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完璧な生徒会長は、平凡な俺の「声」がないと眠れないようです。  作者: Takayu
第1章:放課後の図書室と、氷の生徒会長の秘密
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第8話:ハンカチの真相と、日曜日の夜の秘密

放課後の図書室。

カウンターの奥、いつもと同じ死角のスペースには、すでに凪瀬さんが壁に寄りかかって待っていた。

俺の姿を見つけると、彼女はホッとしたように小さく息を吐き、自分の隣のスペースをトントンと叩く。


「……待たせた。柚原先輩から、新刊のリスト作りを頼まれててな」

「ううん。……湊くん」


俺が腰を下ろすか下ろさないかのうちに、凪瀬さんは俺の制服の袖口をぎゅっと掴んできた。

最近はもう、これが彼女のデフォルトの姿勢になっている。


「なぁ、凪瀬さん。昼休みの件なんだけど」

「……っ」


俺が切り出すと、彼女はビクッと肩を震わせ、気まずそうに目を逸らした。

俺はポケットから、昼休みに彼女から渡されたハンカチを取り出す。


「これ、確かに俺のハンカチなんだけどさ。俺、君に『貸した』覚えはないんだよな」


そう。見覚えがあるのは当然だ。それは俺が普段から使っている、紺色の無地のハンカチなのだから。

しかし、俺はこれを彼女に手渡した記憶がない。


「……あの、ね」


凪瀬さんは俺の袖を握る手に少しだけ力を込め、消え入るような声で口を開いた。


「土曜日に、公園のベンチで……湊くん、落としてたから。拾ったの」

「拾った? じゃあ、その時に言ってくれれば……」

「……返したく、なかったの」


凪瀬さんが、潤んだ上目遣いで俺を見上げてくる。


「湊くんの、匂いがしたから。……それを持っていれば、日曜日の夜も、少しだけ安心できるかなって」

「……」


破壊力が高すぎる。

つまり彼女は、俺の落とし物をこっそり持ち帰り、それを抱きしめて日曜の夜を過ごしたということか。

孤高の美少女が、俺のハンカチの匂いを嗅いで安心している姿を想像してしまい、顔に熱が集まるのを感じた。


「でも、それなら『拾ったから返す』でよかっただろ? なんでわざわざ、俺の教室まで来て、しかも『貸した』なんて嘘を……」


そこまで言って、俺は昼休みの彼女の行動——親友の陸に向けた、あの冷ややかな視線と、小悪魔のような微笑みを思い出した。


「もしかして……陸に見せつけるためか?」

「…………うん」


凪瀬さんは、耳まで真っ赤にしながら、小さくコクンと頷いた。


「だって……時野くん、湊くんのこと、カラオケに誘ってたって言うから。もしまた、休日に湊くんを連れ出されちゃったら……わたし、困るから」

「困るって……」

「だから……『湊くんは、わたしとハンカチを貸し借りするくらい仲がいいんだから、邪魔しないでね』って……わかってもらいたくて」


なんて不器用で、いじらしい牽制だろうか。

学園中から「近寄りがたい氷の姫」と恐れられている少女が、ただ俺の休日を自分だけのものにしたくて、わざわざ慣れない嘘をついてまで、俺の親友にマウントを取りに来たのだ。


「……はぁ。お前なぁ」


俺がわざとらしくため息をつくと、凪瀬さんは「怒ってる……?」と不安そうに眉を下げた。


「怒ってないよ。ただ……日曜日の夜、どうしても眠れなかったら連絡してくれって、俺のID渡しただろ? ハンカチなんかで我慢しないで、頼ってくれればよかったのに」


そう言うと、彼女はさらに顔を赤くして、俯いてしまった。


「……だって。湊くんの貴重な休日を、これ以上奪っちゃいけないって思って……我慢、したの」

「……本当に不器用だな、凪瀬さんは」


俺は苦笑いしながら、彼女の頭にポンと手を乗せた。

サラサラの黒髪が指の間に絡む。彼女は少しだけビクッとした後、されるがままに目を閉じ、猫のように気持ちよさそうに擦り寄ってきた。


「次は我慢するなよ。声が聞きたくなったら、いつでも電話していいから」

「……ほんとに?」

「ああ。俺の声で眠れるなら、安いもんだ」


俺がそう言うと、凪瀬さんは花が綻ぶような、それはそれは綺麗な笑顔を見せた。

そして、俺の右肩にこつんと頭を預け、シャツの袖口を両手でしっかりと握りしめる。


「……じゃあ、今日はこの本でいいか?」

「うん。……湊くんの声、すき」


大胆な発言に心臓が大きく跳ねたが、彼女にとっては「声が(睡眠導入剤として)好き」という意味なのだろうと、無理やり自分を納得させる。

俺は呼吸を整え、ゆっくりと物語を読み始めた。


「『——ある夜、星の降る丘で……』」


俺の肩で、すぐに規則正しい寝息が聞こえ始める。

俺のハンカチを抱きしめて、俺に迷惑をかけまいと一人で我慢していた日曜の夜。

その孤独を埋めるように、今日の彼女はいつもより深く、俺に体重を預けていた。


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