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完璧な生徒会長は、平凡な俺の「声」がないと眠れないようです。  作者: Takayu
第6章:初夏の修学旅行と、終わらない特等席
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第150話:初夏の風と、終わらない特等席

修学旅行が明けた、翌週の月曜日。

初夏の爽やかな青空の下、俺と奏羽は並んで通学路を歩いていた。


「……湊くん、手、繋ご?」

「はいはい」


すっかり初夏の気候になり、マフラーも手袋もない。

だからこそ、直接触れ合う彼女の指先の温もりが、ダイレクトに俺の右手に伝わってくる。


校門をくぐると、すれ違う生徒たちが「あ、会長! おかえりなさい!」「修学旅行お疲れ様でした!」と笑顔で声をかけてくる。

奏羽はその一人一人に、凛とした、けれどどこか柔らかい笑顔を返していた。


「……なんか、本当に雰囲気が変わったよな、お前」

俺が横目で見て呟くと、奏羽は俺の腕にキュッとしがみつき、小悪魔のように微笑んだ。


「そう? 湊くんが毎日、いっぱい甘やかしてくれるからだよ」

「……はいはい、俺のせいですか」


 * * *


放課後。

生徒会室での引き継ぎ作業を少し早めに切り上げた俺たちは、久しぶりに旧校舎の図書室へと足を運んだ。


ガラリと引き戸を開けると、西日が差し込む静まり返った空間が広がっていた。

本棚の隙間、埃の匂い、そして窓の外で揺れる青葉。

栞先輩が卒業し、俺たちが三年生になった今でも、あの奥の書架の死角は、変わらずそこに存在していた。


「……懐かしいね、湊くん」


奏羽が本棚の縁をそっと撫でながら、静かに呟いた。


「ああ。ここが、俺たちの始まりの場所だったな」


去年の春。

プレッシャーで夜も眠れず、目の下に隈を作って倒れかけていた「氷の生徒会長」。

そんな彼女を放っておけなくて、俺が宮沢賢治の童話を読み聞かせた、あの日。


「……あの時のわたし、本当にボロボロだったんだよ」

奏羽はトコトコと歩み寄り、俺の胸にコテンと頭を預けてきた。


「誰も信じられなくて、弱みも見せられなくて、ずっと一人で暗闇の中にいて……。でも、湊くんが隣に座って、その優しい声で本を読んでくれた時、世界が一気にあったかくなったの」


「俺はただ、本を読んだだけだよ」


「ううん。湊くんが、わたしの全部を受け止めてくれたの。……料理もできないポンコツなわたしも、雷が怖い泣き虫なわたしも、全部」


奏羽はゆっくりと顔を上げ、俺の首に両腕を回してきた。

夕日に照らされた彼女の黒髪が、黄金色に輝いている。

その瞳には、かつての孤独の影など微塵もなく、俺への溢れんばかりの愛しさだけが宿っていた。


「……湊くん。もうすぐ、生徒会の選挙があって、わたし、引退するよ」

「ああ」


「そしたら、わたし、もう『生徒会長』じゃなくなる」

「知ってるよ」


「……ただの、湊くんに甘えたいだけの、普通の凪瀬奏羽になるの」

奏羽は、少しだけ潤んだ瞳で、恥ずかしそうに、けれど真っ直ぐに俺を見つめた。


「それでも……これからもずっと、わたしのお話、聞いてくれる? 毎晩、ぎゅーってして、トントンしてくれる?」


その問いかけに、俺の答えは最初から決まっていた。


「当たり前だろ」


俺は彼女の細い腰を抱き寄せ、力強く引き寄せた。


「お前が生徒会長だろうが、ただの女の子だろうが、関係ない。……俺の特等席はお前の隣だし、お前の帰る場所は、俺の腕の中だけだ」


「……湊くん」


言葉の代わりに、俺たちはゆっくりと唇を重ねた。

窓から吹き抜ける初夏の風が、二人の髪を優しく揺らす。

図書室の死角、夕日のオレンジ色に包まれたこの場所で交わすキスは、これまでのどんな甘い時間よりも深く、心に染み渡っていくようだった。


不眠症の少女と、平凡な図書委員。

小さな図書室の片隅から始まった二人の物語は、たくさんの試練と季節を越えて、誰にも引き裂けない永遠の絆へと結実した。


「……大好きだよ、湊くん」

「ああ。俺も愛してるよ、奏羽」


重なり合う鼓動と、解けることのない指先。

俺たちの愛しい日常は、これからもずっと、この終わらない特等席と共に続いていく。

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