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第51話:朝のハプニングと、危険なエプロン姿の続き

「……んんっ」


翌朝、窓から差し込む眩しい朝日と、どこからか漂ってくる香ばしい匂いで俺は目を覚ました。

昨夜は雷のパニックで奏羽を寝かしつけた後、彼女が俺の袖を離さないものだから、結局そのまま客間のベッドで添い寝(というか腕枕)をする羽目になっていた。


「……あれ? 奏羽?」


隣を見ると、彼女の姿はすでになかった。

代わりに、リビングの方からパタパタという軽快な足音と、何かを炒めるような音が聞こえてくる。


「……まさか」


俺は嫌な予感がして、急いでベッドから跳ね起きた。

リビングのドアを開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「あ、湊くん! おはよう!」


キッチンに立っていたのは、奏羽だった。

だが、その服装が問題だ。

昨夜の「もこもこルームウェア」の上に、俺が普段使っている少し大きめのエプロンを身につけているのだが……。


「な、何やってんだお前! その格好!」


「え? 朝ごはん作ろうと思って。ほら、今日はわたしが頑張る日だから!」


奏羽は悪びれる様子もなく、フライパン片手にニコリと微笑んだ。

エプロンの下から覗く、ルームウェアのショートパンツから伸びる白くて細い足。

そして、大きめのエプロンのせいで、キャミソールの胸元が絶妙な角度で強調されている。

それは、世の男性が夢見る「裸エプロン」ならぬ「ルームウェア彼エプロン」という、破壊力抜群のシチュエーションだった。


「……っ! だ、だからって、火を使うのは危ないだろ! お前、料理スキルは……」

「大丈夫だよ! 今回はちゃんと動画見て予習したもん!」


俺が慌ててキッチンへ駆け寄ると、フライパンの上では、見事に綺麗なきつね色に焼けたパンケーキがふっくらと膨らんでいた。

焦げた目玉焼きの惨劇から数週間。彼女なりに特訓をしたのだろう。


「ほら、上手にできたでしょ?」


奏羽は自慢げにパンケーキをお皿に移し、俺の前に差し出した。


「……ああ、すごいな。本当に美味しそうだ」

「えへへ……。じゃあ、早く顔洗ってきて! 一緒に食べよ!」


俺は彼女の笑顔に毒気を抜かれ、素直に洗面所へと向かった。

(……朝から心臓に悪すぎるだろ、あの格好は)

洗面台の鏡に映る自分の顔が、明らかに赤くなっているのを見て、俺は深くため息をついた。


 * * *


ダイニングテーブルに向かい合って座り、二人でパンケーキを頬張る。

奏羽の特製パンケーキは、見た目通りフワフワで、甘さも控えめで本当に美味しかった。


「……うん、美味い。お前、本当に料理上手くなったな」

「ほんと!? やったぁ! ……湊くんのために、いっぱい練習した甲斐があったよ」


奏羽は嬉しそうに目を細め、メープルシロップをたっぷりとかけたパンケーキを口に運んだ。

その無防備な笑顔と、エプロン姿の隙間から覗く白い肌。

俺は目のやり場に困り、ひたすらパンケーキを見つめて食べるしかなかった。


「……湊くん? どうしたの、顔赤いよ?」

「な、なんでもない! ちょっと部屋が暑いだけだ」


「そっか。……ねえ、湊くん」


奏羽はフォークを置き、少しだけ身を乗り出してきた。


「今日から、本格的に夏休みの勉強合宿が始まるね。……わたし、湊くんを絶対に十位以内に入れてみせるから」

「ああ、頼りにしてるよ」


「……その代わり」


彼女は、ふふっと小悪魔のように微笑んだ。


「湊くんも、わたしにいっぱい『ご褒美』ちょうだいね? 勉強頑張ったら、その分だけ……」


「ご褒美って、お前……」


俺が呆れ半分でツッコミを入れようとした、その時だった。


「——ピンポーン」


静かな朝のマンションに、突然インターホンが鳴り響いた。

時計を見ると、まだ朝の八時。宅配便には早すぎる時間だ。


「……誰だ、こんな朝早くから」


俺が不思議に思いながら玄関のモニターを確認しようと立ち上がった瞬間、奏羽の顔色が変わった。


「っ……!」


モニターに映っていたのは、険しい表情で立つ一条副会長(零)の姿だった。

そして、彼女の手には、何故か分厚い参考書の束が握られている。


「……一条副会長!?」


俺が驚いて声を上げると、モニター越しの零が、氷のように冷たい声で言い放った。


「おはようございます、風森さん。……凪瀬夫人からの指示で、今日から貴方たちの『夏期特別合宿』の監視と指導に参りました。……さあ、ドアを開けなさい。地獄の始まりですよ」


「……」


俺と奏羽は、顔を見合わせた。

甘すぎる同棲生活の初日。

それは、最強の監視者・一条零の襲来によって、一瞬にして「地獄の勉強合宿」へと変貌を遂げようとしていた。


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