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俺の人生、サービス終了まであと六日らしい  作者: みき


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11/21

四日目 ②

「そういえば、昨日言いかけたやつ」


『何?』


「傘の時」


『ああ……』


「何言おうとしたの?」


『忘れた』


「絶対嘘」


『本当に忘れた』


「美月、都合悪いことだけ忘れるよな」


『悠真に言われたくない』


 電話は、思っていたより長く続いた。


 最初は十五分くらい話して終わるつもりだった。


 仕事の話をして、美月が今日食べた夕飯の話をして、そこから昨日の雨の話になった。それがいつの間にか高校時代の話へ変わっていた。


 悠真はベッドに背中を預け、スマートフォンを耳に当てている。


「修学旅行の時、美月たち夜中まで起きてたよな」


『うん。三時くらい』


「次の日眠かっただろ」


『眠かった。でも楽しかった』


「俺は健康的だった」


『十時就寝は健康的すぎるでしょ』


「翌朝一番元気だった」


『そういうところだけ真面目なんだよね』


「そういうところだけって何」


『授業は寝るのに、集合時間だけは絶対守るとか』


「遅刻するよりいいだろ」


『悪いって言ってないよ』


 美月の声は、会って話している時より少し柔らかく聞こえた。


 顔が見えないからだろうか。


 話さなくても気まずくない時間がある。


 何か思い出した時だけ、どちらかが話し始める。


『ねえ』


「ん?」


『悠真って大学の時、彼女いた?』


 突然話が変わった。


「何で?」


『何となく』


「いなかった」


『一回も?』


「ない」


『へえ』


「何だよ」


『意外』


「失礼だな」


『だって普通にいそうだったから』


「美月は?」


『質問返しだ』


「聞いたんだから答えろよ」


『いたよ』


「……え」


 自分でも分かるくらい、声が止まった。


 美月が向こうで笑う。


『何その反応』


「いや、普通だろ」


『普通って?』


「大学四年あるんだから、まあ、いることもあるだろ」


『半年くらいだけね』


「へえ」


『興味なさそう』


「あるよ」


『何が?』


「いや……どういう人だったのかなって」


『優しい人だったよ』


「そっか」


『でも合わなかった』


「そうなんだ」


『何か質問ある?』


「面接みたいに言うなよ」


『だって気になってそうだから』


「別に」


『また別にって言った』


「じゃあ少し」


『少しなんだ』


「そのやり取り昨日やっただろ」


『便利だね』


 二人で笑う。


 でも、悠真の中には少しだけ引っかかるものが残った。


 六年間会わなかった。


 その間に美月に恋人がいても、何もおかしくない。


 むしろ当然だ。


 それなのに、少しだけ面白くない。


 自分でも勝手だと思う。


『悠真』


「何?」


『黙った』


「考えてた」


『何を?』


「別に」


『ほらまた』


「……じゃあ聞くけど」


『うん』


「高校の時に好きだった人って、その人とは違うんだよな?」


 美月が少し黙った。


『違うよ』


「そっか」


『何で?』


「いや、なんとなく」


『まだ気になってるんだ』


「そりゃ聞いたら気になるだろ」


『じゃあ悠真の方も教えてよ』


「何を?」


『高校の時好きだった人』


「嫌だよ」


『ずるい』


「美月も言ってないだろ」


『じゃあ質問だけ』


「何」


『同じ学校?』


「……うん」


『同じ学年?』


「うん」


『同じクラスになったことある?』


 悠真は少し迷った。


「ある」


『へえ』


「何だよ」


『別に』


「美月もそれ使うじゃん」


『便利だから』


「じゃあこっちも聞く」


『どうぞ』


「同じ学校?」


『うん』


「同じ学年?」


『うん』


「同じクラス?」


 少し間。


『……あるよ』


 悠真は黙った。


 美月も黙っている。


 二人とも同じ学校。


 同じ学年。


 同じクラスになったことがある。


 それだけなら、候補はたくさんいる。


 でも。


「文化祭の写真で緊張してたのって」


『その質問禁止』


「まだ最後まで言ってない」


『分かるから禁止』


「じゃあ関係あるんだ」


『言わない』


「美月」


『何』


「ずるくない?」


『悠真に言われたくない』


「俺は別に秘密匂わせてないだろ」


『今日の質問でだいぶ分かったけどね』


 悠真の心臓が一度強く鳴った。


「何が?」


『秘密』


「そればっかりだな」


『じゃあ悠真も教えて』


「何を」


『高校の時、好きだった人』


「今?」


『今』


 悠真は口を開きかけた。


 名前を言えばいい。


 たった二文字。


 美月。


 それだけ。


 高校時代の話だ。


 今の告白ではない。


 だから、言ってもいいはずだった。


 でも言えない。


「……無理」


『何で?』


「恥ずかしいだろ」


『六年前なのに?』


「六年前でも」


『じゃあ私も言わない』


「そうなるよな」


『なるよ』


 美月が小さく笑う。


『でもさ』


「うん」


『ちょっともったいなかったね』


「何が?」


『高校の時。お互い好きな人いたなら、ちゃんと言えばよかったのに』


「美月も言ってないじゃん」


『だから私も』


「怖かったんだよ」


 口から自然に出た。


 美月が黙る。


 悠真は続けた。


「言って、今までみたいに話せなくなるの嫌だったし。卒業も近かったし、大学別になるし。それなら言わない方がいいかなって」


『……そっか』


「今考えたら、ただ逃げてただけだけど」


『そんなことないんじゃない』


「美月は?」


『私?』


「何で言わなかったの?」


 電話の向こうが静かになる。


 遠くで何かの音がした。


 美月が動いたのかもしれない。


『同じ』


「同じ?」


『今の関係が変わるのが嫌だった』


「そっか」


『あと』


「あと?」


『相手が鈍かったから』


 悠真は笑った。


「それは相手が悪いな」


『本当にね』


「そこまで言う?」


『今でも変わってないし』


「今でも?」


 美月が一瞬黙る。


『何でもない』


「またそれ」


『忘れて』


「無理だろ」


『じゃあそのうち分かる』


「いつ?」


『そのうち』


「禁止じゃなかった?」


『私にはいいの』


「ずるい」


 二人で笑った。


 時刻を見る。


 十時半を過ぎている。


「結構話してるな」


『何時?』


「十時半」


『嘘』


「本当」


『一時間半?』


「それくらい」


『そんな話すことあったんだね、私たち』


「高校の時も電話してたじゃん」


『してたね』


「覚えてる?」


『覚えてるよ。試験前なのに二時間くらい話したことあった』


「それで美月、次の日眠いって怒ってた」


『悠真が切らなかったからでしょ』


「美月も切らなかっただろ」


『じゃあ半分ずつ悪い』


「そうだな」


 それからも電話は続いた。


 高校時代の話は尽きなかった。


 思い出していなかっただけで、二人の間には思ったよりたくさんの記憶が残っていた。


 どれも大きな出来事ではない。


 帰り道。


 授業。


 文化祭。


 雨。


 試験前の電話。


 そういうものばかりだった。


 でも、その普通の時間を、二人とも忘れていなかった。


 それが悠真には少し嬉しかった。

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