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完璧な生徒会長は、平凡な俺の「声」がないと眠れないようです。  作者: Takayu
第5章:雪解けの季節と、甘すぎる冬の誓い
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第129話:あの密室と、理性の最終防衛線

夕飯を済ませ、翠が「明日も朝から塾だから寝るねー」と客間へ引き上げてから一時間後。

静まり返ったリビングで、俺と奏羽は二人、テレビの前に並んで座っていた。


「……湊くん」


テレビの音が小さく流れる中、奏羽が俺のTシャツの袖を、ツンツンと引っ張ってきた。


「ん?」

「……翠ちゃん、寝たみたいだね」

「ああ。明日の登校日もあるし、俺たちもそろそろ寝るか」


俺が立ち上がろうとすると、奏羽は俺の腕にギュッとしがみつき、上目遣いで俺を見上げてきた。


「……キッチンの時の約束、忘れてないよね?」

「……っ」


彼女の潤んだ瞳と、微かに熱を帯びた声。

忘れるはずがない。あの時、俺は「続きは夜に俺の部屋で」と、自分から提案してしまったのだから。


「……わかってる。でも、本当にいいのか?」

「いいよ。……わたし、湊くんに全部あげたいって言ったでしょ」


奏羽の真っ直ぐな言葉に、俺は観念して彼女の手を引いた。


 * * *


俺の寝室(今は俺が一人で使っている部屋)。

ドアを閉め、小さな間接照明だけをつけると、部屋の中はオレンジ色の淡い光に包まれた。


「……湊くん、心臓、すごくうるさいね」

ベッドの端に腰を下ろした俺の隣に座り、奏羽が俺の胸に耳を当ててクスクスと笑う。


「当たり前だろ。……お前は緊張してないのかよ」

「してるよ。でも、それ以上に……湊くんと、もっと近付けるのが嬉しいの」


奏羽はゆっくりと顔を上げ、俺の首に腕を回してきた。

俺は彼女の細い腰を抱き寄せ、そのまま彼女をベッドの上にそっと押し倒した。


「……奏羽」

「ん……湊、くん……」


重なり合う唇。

キッチンでのキスよりも、さらに深く、熱を帯びた口づけ。

彼女の柔らかい身体が、シーツに沈み込む。

俺の左腕に、彼女の左手の薬指にはめられたペアリングが、ひんやりと触れた。


俺は彼女の薄手のニットの裾に手をかけ、ゆっくりと引き上げようとした。

奏羽の身体がビクンと跳ね、彼女は俺の背中の服をぎゅっと握りしめる。


「……んっ……ぁ……」


静かな寝室に、彼女の甘い吐息と、衣擦れの音だけが響く。

俺の理性の防波堤は、もうほとんど決壊しかけていた。


(……このまま、最後まで……)


俺が彼女の肌に直接触れようとした、まさにその時。


——ブブッ、ブブッ。


俺のズボンのポケットで、スマホがけたたましいバイブレーションの音を立てた。


「「……っ!?」」


俺と奏羽は、バネで弾かれたように身体を離した。


「な、なんだ!? こんな夜中に……」

俺は慌ててスマホを取り出した。

画面には、見慣れた名前が表示されている。


『一条 零』


「……零さんから?」

俺が画面を見せると、奏羽は「えっ!?」と顔を青ざめさせた。


「電話……出た方がいいよね?」

「ああ。こんな時間に電話してくるなんて、よっぽどの緊急事態だ」


俺はベッドから降り、呼吸を整えてから通話ボタンを押した。


「……もしもし、零さんですか? こんな夜更けにどうしたんですか?」


『……風森さん。単刀直入に言います』


電話の向こうから聞こえる零さんの声は、氷のように冷たく、そしてどこか切羽詰まったような響きを含んでいた。


『明日の登校日。……冴木が、生徒総会で会長の不信任案を提出する動きを見せています』


「……不信任案!?」

俺の大きな声に、ベッドの上の奏羽がビクッと肩を揺らした。


『ええ。期末テストで彼に勝ったとはいえ、彼を支持する一部の特進クラスの生徒たちが、「同棲疑惑」を再び蒸し返し、生徒会長としての品格を問うつもりのようです。……明日、彼らは全校生徒の前で、決着をつける気です』


「そんな……。全校集会で、あんなに堂々と宣言したのに、まだ諦めてないんですか」

『精密機械は、一度のバグでは止まりません。……風森さん、会長は起きていますか? 明日は、今までで最大の試練になります』


「……はい、起きてます。必ず、明日も彼女の隣で戦います」

俺が力強く答えると、零さんは「……期待していますよ」とだけ言い残し、電話を切った。


俺がスマホを下ろすと、奏羽が不安そうな顔で俺を見上げていた。


「……湊くん。零、なんて言ってたの?」


「……奏羽」

俺はベッドに戻り、彼女の手を強く握りしめた。


「明日の登校日。……冴木が、お前の不信任案を出そうとしてるらしい」

「えっ……」


「でも、心配するな。俺が絶対に守るから」

俺が彼女の目を見てはっきりと言うと、奏羽は少しだけ震えながらも、「うんっ」と力強く頷いた。


「……わたし、負けない。湊くんが隣にいてくれるなら、どんな試練でも乗り越えられるもん」


俺たちは、そのままベッドの上で強く抱きしめ合った。

甘い時間の「続き」は、予期せぬ嵐の知らせによって完全に吹き飛んでしまった。

だが、互いの温もりを感じ合うこの時間だけは、どんな妨害にも壊せない確かなものだった。


「……奏羽、今日はもう寝よう。明日に備えて」

「うん……。おやすみなさい、湊くん」


俺は彼女の額にそっとキスを落とし、彼女を自分の部屋(客間)へと送り出した。


明日の登校日。

特進クラスの精密機械・冴木洵との、本当の意味での「最終決戦」が、いよいよ幕を開けようとしていた。

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