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完璧な生徒会長は、平凡な俺の「声」がないと眠れないようです。  作者: Takayu
第5章:雪解けの季節と、甘すぎる冬の誓い
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第130話:生徒総会と、精密機械の徹底的な刃

翌朝。

春休みの登校日である今日、学園はどこか異様な空気に包まれていた。


「……湊くん、手、繋いでてもいい?」

「ああ。……周りの目なんて、もう気にする必要ないだろ」


俺と奏羽は、いつも通りお揃いのマフラーを巻き、手を繋いで学園の正門をくぐった。

すれ違う生徒たちの視線は、昨日までの「微笑ましいカップル」を見るものとは少し違い、どこか腫れ物に触るような、あるいはこれから起こる嵐を予感しているような、緊張感を含んでいた。


「……おい、風森。お前ら、大丈夫か?」


下駄箱で、親友の陸が心配そうな顔で声をかけてきた。


「ああ、零さんから話は聞いてる。冴木が不信任案を出す気なんだろ」

「マジかよ……。あいつ、どんだけ執念深いんだよ。でも、全校集会であれだけ堂々と宣言したんだから、今更同棲疑惑なんて蒸し返しても……」

「そうだな。でも、冴木のことだから、何か裏の手を用意してるはずだ」


俺が警戒を強めていると、背後から氷のような声が響いた。


「——おはようございます。その警戒心、正しいですよ」


振り返ると、そこには生徒会の腕章をつけ、分厚いファイルを小脇に抱えた一条副会長(零さん)の姿があった。


「零さん。……冴木の動き、何か分かりましたか?」

奏羽が尋ねると、零さんは眼鏡を押し上げ、周囲を警戒するように声を潜めた。


「彼が用意しているのは、単なる『同棲疑惑の追及』ではありません。……彼は、学園のルールそのものを盾にして、会長の資格を剥奪しようとしています」

「学園のルール……?」


「今日の午後、体育館で行われる生徒総会。そこで全てが明らかになるでしょう。……風森さん、会長。準備はいいですね?」

「はいっ!」

俺と奏羽は、力強く頷いた。


 * * *


午後一時。

全校生徒が体育館に集められ、今年度最後となる生徒総会が始まった。

各委員会の活動報告などが淡々と進められた後、いよいよ「生徒からの動議」の時間がやってきた。


「——それでは、特進Sクラスの冴木洵くんから、動議の提出があります」


司会の声に呼ばれ、冴木が壇上へと上がってきた。

アイロンの効いたシワ一つない制服。銀縁眼鏡の奥の三白眼は、冷徹な光を放っている。

俺はステージ下から、固唾を飲んでその様子を見守っていた。


「生徒の皆さん。本日は、我が学園の『生徒会長』の資質について、重要な提案があります」


マイクを通した冴木の声は、体育館の隅々にまで冷たく響き渡った。


「先日の全校集会で、凪瀬会長は自らの弱さを認め、風森くんとの関係を公表しました。……それ自体は、個人の自由であり、私がとやかく言うことではありません」


冴木の言葉に、体育館中がざわめく。


「しかし、問題はその後です。……凪瀬会長は、個人的な感情を優先し、生徒会長としての『公平性』と『品格』を著しく欠く行動をとっています」

「公平性……?」

ステージの端に立っていた奏羽が、怪訝そうに呟いた。


「風森湊くん」

冴木は、ステージ下の俺を一瞥し、再び全校生徒へと視線を向けた。


「彼は、一介の図書委員でありながら、頻繁に生徒会室に出入りし、予算案のチェックや備品の管理など、生徒会役員と同等の業務を行っていた。……これは、特定の生徒への明確な『権限の私物化』です」


「っ……!」

俺は息を呑んだ。確かに文化祭の準備中、俺は彼女の仕事を手伝ったが、それは……。


「さらに、文化祭のお化け屋敷では、責任者である彼と会長が、巡回業務を放棄して長時間の『休憩(密会)』を取っていたことも確認されています。……生徒の皆さんが文化祭成功のために汗を流している間、トップである生徒会長は自らの欲望を優先していたのです」

「……」


冴木の言葉は、事実と巧妙な悪意を織り交ぜ、奏羽を追い詰めるための鋭い刃となっていた。


「生徒会長とは、全校生徒の模範であり、公私の区別を厳格につけるべき存在です。……感情に流され、特定の生徒に依存し、学園の業務を私物化する。……このような『不公平』と『脆弱さ』を許す者が、果たしてこの学園のトップにふさわしいと言えるでしょうか?」


冴木の言葉に、特進クラスの生徒たちを中心に「確かに……」「それはルール違反だろ」と、同調する声が上がり始めた。

これが、彼の言う「学園のルールと正論を盾にした攻撃」か。


「——したがって、私は、凪瀬奏羽生徒会長の『不信任案』を提出し、全校生徒による決議を求めます!」


体育館は、賛同と反発の声が入り混じる騒然とした空気に包まれた。

徹底的に理論武装された、反論の隙を与えない冴木の演説。


俺はステージに上がり、冴木に言い返してやりたい衝動に駆られた。

だが、俺は図書委員だ。俺がここで感情的に騒ぎ立てれば、それこそ冴木の「感情に流されている」という主張を裏付けることになってしまう。


(……耐えろ。ここは、奏羽を信じるしかない)


俺は拳を強く握りしめ、ステージ上の彼女を見上げた。

奏羽の肩は、小刻みに震えていた。

何百人もの視線と、突きつけられた正論という名の刃。

かつての彼女なら、このプレッシャーに耐えきれず、完全に心が折れていたかもしれない。


だが、彼女は逃げなかった。

ゆっくりと深呼吸をし、マイクの前に進み出たのだ。

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