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完璧な生徒会長は、平凡な俺の「声」がないと眠れないようです。  作者: Takayu
第6章:初夏の修学旅行と、終わらない特等席
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第149話:ただいまの温もりと、変わらない特等席

夜の八時過ぎ。

東京駅での解散を終え、俺と奏羽は電車を乗り継いで、ようやく懐かしいマンションの前に辿り着いた。


「……ふぅ、帰ってきたぁ」

奏羽がキャリーケースを引きながら、ほうっと息を吐き出す。

たった二泊三日の旅だったはずなのに、何週間も遠くへ行っていたような不思議な感覚だった。


「ただいまー」

俺が鍵を開けて玄関に入ると、奥からパタパタという足音が聞こえてきた。


「おかえり! いやー、待ちくたびれたよ!」

出迎えてくれたのは、高校の制服姿のままの翠だった。

「翠、お前制服のままなのか?」

「部活と自習室でさっき帰ってきたばっかりなの! それより、お土産! 八ツ橋買ってきてくれたんでしょ!?」


目を輝かせる翠に、奏羽がパァッと笑顔を咲かせ、紙袋を差し出した。

「うんっ! 翠ちゃん、これ! 湊くんと二人で、一番美味しいやつ選んできたよ!」

「わーい! さすが奏羽さん、愛してる!」


翠はお土産を抱えてリビングへ直行し、俺たちも荷物を置いて後に続いた。

リビングのテーブルを囲み、買ってきたばかりのいちご味と抹茶味の八ツ橋をつまむ。


「……んー! めっちゃ美味しい! 留守番のご褒美にぴったりだわ」

翠が幸せそうに頬張りながら、じろりと俺たちの顔を見比べてきた。

「で? 二泊三日、どうだったわけ? ……なんか二人とも、出かける前よりさらに距離近くなってない?」


「そ、そんなことないよ! 普通に京都と奈良を観光しただけで……っ」

奏羽が分かりやすく目を泳がせながら、慌てて否定する。


「へぇー? 結衣さんから『足湯作戦大成功!』ってLINE来てたけど?」

「ぶっ!?」

俺は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。あいつ、帰りの新幹線で速攻バラしたのか。


「……ち、チクり魔かよ逢坂……」

「あはは、結衣ちゃんらしいね……」

奏羽は顔を真っ赤にして俯いてしまったが、翠は「まあ、無事に帰ってきたならいいけどさ」と笑ってそれ以上追及してこなかった。


 * * *


それぞれの部屋で荷解きを済ませ、シャワーを浴び終えた夜十一時。

静まり返った俺の寝室のドアが、ノックもなしにそっと開いた。


「……湊くん」


現れたのは、俺の少し大きめのパーカーを羽織った、いつものルームウェア姿の奏羽だった。

彼女は迷うことなくベッドへと歩み寄り、俺の布団の中に滑り込んできた。


「やっぱり、ここが一番いい……」

奏羽は俺の胸にすっぽりと収まり、深く、深く息を吐き出した。

シャンプーの甘い香りと、柔らかな体温。


「京都の旅館の高級なお布団も良かったけど……湊くんの匂いがするこのベッドが、世界で一番落ち着くよ」

「そりゃどうも。……お前、新幹線でも爆睡してただろ」


俺が苦笑いしながら言うと、奏羽は俺のパジャマの胸元をぎゅっと握りしめて、上目遣いで見上げてきた。


「あれは、仮眠! ……夜の本番は、これからだもん」

「本番って……」


「……湊くん。トントン、して?」


おねだりするように見つめてくる瞳。

俺は小さく息を吐き、彼女の細い背中に手を回した。

トントン、トントン、と一定のリズムを刻み始める。


「……よしよし。修学旅行、本当にお疲れ様。……最後まで立派な生徒会長だったぞ」

「……んぅ……湊くん……えへへ……」


俺の声と背中の振動に身を委ね、奏羽の身体からスッと余分な力が抜けていく。

旅先での緊張も、日常へ戻ってきた安心感も、全てがこの穏やかなリズムの中に溶けていくようだった。


「……ねえ、湊くん」

「ん?」

「修学旅行が終わったら……次は、生徒会の引退だね」


奏羽の声が、眠気に微睡みながらも、少しだけ寂しそうに響いた。


「ああ。六月の役員選挙まで、あと一ヶ月ちょっとだな」

「うん。……最後まで、ちゃんとやり切るね。若葉ちゃんたちに、かっこいい先輩の背中見せなきゃいけないし」

「ああ。俺がずっと隣で見ててやるよ」


「……約束、ね」


奏羽は俺の胸に顔をすり寄せ、幸せそうに口角を上げた。

そして、数秒もしないうちに、静かで安らかな寝息を立て始めた。


窓の外では、初夏の夜風が静かに木の葉を揺らしている。

旅の終わりと、引退へ向けた最後の季節の始まり。

俺は腕の中の温もりを優しく抱きしめながら、明日から再び始まる愛しい日常へと、ゆっくりと意識を沈めていった。

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