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第30話:「恋する生徒会長」の新しい顔と、嫉妬の炎

奏羽が「ありのままの自分でいる」と決意してから数日。

学園の空気は、少しずつ、しかし確実に変化していた。


「おい、見たかよ今日の生徒会だより。会長の挨拶、なんか前より柔らかくなってないか?」

「わかる! 前は氷みたいに冷たかったのに、最近はちょっと笑ってくれるよな」

「それってやっぱ、あの図書委員の彼氏の影響じゃね?」


廊下を歩いているだけで、そんな会話が聞こえてくる。

今までの彼女は、完璧すぎるが故に、生徒たちから「畏怖」の対象として見られていた。

しかし、俺との関係が公になってからというもの、彼女は時折見せる人間らしい表情——笑顔や、少し困ったような顔、俺を探してキョロキョロする姿——によって、いつしか「憧れ」の対象へと変わりつつあった。


「風森くーん、会長がまた昇降口で仁王立ちしてるよー。早く行ってあげなよー」

「湊ー、お前の彼女様が、お前の席の周り勝手に掃除してんだけどー」


俺へのクラスメイトたちの態度も、嫉妬から「生温かい見守り」へと変化し、もはや俺は奏羽の「飼い主」か「保護者」のような扱いを受けていた。


「会長、なんか可愛くなったよね」

「わかる。恋すると人って変わるんだねー」


女子生徒からの支持も、意外なことに上がっているようだった。

完璧な偶像が人間味を得たことで、親近感が湧いたのかもしれない。

零の心配をよそに、奏羽の「恋する生徒会長」という新しいスタイルは、思った以上に学園に受け入れられていた。


——だが、光が強くなれば、影もまた濃くなる。

その変化を、快く思わない者たちがいることを、俺たちはまだ知らなかった。


 * * *


その日の放課後。

俺が図書室へ向かう途中、見慣れない上級生と思しき男子生徒三人に取り囲まれた。

ガタイが良く、制服を着崩したその姿は、お世辞にも品行方正とは言えない。


「お前が、風森湊か?」


リーダー格の男が、俺を値踏みするように睨みつけてくる。


「……そうですけど、何か?」

「何かじゃねぇよ。……最近、凪瀬会長とイチャついてるって噂の、地味な図書委員クンだろ?」

「……」


嫌な予感がした。

これは、陸のような冷やかしではない。もっと粘着質で、悪意に満ちた嫉妬の匂いがする。


「会長はなぁ、俺たち3年生にとっての『女神』なんだよ。誰にも媚びず、気高く咲いてるからこそ、価値があったんだ」


男は一歩前に出て、俺の胸倉を掴んだ。


「それをお前みたいなポッと出の雑草が……馴れ馴れしく触って、色ボケさせてんじゃねぇよ」

「離してください」

「ああん? 聞こえねぇなぁ。会長から手を引けっつってんだよ。さもねぇと、お前のその澄ました顔がどうなるか……わかってんだろうな?」


男の拳が、ギリッと音を立てて握りしめられる。

まずい。完全に目をつけられてしまった。

奏羽の人気が高まった分、彼女を「独占」している俺への風当たりもまた、局地的に強くなっていたのだ。


「風森に、何をしている」


その時だった。

背後から、氷のように冷たく、静かな怒りを含んだ声が響いた。


振り返るまでもない。凪瀬奏羽だ。

彼女は俺と上級生たちを隔てるように間に立つと、その大きな黒い瞳で、リーダー格の男を真っ直ぐに睨みつけた。


「……な、凪瀬会長……」


男たちは、突然の本人登場に明らかに狼狽している。


「私の大切な人に、何か用ですか、先輩方」


奏羽の声には、いつもの甘ったるさは微塵もない。

それは、かつての「氷の生徒会長」が持っていた、全てを凍てつかせるような絶対零度の威圧感だった。


「いや、これはその……ちょっと、風森クンと親睦を深めようと……」

「そうですか。では、その『親睦』とやらは、生徒指導室で詳しくお聞かせ願いましょうか。……貴方方が、先週校舎裏で喫煙していた件と合わせて」


奏羽の言葉に、男たちの顔がサッと青ざめた。


「なっ……なんでそれを……!?」

「私は、この学園の全てを把握しています。……風紀を乱す害虫は、一匹残らず駆除するのが、私の仕事ですから」


奏羽は、ふっと冷たく微笑んだ。


「……失せなさい。私の前から。二度と、彼の前にその汚い顔を見せないで」


その気迫に完全に圧倒され、男たちは「ひぃっ!」と小さな悲鳴を上げて、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


嵐が去った後、奏羽はゆっくりと俺の方へ振り返った。

その顔には、もう氷の仮面はなく、涙目になって心配そうに俺を見上げる、いつもの彼女がいた。


「湊くん……! 大丈夫だった!? 怖かったよね……ごめんね、わたしのせいで……」


俺の胸に飛び込んできて、わんわん泣きじゃくる奏羽。

俺は彼女の背中を優しく撫でながら、改めて理解した。


彼女は、俺の前でだけ甘える「か弱い女の子」なんかじゃない。

俺を守るためなら、かつての「氷の生徒会長」にさえ戻って、たった一人で巨大な敵に立ち向かえる、誰よりも強く、気高い女性なのだと。


「……ありがとう、奏羽。助かったよ」


俺たちの関係は、もう甘いだけの日常ではない。

光も影も、二人で共に乗り越えていく。

その覚悟が、俺たちの絆をさらに強く結びつけていた。


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