第82話:妹の尋問と、お姫様のポンコツ弁明
「……というわけで、つまりお兄ちゃんは、この超絶美人の凪瀬 奏羽さんって人と、親に内緒で『同棲』してるわけだ」
リビングのダイニングテーブル。
焼き上がったホットケーキを前にして、俺と奏羽はまるで尋問を受ける容疑者のように並んで座らされていた。
対面には、腕を組んで俺たちをジロリと見据える妹の翠が、探偵のような鋭い目を光らせている。
「ち、違う! 同棲じゃなくて、これは彼女の親御さん公認の『勉強合宿』から始まった流れというか……」
「そうそう! わたし、お母様に『ここから登校しなさい』って言われてるの! だから、お泊まりは公認だよ!」
俺が必死に弁解しようとするのを遮るように、奏羽が身を乗り出して主張した。
しかし、彼女の「お泊まりは公認」という言葉の破壊力に、翠は呆れたように大きなため息をついた。
「……奏羽さん。親公認のお泊まりだとしても、朝から男の部屋で、彼氏の大きめパーカー羽織って、下はショートパンツ一丁でキッチンに抱きつきに来るのは、どう考えても『同棲中のカップル』のやることですよ?」
翠の的確すぎる指摘に、奏羽は「ひゃぅっ!」と顔を真っ赤にして、パーカーの裾をギュッと握りしめて太ももを隠そうとした。
「それに、お兄ちゃん。さっき『ウサギのぬいぐるみ』って誤魔化したよね? あれ、完全に奏羽さんを抱き枕にして寝てたってことでしょ。……お母さんたちが海外で一生懸命働いてる間に、息子は美少女とイチャイチャ同棲生活を満喫してたなんて……これは大スクープだわ」
「お、お前……それを親に言う気か!?」
「さあねー。私のお小遣いと、これからの待遇次第かな」
翠はニヤリと悪魔のような笑みを浮かべ、ホットケーキを口に運んだ。
「で? そもそも奏羽さんは、どうしてお兄ちゃんみたいな地味な図書委員と付き合ってるの? お兄ちゃん、なんか弱みでも握ってるわけ?」
「弱みなんて握ってないよ!」
奏羽が、少しだけ真剣な顔で翠を見つめた。
「わたしね、ずっと夜が怖くて眠れなかったの。でも、湊くんが隣にいてくれると、すごく安心して眠れるようになったの。湊くんはわたしの恩人で……世界で一番大切な人なんだよ」
奏羽の真っ直ぐな言葉に、翠は少しだけ驚いたように瞬きをした。
そして、ニヤニヤとした笑みを浮かべて俺を見る。
「へぇー……お兄ちゃんの『トントン』と『よしよし』、そんなに効くんだ。……で、そんな奏羽さんのお母さんは、お兄ちゃんのこと認めてくれてるの?」
「……一応な。夏休み明けの中間テストで学年十位以内に入るっていう条件をクリアしたから、今は『仮』だけど認められてる」
「はぁ!? 学年十位!?」
翠は今日一番の大声を上げ、椅子から転げ落ちそうになった。
「嘘でしょ!? お兄ちゃん、中の上くらいが定位置だったじゃん! 呪文か何か使ったの!?」
「失礼なこと言うな! 奏羽のサポートと、一条副会長って人の地獄の補習で、死ぬ気で勉強したんだよ!」
「……マジなんだ。愛の力、怖いわー……」
翠は呆れ果てたように天を仰いだ。だが、すぐに再び悪戯っぽい目に変わる。
「……わかった。親への報告は、とりあえず保留にしてあげる。お兄ちゃんがその『学年十位』をちゃんと維持できるか、私がこの目で見張ってあげるから」
「見張るって、どうやってだよ」
「決まってるじゃん」
翠は立ち上がり、リビングの横にある空いた客間を指差した。
「私が日本にいる間、私もこの部屋に泊まるから。……お兄ちゃんと奏羽さんの『甘々同棲生活』、間近でじっくり観察させてもらうね!」
「み、翠ちゃん……っ!」
奏羽が顔を真っ赤にして狼狽するが、翠は「お姉ちゃん、よろしくね!」と楽しそうに笑い、自分の荷物を客間へと運び込み始めた。
俺のマンションに、突然やってきた最強の監視者・翠。
彼女の滞在により、俺と奏羽の「二人きりの甘い夜」は、思わぬ伏兵の登場によって、新たな騒動の予感に包まれていた。




