第107話:お揃いのぬくもりと、特別な夜の終わり
キャンドルの炎が静かに揺れるリビングで、俺たちはどれほどの時間、唇を重ねていただろうか。
お互いのプレゼントである、少し歪なネイビーのマフラーと、彼女の胸元で白く輝く雪の結晶のペンダント。お揃いのぬくもりを身につけたまま、俺たちはただ、互いの体温と鼓動を確かめ合っていた。
「……ふぁ……湊くん……」
ようやく唇を離すと、奏羽は熱を帯びたトロンとした瞳で俺を見つめ、そのまま俺の胸にコテンと頭を預けてきた。
緊張に満ちた期末テストの期間を乗り越え、今日一日、俺のために慣れない料理やケーキ作りを頑張ってくれた彼女の身体は、心地よい疲労感で限界を迎えているようだった。
「お疲れ、奏羽。……たくさん頑張ってくれて、ありがとうな。シチューもケーキも、本当に美味しかったよ」
俺が彼女のサラサラとした黒髪を撫でながら囁くと、奏羽は「えへへ……」と嬉しそうに目を細めた。
「……湊くんが、喜んでくれたから……わたし、すっごく、しあわせ……」
もごもごと、俺のパジャマの胸元に顔を押し付けながら呟く彼女。その手は、いつものように俺の服の裾をぎゅっと強く握りしめている。
「ほら、そろそろベッドに行こうか。……今日は、翠もいないから、朝までゆっくり眠れるぞ」
「うん……。湊くん、おんぶして……?」
眠気で完全にポンコツお姫様モードになった彼女は、両手を広げて俺に甘えてきた。
俺は苦笑いしながら彼女を背負い、リビングの電気を消して、静まり返った寝室へと向かった。
窓の外では、しんしんと雪が降り積もり、街の騒がしさを覆い隠している。
ベッドに彼女をそっと下ろし、俺もその隣へと滑り込んだ。
奏羽は、俺が先ほどまで着ていた少し大きめのパーカーをパジャマ代わりに羽織ったまま、すかさず俺の腕の中に潜り込んできた。
「……湊くん。ぎゅー、して?」
「ああ。……メリークリスマス、奏羽」
俺は彼女の細い腰を力強く抱き寄せ、もう片方の手で彼女の背中を「トントン、トントン」と優しく、一定のリズムで叩き始めた。
不眠症で夜を恐れていた彼女にとって、このリズムと、俺の声、そして温もりこそが、世界で一番安心できる「お守り」なのだ。
「……んぅ……湊くん……あったかい……」
奏羽は俺の胸に顔を埋め、胸元に飾られた雪の結晶のペンダントをそっと指先で触りながら、嬉しそうに微笑んだ。
「……これからも、ずっと……わたしの隣に、いてね?」
「ああ。……お前の特等席は、誰にも譲らないって約束しただろ」
俺が彼女の額にそっとキスを落とすと、奏羽は「……うん」と愛おしそうに呟き、そのまま深い、深い眠りへと落ちていった。
静かな寝息。
その安らかな顔を見るたびに、俺は「この人を守り抜くんだ」という決意を、何度でも新たにすることができた。
凪瀬夫人との約束、期末テストのプレッシャー、学園の噂。
立ちふさがる壁を二人で乗り越え、俺たちは今、誰にも邪魔されない最高の聖夜を過ごしている。
俺は、腕の中の愛しいお姫様の温もりを感じながら、外で降り積もる雪の音を聞き、静かに目を閉じた。
俺たちの甘くて焦れったい関係は、この特別な夜を経て、より深く、より確かなものへと変わっていくのだった。




