表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/76

第17話:副会長からの挑戦状と、揺るがぬ意志

図書室の死角、静寂を破るように現れた一条(いちじょう) (れい)

彼女の銀縁眼鏡の奥の瞳は、まるで俺の内面を値踏みするように冷たく、そして鋭かった。


「……覚悟、ですか」


俺は一条副会長の言葉を反芻しながら、隣で肩を強張らせている奏羽を庇うように一歩前に出た。


「ええ。貴方がただの気まぐれや優越感で凪瀬会長に近づいているのなら、今すぐ手を引いていただきたい。会長は全校生徒の模範であり、完璧な存在でなければならない。貴方のような、何の後ろ盾もない平凡な図書委員が関わっていい相手ではありません」

「零っ! 湊くんはそんな人じゃ……!」


奏羽が声を荒らげて反論しようとするが、一条副会長は冷ややかな視線を彼女に向けた。


「会長は少し黙っていてください。これは、風森さん自身の問題です」


一条副会長は再び俺に向き直り、静かな、しかし威圧感のある声で続けた。


「……凪瀬会長が、夜まともに眠れていないことは、私も以前から気づいていました。彼女のプレッシャーの強さも、不器用さも。だからこそ、私は彼女が『完璧』であり続けられるよう、すべてのノイズを排除してきた。……それなのに、貴方はどうですか。彼女を甘やかし、依存させ、生徒会室から逃げ出すほどの醜態を晒させた。これが、貴方の言う『支え』ですか?」


痛いところを突かれた。

確かに、俺が甘やかしたせいで、奏羽は「完璧な生徒会長」としての仮面を保てなくなりつつある。昼休みにクラスに弁当を届けに来たり、生徒会室で副会長に逆らったり。

学園の秩序を守る一条副会長からすれば、俺は奏羽を堕落させる元凶に他ならない。


だが、それでも。


「……確かに、俺はただの平凡な図書委員で、生徒会のことなんて何もわかりません」


俺は真っ直ぐに、一条副会長の目を見つめ返した。


「でも、俺は奏羽さんを甘やかして堕落させているわけじゃない。彼女が『完璧な生徒会長』でいるために、夜の孤独とプレッシャーに押し潰されそうになっているのなら……俺は、彼女が安心して息継ぎできる場所でありたいんです」

「息継ぎできる場所、ですか」

「はい。昼間、どれだけ完璧を演じて疲れても、放課後にここへ来れば安心して眠れる。……俺は、彼女が壊れてしまう前に、ただ隣にいたいだけです」


俺の言葉に、一条副会長は小さく鼻で笑った。


「口で言うのは簡単です。……ですが、貴方にそれが務まるとは到底思えない。彼女が背負っている重圧は、貴方のような一般生徒が想像できるものではありませんよ」


一条副会長は、胸ポケットから一枚の紙切れを取り出し、俺の胸に突きつけた。


「これは……?」

「今週末の日曜日。生徒会主催で、近隣の学校の生徒会役員を招いた合同の『交流会議』が行われます。我が校の顔として、凪瀬会長には完璧なスピーチと議事進行が求められる、極めて重要な行事です」


一条副会長は、俺と奏羽を交互に見た後、冷たく言い放った。


「風森さん。貴方が本当に会長の『息継ぎできる場所』であるなら、証明してみせてください。……この一週間、会長のプレッシャーを取り除き、日曜日、彼女に完璧なスピーチを成功させることを」

「証明……」

「もし、会長が日曜日までに寝不足で倒れたり、スピーチで醜態を晒すようなことがあれば。……貴方は、今後一切、会長との接触を断つこと。それが条件です」


それは、あまりにも理不尽で、俺にはどうすることもできない挑戦状だった。

スピーチを成功させるのは奏羽自身だ。俺が代わってやることはできない。俺にできるのは、ただ放課後に本を読み、夜に電話で声を聴かせることだけ。


「……湊くん、だめっ!」


奏羽が俺の制服の袖を強く引っ張った。

その顔は蒼白で、唇は震えている。


「そんなの、絶対無理だよ……。交流会議なんて、わたし……去年も緊張で頭が真っ白になって、全然上手く喋れなかったのに……。湊くんに、そんな責任を負わせるなんて……」


彼女は涙目で首を横に振り、一条副会長を睨みつけた。


「零、いくらなんでもひどすぎる! 湊くんは関係ないでしょ!」

「関係大いにあります。彼が貴女を『支える』と言い張るのなら、結果で示してもらうしかありません。……それとも、風森さんは逃げるんですか? 自分の言葉に責任も持てないのに、会長の隣にいるつもりですか?」


挑発的な一条副会長の言葉。

だが、俺の心は不思議と落ち着いていた。

ここで逃げれば、俺と奏羽の関係は「無責任な依存」として切り捨てられる。

俺は彼女の袖を掴む手にそっと自分の手を重ね、安心させるように微笑んだ。


「……わかった。その条件、受けます」

「湊くん!?」

「でも、もし日曜日に奏羽さんが完璧なスピーチを成功させたら……今後、俺たちの放課後の時間に口出ししないと約束してください」


俺の強気な態度に、一条副会長は少しだけ目を見張り、そして、フッと薄く笑った。


「いいでしょう。約束します。……日曜日の夕方、結果を楽しみにしていますよ」


一条副会長はそれだけ言い残すと、コツコツと足音を響かせて図書室を去っていった。


静寂が戻った図書室。

俺の胸に顔を埋めた奏羽の身体は、プレッシャーと不安で小刻みに震えていた。


「……湊くんの、バカ……っ。どうして引き受けちゃったの……。わたし、絶対に失敗する……っ。そしたら、もう湊くんに会えなくなっちゃうのに……っ」


泣きじゃくる彼女の背中を、俺はゆっくりと一定のリズムで叩き続けた。


「大丈夫だ。俺がついてる。……日曜日まで、全力でお前を甘やかして、最高のコンディションにしてやるから」

「……ぐすっ。……ほんとに?」

「ああ。……だから、俺を信じて、思いっきり頼ってくれ」


図書室の窓の外、夕日が沈んでいく。

一条副会長との賭け。そして、奏羽のプレッシャーとの戦い。

俺たちの「秘密の放課後」は、かつてない試練の七日間を迎えようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ