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第94話:期末テスト終了と、お姫様の奇襲

「……そこまで。解答用紙を後ろから前に回してください」


三日間にわたる期末テストの最終日、最後の科目である現代文の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

俺はシャーペンを置き、大きく、深く息を吐き出した。


(……終わった)


全身の力が抜け、泥のような疲労感が襲ってくる。

だが、その疲労感は決して嫌なものではなかった。

前回の中間テストの時のような「あと少しで」という後悔や焦りはない。零さんの地獄のドリルと、奏羽の甘いサポートのおかげで、持てる力は全て出し切ったという確かな手応えがあった。


「お疲れ、湊! 今回のテスト、全体的に難化してなかったか? 俺、数学で完全に死んだんだけど……」


親友の陸が、死んだ魚のような目をして俺の席にやってきた。


「……まぁ、難しかったけど。でも、なんとか食らいつけたと思う」

「マジかよ! お前、本当に化けたな……。愛の力、恐るべし」


陸が感心したように肩を叩いてくる。

その時、教室の入り口がザワッと騒がしくなった。


「——湊くんっ!」


振り返ると、そこには息を切らした奏羽が立っていた。

彼女は自分のクラスから全力で走ってきたらしく、冬服のセーターが少しだけ乱れている。

そして、周囲の目など一切気にせず、真っ直ぐに俺の席までやってくると、俺の胸に勢いよく飛び込んできた。


「わっ……!? 奏羽、お疲れ」

「湊くん、お疲れ様……っ! やったね、終わったね……!」


奏羽は俺の制服の胸元をぎゅっと握りしめ、顔を押し付けてきた。

その瞳は潤み、三日間の張り詰めていた緊張の糸が切れたように、身体が小刻みに震えている。


「手応えは、どうだった?」

「うん……! 湊くんと一緒に勉強したところ、いっぱい出たよ! わたし、今回は絶対に冴木くんに負けてないと思う!」

「そっか。よかった」


俺は彼女の背中を優しく撫でた。

クラスの連中が「また始まったよ」と生温かい視線を送ってくるが、今の俺たちには関係ない。


「……湊くんは? ちゃんと、わたしのお守り役に立った?」

「ああ。最高のお守りだった。……ありがとう、奏羽」


俺がズボンのポケットの上から、今朝もらった紺色のシュシュに触れて微笑むと、奏羽は「えへへ」と幸せそうに笑い、さらに強く俺に抱きついてきた。


「——コホン」


俺たちが教室のど真ん中でイチャついていると、入り口の方からわざとらしい咳払いが聞こえた。


「……テストが終わった途端にこれですか。全く、風紀もへったくれもあったものではないですね」


腕を組み、冷ややかな視線を送ってくるのは、一条副会長(零さん)だった。


「零さん! お疲れ様です」

「お疲れ様です。……風森さん、手応えはどうでしたか?」

「やれることはやりました。あとは結果を待つだけです」


俺が胸を張って答えると、零さんは眼鏡を指で押し上げ、小さく「ふむ」と鼻を鳴らした。


「……まあ、貴方のあの必死な勉強ぶりを見ていれば、無様な結果にはならないでしょう。……それにしても」


零さんは、俺の胸にすっぽりと収まっている奏羽を見て、呆れたようにため息をついた。


「会長、貴女は生徒会長なのですから、少しは自重しなさい。……それとも、テストのプレッシャーから解放されて、完全に『ポンコツ』に逆戻りですか?」

「ぽ、ポンコツじゃないもん! わたしはただ、湊くんに頑張ったご褒美をもらってるだけだもん!」


奏羽は顔を真っ赤にして反論するが、俺の制服を握る手は全く緩まない。


「……はぁ。勝手にしなさい。……私は生徒会室に戻ります。結果発表の日に、またお会いしましょう」


零さんはそう言い残し、踵を返して去っていった。

その後ろ姿は、どこか安心しているように見えた。


「……さて。湊くん、帰ろっか。翠ちゃん、お弁当持って待ってるよ」


奏羽が、俺の腕に自分の右腕を絡ませながら上目遣いで聞いてくる。


「ああ。テスト最終日の今日に合わせて、あいつ朝から張り切ってたからな。……でも、この寒空の下でピクニックって、本気だったんだな」


俺が窓の外の冬空を見て苦笑すると、奏羽は自分の鞄から、朝は外していたアイボリーのマフラーを取り出した。


「大丈夫だよ! 翠ちゃん、あったかいスープも作ってくれるって言ってたし。……それに、湊くんとお揃いのマフラー巻いてれば、全然寒くないもん!」


奏羽は嬉しそうにマフラーを首に巻き、俺の腕をぐいっと引っ張った。


過酷な期末テストを乗り越えた俺たちに与えられた、束の間の休息。

結果発表という最後の審判を前に、俺たちはピクニックの準備をして待つ妹の元へ、軽い足取りで向かっていくのだった。


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