↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完璧な生徒会長は、平凡な俺の「声」がないと眠れないようです。  作者: Takayu
第5章:雪解けの季節と、甘すぎる冬の誓い
135/150

第135話:先輩の旅立ちと、引き継がれたお守り

クリニックでの受診から数日後。

奏羽の睡眠状態は、俺の毎晩の「思い出語り」と薬のサポートにより、劇的に改善していた。


四月に入り、春休みも残すところあと数日となったある日の午後。

俺と奏羽は、新学期に向けた文房具を買いに、駅前のショッピングモールを歩いていた。

当然のように、奏羽の右手は俺の左手にしっかりと絡められ、恋人繋ぎのままだ。


「……ねえ湊くん、このノート可愛くない?」

「お前、三年生になってもウサギ柄のノート使う気か?」

「いいの! わたしのお気に入りだもん」


奏羽がふくらませた頬を俺が指でつついていると、不意に、背後から落ち着いた声が響いた。


「——相変わらず、仲が良いわね。見ているこっちが恥ずかしくなるくらい」


「えっ……?」

振り返ると、そこには春らしい淡い色のトレンチコートを着た、柚原栞先輩が立っていた。

彼女は先月、学園を卒業したばかりだ。私服姿を見るのは新鮮で、以前よりもずっと大人びて見えた。


「柚原先輩!?」

「先輩……お久しぶりです」


俺と奏羽が驚いて声を上げると、栞先輩は「ふふっ」と優しく微笑んだ。


「久しぶり。……二人とも、新学期の準備?」

「はい。先輩は、お買い物ですか?」

「ええ。来週から大学生になるから、少し買い出しをね。……ちょうど良かったわ。風森くんたちに、渡したいものがあったの」


栞先輩は、持っていた紙袋の中から、一冊の古い本を取り出し、俺に手渡した。


「これ……宮沢賢治の童話集ですね」

俺が受け取ると、栞先輩はウインクをして見せた。


「図書室の蔵書整理の時に、廃棄処分になる予定だったものよ。……奏羽ちゃんの『特別なお薬』でしょう? だから、風森くんに持っていてほしくて」


「……っ」

俺と奏羽は顔を見合わせた。


「先輩……俺たちのこと、ずっと……」

「図書室の主を甘く見ないでちょうだい。……孤高の生徒会長が、日に日にポンコツになっていく姿も。それを必死に隠そうとしてる風森くんの姿も、一番特等席で見ていたんだから」


栞先輩はいたずらっぽく笑った後、少しだけ真面目な顔になり、奏羽の頭をそっと撫でた。


「奏羽ちゃん。……色々と大変なこともあったみたいだけど、風森くんという最高のナイトを見つけて、本当に良かったわね」

「先輩……っ。本当に、今まで……ありがとうございました」

奏羽の瞳から、ポロリと涙がこぼれ落ちた。


「泣かないの。……風森くん。奏羽ちゃんのこと、これからもよろしくね」

「はい。絶対に、守り抜きます」


俺が力強く答えると、栞先輩は満足そうに頷いた。


「じゃあ、私は行くわね。……あ、そうだ。せっかくだから、連絡先交換しておきましょ。何かあったら、いつでも相談に乗るわよ」


俺たちはスマホを取り出し、栞先輩と連絡先を交換した。

「それじゃ、またね。二人とも、三年生楽しんで」

先輩はヒラヒラと手を振り、人混みの中へと消えていった。


俺たちの秘密を一番近くで見守り、守ってくれた先輩の背中。

少しの寂しさを感じながら、俺は手の中の童話集と、奏羽の手を強く握りしめた。


 * * *


そして迎えた、春休み最終日の夜。

明日の始業式に備え、俺たちは早めにベッドに入っていた。

(もちろん、奏羽は俺のベッドに潜り込んできている)


「……湊くん。明日から、三年生だね」

布団の中で、奏羽が俺のパジャマの胸元をぎゅっと握りしめながら呟いた。


「ああ。クラス替え、一緒だといいな」

「うんっ! 絶対一緒がいい!」


奏羽は俺の胸にスリスリと顔を擦り寄せ、甘ったるい声を出す。


「……今日、柚原先輩に会えて嬉しかったな」

「そうだな。図書室のあの場所は、これからも俺たちの特等席だ」

俺は、枕元に置いた宮沢賢治の童話集をそっと撫でた。


「……ねえ、湊くん」

「ん?」

「……三年生になったら、もっといっぱい、思い出作ろうね。……修学旅行も、体育祭も……」


奏羽の瞳が、暗闇の中で潤んで光っている。

「完璧」を求められ、孤独だった彼女が、今こうして俺との未来を楽しみにしている。その事実が、俺の胸を熱くさせた。


「ああ。……どこまでも一緒にいこう」


俺は彼女の額にそっとキスを落とした。

「……んふふ。おやすみなさい、わたしの湊くん……」


奏羽は幸せそうに目を閉じ、すぐに静かな寝息を立て始めた。

俺は彼女のサラサラな髪を撫でながら、明日から始まる新しい学年に思いを馳せた。

最高学年。受験。生徒会の引退。

そして、このポンコツで甘えん坊なお姫様との、終わらない日常。


俺たちの「三年生編」は、桜の蕾がほころぶ春の空気と共に、静かに幕を開けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。