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完璧な生徒会長は、平凡な俺の「声」がないと眠れないようです。  作者: Takayu
第5章:雪解けの季節と、甘すぎる冬の誓い
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第116話:チョコレートの悲劇と、お姫様の秘密特訓

「……あいたっ!」


バレンタインデーまであと一週間と迫った、ある休日の午後。

俺のマンションのキッチンから、短い悲鳴が上がった。


「奏羽!? 大丈夫か!?」


俺がリビングから慌てて駆けつけると、そこにはエプロン姿の奏羽が、左手の人差し指を押さえて涙目になっていた。

まな板の上には、細かく刻まれかけた板チョコレートの残骸。


「あ、湊くん……ごめんなさい。チョコ切るの、難しくて……」

「指、切ったのか? 見せてみろ」


俺は彼女の手を取り、水で軽く洗い流してから、救急箱から絆創膏を取り出した。

幸い傷は浅かったが、彼女の指先には、クリスマスのマフラー編みの時と同じように、いくつもの小さな絆創膏が貼られていた。


「……お前、また無茶して。零さんと結衣の特訓だけじゃなくて、家でも練習してたのか?」


俺が絆創膏を貼りながら呆れて言うと、奏羽はしょんぼりと肩を落とした。


「だって……零たちの前だと、焦ってうまくできなくて。……湊くんに、ちゃんと美味しいチョコ、あげたいのに……」


不器用な彼女が、俺のために一生懸命に頑張ってくれている。

その気持ちだけで十分すぎるほど嬉しいのに、彼女は「完璧」を求めて一人で空回りしているようだった。


「……あのさ、奏羽」

「ん……?」


俺は彼女の絆創膏だらけの指先をそっと両手で包み込み、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。


「俺は、お前が作ったものなら、どんな形でも、どんな味でも、世界で一番美味いと思って食べるよ。……でも、お前が怪我をしてまで作るのは、俺は嫌だ」


「湊くん……」


「だから、一緒に作ろう。……特訓じゃなくて、俺と二人で」

「えっ? でも、バレンタインのチョコは、女の子が一人で作って渡すものだし……」


奏羽が戸惑っていると、リビングのソファから「はぁ」と大きいため息が聞こえた。


「お兄ちゃん、本当に過保護だよねー。……奏羽さん、お兄ちゃんの言う通りにしなよ。お兄ちゃんと一緒にキッチンに立って、二人でイチャイチャしながらチョコ作る方が、奏羽さんも絶対楽しいでしょ?」


いつの間にか起きてきた翠が、テレビのリモコンを片手に呆れたように言った。


「み、翠ちゃん……」

「それに、お兄ちゃんが一緒にいれば、キッチンが爆発する心配もないしね」


翠の的確なツッコミに、奏羽は顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「……わかった。奏羽、俺がサポートするから、もう一回だけ一緒にやってみよう」

「……うん。湊くん、ありがとう」


俺たちは再びキッチンに並んで立ち、ボウルに刻んだチョコレートを入れた。


「よし、じゃあ湯煎にかけるぞ。温度が高すぎると分離するから、ゆっくり混ぜてくれ」

「わかった。……こう?」


奏羽がゴムベラでゆっくりとチョコレートを混ぜる。

俺は彼女の背後に立ち、彼女の手をそっと上から包み込むようにして、ゴムベラの動きをサポートした。


「ひゃっ……湊、くん……」

「ほら、よそ見しない。焦げるぞ」


俺が彼女の耳元で囁くと、奏羽の顔はチョコレートよりも熱く溶けそうになっていた。

甘いチョコレートの香りが、キッチン中に広がっていく。


(……この特訓、俺の理性が試されるな)


バレンタイン本番まであと少し。

俺たちの甘すぎるチョコレート作りは、妹の呆れ顔をBGMにしながら、ゆっくりと、しかし確実に進行していくのだった。

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