第113話:福袋の戦利品と、妹の鋭い尋問
「ただいまー! いやー、今年の福袋争奪戦も激しかったわー!」
初詣から帰宅し、コタツで冷えた身体を温めていると、両手に大量の紙袋を抱えた翠が嵐のように帰還した。
その顔は達成感に満ち溢れており、まさに「戦場から生還した戦士」の趣だ。
「おかえり、翠。お前、それ全部自分の服か?」
「当たり前じゃん! イギリスじゃこういう可愛い服買えないんだから。……あ、でもこれ、奏羽さんにお土産!」
翠は紙袋の中から、小さな包みを一つ取り出し、コタツで俺の肩に寄りかかっている奏羽に差し出した。
「えっ? わたしに?」
「うん。服屋の福袋に入ってたんだけど、私にはちょっとデザインが大人っぽすぎるから。奏羽さんなら似合うかなって」
奏羽が遠慮がちに包みを開けると、中から出てきたのは、落ち着いたボルドー色の、少し透け感のあるネグリジェ風のルームウェアだった。
「「……ぶっ!?」」
俺と奏羽は、同時に声を上げて固まった。
「み、翠ちゃん……これ、その……ちょっと、大人っぽすぎないかな……?」
奏羽が顔を真っ赤にして、布地を指先でツンツンと触る。
どう見ても、高校生が普段着るような代物ではない。どちらかといえば、「彼氏を誘惑するための勝負服」といった趣だ。
「そう? 奏羽さんスタイルいいし、絶対似合うよ。……それに、お兄ちゃんもこういうの好きでしょ?」
翠がニヤリと悪魔のような笑みを浮かべ、俺に視線を向けてくる。
「ば、バカ言え! お前、中学生のくせになんてもの買ってきてるんだ!」
「だって福袋に入ってたんだもん。……あ、もしかして、お兄ちゃんたち、もうそういう『大人な関係』に……」
「してない!!」
俺は全力で否定した。
確かに最近、キス以上の甘い空気になりかけることは多々あるが、俺の理性がギリギリのところで踏みとどまっているのだ。凪瀬夫人からの「風紀を乱すな」という条件もあるし、何より奏羽を大切にしたいからこそ、軽はずみな真似はできない。
「ふーん……。まぁ、お兄ちゃんはヘタレだもんね」
翠は呆れたように肩をすくめ、自分の戦利品の整理を始めた。
「……湊くん。わたし、これ着てみようかな」
隣から、小さな声が聞こえた。
見ると、奏羽がそのボルドー色のルームウェアを胸に当て、上目遣いで俺を見つめている。
「お前なぁ……! 翠にそそのかされるな。そんなの着て出てきたら、俺がどうなるか……」
「湊くんが、どうなるか……知りたいな」
「……っ!」
小悪魔のように微笑む孤高の生徒会長。
俺は頭を抱え、コタツの天板に突っ伏した。
* * *
その日の夜。
翠は「疲れたから寝るねー」と早々に客間へ引き上げた。
俺はリビングのテーブルで、三学期に向けた予習(零さんの冬休み課題)に取り組んでいた。
「……湊くん」
背後から、静かな声がした。
振り返ると、そこには——翠からもらった、あのボルドー色のネグリジェ風ルームウェアを着た奏羽が立っていた。
「……っ!!」
俺は持っていたシャーペンを落としそうになった。
透け感のある生地から、彼女の雪のように白い肌と、華奢な肩のラインが微かに透けて見える。
普段の「俺の大きめパーカー」という無防備な可愛さとは全く違う、艶やかで危険な魅力が、そこにはあった。
「ど、どうかな……? 変じゃない……?」
奏羽はモジモジと裾を握りしめ、顔を真っ赤にして俯いている。
「変じゃない……というか、似合ってるけど。……でも、それは反則だろ」
俺は視線のやり場に困り、必死に壁のポスターに目を向けた。
「……反則で、いいの」
奏羽はゆっくりと俺に近づき、俺の膝の上に座り込むようにして、俺の首に腕を回してきた。
甘いシャンプーの香りと、彼女の体温がダイレクトに伝わってくる。
「……湊くん、お正月のおみくじ……覚えてる?」
「『恋愛:迷わず突き進め』、だろ?」
「うん。……だから、わたし、今日は突き進むね」
彼女の熱い吐息が、俺の首筋にかかる。
俺は彼女の細い腰に手を回し、その柔らかい感触に息を呑んだ。
「……奏羽、お前、本当にわかっててやってるのか?」
「わかってるよ。……湊くんのこと、もっとドキドキさせたいもん」
彼女の潤んだ瞳が、至近距離で俺を捕らえて離さない。
冬休みの夜。
妹からの予期せぬプレゼントが引き金となり、俺の理性の防波堤は、今夜こそ本当に、音を立てて崩れ去ろうとしていた。




