第109話:冬休みの魔物と、お姫様のコタツデビュー
クリスマスが過ぎ、学園は本格的な冬休みへと突入した。
連日の厳しい寒さに対抗するため、俺はリビングのクローゼットの奥から、実家にあった折り畳み式のコタツを引っ張り出してきた。
「よし、これで完成だ」
厚手のコタツ布団を掛け、電源を入れ終えると、少し離れた場所からその様子を不思議そうに眺めていた奏羽が、おずおずと近づいてきた。
「……湊くん。これ、何?」
「コタツだよ。布団の中にヒーターが入ってて、足元を温める日本の冬の定番器具だ」
「コタツ……初めて見た。お家には、床暖房しかなかったから……」
(……やっぱり、お嬢様だな)
俺は苦笑いしながら、「騙されたと思って、入ってみろよ。温かいから」と、コタツ布団をめくって促した。
奏羽は少し緊張した様子で、ゆっくりとコタツの中に足を滑り込ませた。
数秒後。
「……っ!!」
奏羽の目が、驚きに丸くなった。
「な、なにこれ……! すごくあったかい! 足が、ぽかぽかする……!」
「だろ? 一度入るとなかなか抜け出せなくなる、冬の魔物だ」
奏羽は「すごぉい……」と感動したように呟き、そのままズリズリと身体を滑り込ませて、胸元までコタツ布団を被った。
俺のパジャマパーカーを羽織り、コタツの中で完全に丸くなっている姿は、まるでお気に入りの巣を見つけた子猫のようで、たまらなく愛らしかった。
「お、お兄ちゃん。……奏羽さんが、完全にコタツの魔力に負けてるんだけど」
客間から出てきた翠が、コタツと同化しつつある奏羽を見て呆れたように笑った。
「しょうがないだろ、初めてなんだから。……翠、お前も入るか?」
「入る入る! 冬はやっぱりコタツにみかんだよねー」
翠も嬉しそうにコタツの反対側へ滑り込み、テーブルの上に置いてあったみかんを剥き始めた。
「……湊くん」
コタツの温もりに蕩けきった顔の奏羽が、コタツ布団の下から俺のパジャマの袖をぎゅっと握りしめてきた。
「ん? どうした?」
「……こっち、きて?」
彼女は自分の隣のスペースをポンポンと叩いた。
翠が目の前にいるというのに、彼女の「湊くん成分」を求めるおねだりは止まらない。
俺は仕方なく、彼女の隣へと滑り込んだ。
「……んんっ」
座った瞬間、奏羽は待ってましたとばかりに俺の腕にギュッとしがみつき、俺の肩に頭を預けてきた。
さらに、コタツの中で、彼女の白くて細い足が、俺の足にそっと絡みついてくる。
「お、おい奏羽……近いぞ」
「だって、コタツの中、広いから……湊くんともっと、くっつきたいんだもん」
彼女の熱い吐息が、首筋にかかる。
コタツの温もりと、彼女の体温。
ダブルの熱に当てられて、俺の心臓は再び早鐘のように打ち鳴らされ始めた。
「……あーあ。お兄ちゃんたち、コタツの中でもイチャイチャするわけ? 私、目の前でみかん食べてるんだけど」
翠がジト目で俺たちを睨むが、奏羽はコタツ布団に顔を半分埋めたまま、幸せそうに微笑んだ。
「いいの。……わたし、今年の冬休み、ずーっとこのコタツの中で、湊くんとくっついてるって決めたから」
「……受験生の妹の前で、そんな自堕落な宣言しないでよ」
翠の不器用なツッコミをBGMにしながら、俺は奏羽の頭を優しく撫でた。
不眠症で夜を恐れていた彼女が、今はこうして、俺の隣で世界で一番暖かくて甘い冬の時間を過ごしている。
これから訪れる大晦日やお正月。
俺たちの冬休みは、この小さなコタツという名の特等席で、どこまでも甘く、穏やかに過ぎていくのだった。




