったんだよ」


『言いたくなったから』


「理由になってない」


『いつか教える』


「そのうちじゃなくて?」


『悠真みたいにはしません』


「どういう意味だよ」


『そのまま』


 美月が笑う。


 悠真も少し笑った。


 答えはまだもらえなかった。


 でも、電話は始まったばかりだった。

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