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完璧な生徒会長は、平凡な俺の「声」がないと眠れないようです。  作者: Takayu
第5章:雪解けの季節と、甘すぎる冬の誓い
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第103話:編み物の秘密と、夜のココア

マンションに帰り着き、俺が夕飯の準備をしている間。

奏羽は「ちょっと自習するね!」と言い残し、自分の部屋(客間)にこもってしまった。


(……きっと、逢坂が言っていた編み物をしているんだろうな)


俺はキッチンで野菜を切りながら、小さく微笑んだ。

普段なら、俺が料理をしていると「湊くんの匂いがする〜」と背中に張り付いてくる彼女が、今日は部屋から出てこない。

その健気な背中を想像するだけで、胸が温かくなる。


「……お兄ちゃん、なんかニヤニヤしてて気持ち悪い」


リビングのソファでテレビを見ていた翠が、呆れたようにジト目を向けてきた。


「気持ち悪いは余計だ。……翠、お前、最近奏羽が部屋で何してるか知ってるか?」

「え? あー……」


翠は少しだけ気まずそうに視線を逸らし、ポリポリと頬を掻いた。


「……まぁ、知ってるよ。夜な夜な、毛糸玉と死闘を繰り広げてるからね。この前なんか、編み目がほどけちゃって、半泣きになりながら私に泣きついてきたし」

「お前、手伝ってやってるのか?」

「仕方ないでしょ? あのままじゃ、クリスマスまでに『謎の毛玉のオブジェ』が完成しそうだったんだもん」


翠はため息をつきながらも、どこか楽しそうだった。


「でも、あんなに不器用なのに、絶対にお兄ちゃんのために作るって聞かないんだよね。……ホント、お兄ちゃんにはもったいないくらいの一途さだよ」


「……あぁ、そうだな」


俺は完成したシチューを器に盛り付けながら、改めて彼女の愛情の深さを噛み締めていた。


 * * *


夕食後、俺たちはいつものようにリビングのテーブルで、期末テストの反省と冬休みの課題に取り組んでいた。

とはいえ、学力は依然として彼女の方が圧倒的に上だ。


「……奏羽、ここの英語の和訳、どうしてもしっくりこないんだけど」

「ん? あ、ここはね、この前置詞が後ろの節にかかってるから、こう訳すの」


奏羽が、俺のノートに身を乗り出して丁寧に解説してくれる。

彼女の指先が問題文をなぞるたび、いくつも貼られた小さな絆創膏が視界に入った。


「……なるほど、そういうことか。サンキュー。……って、奏羽、指どうしたんだ?」


俺がわざとらしく絆創膏を見つめると、奏羽はハッとして手を引っ込めた。


「えっ……あ、うん! ちょっと紙で切っちゃっただけだから! 全然痛くないよ!」

「……そうか。あまり無理するなよ」


俺がそれ以上追及せずにいると、奏羽はホッとしたように息を吐き、再びノートに向かった。


時計の針が夜の十一時を回った頃。

翠は「先に寝るねー」と自室へ戻り、リビングには俺と奏羽の二人が残された。


「……奏羽、そろそろ休憩にするか」

「うんっ。湊くん、お疲れ様」


俺が立ち上がってキッチンへ向かい、温かいココアを二つ淹れて戻ってくると、奏羽はソファに移動し、クッションを抱きしめてポヤポヤとしていた。

一日中生徒会の仕事と勉強、そして(秘密の)編み物に体力を使っていたのだろう。完全にエネルギーが切れかかっている。


「ほら、ココアだ。飲んで温まれ」

「……ありがと、湊くん」


奏羽はマグカップを両手で受け取り、ふうふうと息を吹きかけてから一口飲んだ。

そして、コテンと俺の肩に頭を預けてきた。


「……湊くんのココア、甘くて美味しい……」

「お前が甘党だから、砂糖多めにしてるんだよ」


俺が彼女の頭をそっと撫でると、奏羽は目を細め、俺のパジャマの袖をぎゅっと握りしめた。


「……ねえ、湊くん」

「ん?」

「……クリスマス、楽しみだね」


奏羽の声は、眠気に微睡みながらも、確かな期待に満ちていた。


「ああ。俺も楽しみだよ。……お前と過ごす、初めてのクリスマスだからな」

「えへへ……。わたし、湊くんに喜んでもらえるように、いっぱい……がんばるね……」


コトリ、と。

奏羽の手から力が抜け、マグカップが俺の膝の上に傾きそうになる。

俺は慌てて彼女の手からマグカップを取り上げ、テーブルに置いた。


「……奏羽?」


覗き込むと、彼女は俺の肩に顔を埋めたまま、完全に夢の中へと落ちていた。

スヤスヤと規則正しい寝息が聞こえてくる。


「……本当に、限界まで頑張ってたんだな」


俺は彼女の絆創膏だらけの指先に、そっと、触れるだけのキスを落とした。

不器用で、一生懸命で、俺のために無理をしてしまう愛おしい人。


「……おやすみ、奏羽。プレゼント、楽しみにしてるからな」


俺は彼女を起こさないようにそっと抱き上げ、客間のベッドへと運んだ。

窓の外では、今年初めての雪が、静かに舞い降り始めていた。

クリスマスまで、あと一週間。

俺たちの甘くて温かい冬の日は、ゆっくりと、確かな足音を立てて近づいていた。

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