第108話:雪晴れのクリスマスと、居候の帰還
「……んん」
パチパチと、窓ガラスに反射する眩しい光で目が覚めた。
カーテンの隙間から覗く外の景色は、昨日からの雪が嘘のように晴れ渡り、澄んだ青空と白い雪がキラキラと輝く、美しいホワイトクリスマスの朝だった。
「……すぅ、すぅ……湊くん……えへへ……」
俺の右腕には、昨日と変わらず、俺の大きめのパーカーに包まれた奏羽がしがみついていた。
胸元には、俺が贈った雪の結晶のペンダントが、朝陽を浴びて綺麗に輝いている。
一晩中、俺の腕枕と抱擁のホールドを解かなかったらしい。
彼女の無防備で幸せそうな寝顔を見つめているだけで、俺の心は温かいもので満たされていく。
「……奏羽、朝だぞ。クリスマスだ」
俺が彼女のサラサラとした黒髪をそっと撫でながら囁くと、奏羽は「んぅ……」と小さく身じろぎをし、ゆっくりと目を開けた。
寝起きのポヤポヤとした頭で俺の顔を見つめ、状況を理解した途端、ふにゃりと蕩けるような笑みを浮かべた。
「……おはよ、湊くん。……めりーくりすます」
「おはよう、奏羽。よく眠れたか?」
「うん。……すっごく、よく眠れた。湊くんの腕の中、世界で一番あったかい……」
奏羽は俺の胸に顔を擦り寄せ、さらに強くしがみついてきた。
昨夜の甘い時間の余韻が、この朝の冷たい空気の中で、さらに甘さを増している。
「……よし、そろそろ起きるか。翠が帰ってくる前に、朝飯の準備しないと」
「えー? もう少しだけ、このまま……」
おねだりするように見上げてくる彼女に後ろ髪を引かれつつも、俺は優しく彼女の頭を撫で、ベッドから抜け出した。
* * *
キッチンに立ち、昨日の残りのシチューを温め、トーストを焼いていると。
「ただいまー! いやー、昨日のパーティー、マジで疲れたわ……」
ガチャリ、と玄関のドアが開き、大きな紙袋を抱えた翠が帰ってきた。
徹夜で遊んでいたのか、少し眠そうな目をこすりながらリビングに入ってきた彼女は、俺のパジャマの袖をぎゅっと掴んでトコトコとついて歩く奏羽の姿を見て、ニヤリと悪戯っぽく笑った。
「おはよー、お兄ちゃん、奏羽さん。……あら? その胸元のペンダント、もしかしてお兄ちゃんからのプレゼント?」
「えっ……!?」
奏羽は顔を真っ赤にして、ペンダントを手で隠そうとしたが、翠は「隠しても無駄だよー」とクスクス笑った。
「いいじゃん、すっごく似合ってる。お兄ちゃんにしては、センスいいもの選んだね。……で? プレゼント交換は、無事に大成功したわけだ」
「翠……お前、朝からうるさいぞ。ほら、温かいシチュー食べるか?」
「食べる食べる! お腹ペコペコ!」
翠はカバンをソファに放り出し、手早く手を洗って席に着いた。
そして、俺がよそったシチューを一口食べて、幸せそうに目を細めた。
「……うん、お兄ちゃんのシチューはやっぱり落ち着く。……これからは、この美味しいご飯が毎日食べられると思うと、私も日本に帰ってきて良かったなーって思うよ」
「毎日って、お前いつまでいるつもりだよ」
「お母さんたちが帰ってくるまでは、ずっとここに居座る予定だけど?」
翠のマイペースな言葉に、俺と奏羽は顔を見合わせて苦笑いした。
だが、その表情に、以前のような戸惑いや気まずさはなかった。
監視役のはずの翠も、今や俺たちの関係を温かく見守る(というか、面白がっている)一番の味方だ。
「……奏羽さん。お兄ちゃん、本当に優しいでしょ?」
翠がスプーンを口に運びながら、ふと真面目な顔で尋ねた。
「うん。……世界で一番、優しいよ。わたし、湊くんが隣にいてくれるから、毎日がすごく幸せ」
奏羽は、テーブルの下で俺の左手をそっと握りしめ、恥ずかしそうに微笑んだ。
お揃いのマフラー、雪の結晶のペンダント、そして、誰にも邪魔されないこの暖かい部屋。
俺たちの初めてのクリスマスは、騒がしくも愛おしい「家族」の存在と共に、これ以上ないほど温かく、そして甘い日常の中に溶けていくのだった。




