↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完璧な生徒会長は、平凡な俺の「声」がないと眠れないようです。  作者: Takayu
第5章:雪解けの季節と、甘すぎる冬の誓い
102/150

第102話:不器用なマフラーと、冬の図書室

十二月も下旬に差し掛かり、学園の廊下は底冷えするようになってきた。

期末テストも終わり、冬休みを目前に控えた学園は、どこか浮き足立った空気に包まれている。


「……湊くん、手、繋いでもいい?」


昼休み。

俺と奏羽は、いつものように旧校舎の図書室へと向かっていた。

周囲に生徒の姿がないことを確認すると、彼女は俺の制服の袖ではなく、そっと俺の指に自分の指を絡ませてきた。

彼女の指先は、氷のように冷たい。


「手袋、してこなかったのか?」

「うん……忘れちゃった。でも、湊くんと手を繋げるから、忘れてよかったかも」


悪戯っぽく微笑む奏羽。

俺は苦笑いしながら、繋いだ手を俺のコートのポケットに引き入れた。


「ひゃっ……」

「これなら温かいだろ。……それに、誰かに見られても分かりにくいしな」

「……うんっ。湊くんのポケット、すごくあったかい……」


奏羽は嬉しそうに俺の腕に身を寄せ、歩幅を合わせて歩く。

ポケットの中で重なり合う手と手から、互いの体温がじんわりと伝わってきた。


 * * *


図書室に入ると、そこにはすでに一条副会長(零さん)と、書記の逢坂の姿があった。

期末テスト期間の地獄の補習は終わったが、生徒会の業務や、冬休み前の図書室の整理など、やるべきことはまだ残っている。


「遅いですよ、二人とも」

零さんが、眼鏡を押し上げながら俺たちをジロリと睨む。

ポケットの中で手を繋いでいることは、彼女の鋭い視線には完全に見透かされていた。


「すみません、零さん。……少し、外が寒くて」

奏羽が慌てて手を離し、顔を赤くして取り繕う。


「まあいいでしょう。……会長、生徒会報の冬休み特別号の原稿、最終チェックをお願いします。風森さんは、返却された本の配架を手伝ってください」

「はいっ」

「了解です」


俺たちはそれぞれの作業に取り掛かった。

俺が本を抱えて書架の間を歩いていると、不意に逢坂がニヤニヤと笑いながら近づいてきた。


「風森くん、風森くん」

「……嫌な予感しかしないんだけど、なんだよ、逢坂」

「いやー、会長ったらさ、最近ずっと生徒会室でコソコソ編み物してるんだよねー」


「……編み物?」

俺が聞き返すと、逢坂は声を潜めて続けた。


「うん。クリスマスプレゼントなんだって。……でも、会長、恐ろしいくらい不器用でしょ? この前なんて、毛糸玉と格闘して自分が縛られちゃってたからね」


逢坂の言葉に、俺は思わず吹き出しそうになった。

完璧な生徒会長が、毛糸玉に絡まって身動きが取れなくなっている姿。容易に想像がつく。


「零さんも見かねて手伝おうとしたんだけど、『これはわたしの力だけで作るの!』って意地張っちゃって。……風森くん、本番でもし変な形のマフラー渡されても、絶対笑っちゃダメだよ?」


「笑うわけないだろ。……あいつが俺のために作ってくれるなら、どんな形でも嬉しいよ」


俺が真顔で答えると、逢坂は「うわー、ごちそうさま!」と大げさに両手で顔を覆った。


「ホント、このバカップルは……。あーあ、うちの蒼太にも聞かせてやりたいわ」

逢坂は呆れたように肩をすくめ、自分の作業に戻っていった。


(……編み物か)

俺は本棚の隙間から、カウンターで作業をしている奏羽の姿をこっそりと覗き見た。

彼女の指先には、いくつもの小さな絆創膏が貼られている。

料理の練習で火傷した痕とは違う。あれはきっと、編み針で指を突いてしまったのだろう。


俺の胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。

不眠症で夜が怖かった彼女が、今は俺へのプレゼントのために、夜な夜な毛糸と格闘している。

その事実だけで、俺にとっては最高のクリスマスプレゼントだった。


 * * *


放課後。

作業を終えた俺たちは、いつものように並んでマンションへの帰路についた。


「……ねえ、湊くん」

「ん?」

「クリスマス、どこか行きたい場所ある? わたし、一日中湊くんと過ごせるならどこでもいいんだけど……」


奏羽が、俺のコートの袖を掴んで上目遣いで聞いてくる。


「そうだな……。イルミネーションが見たいって言ってたよな? 駅前の大通りでイベントやってるらしいから、そこに行ってみるか」

「ほんと!? 行きたい!」


奏羽はパァッと顔を輝かせ、嬉しそうに俺の腕に抱きついてきた。


「……でも、外は寒いからな。しっかり防寒していかないと」

俺がわざとらしく言うと、奏羽は「ふふっ」と意味ありげに微笑んだ。


「大丈夫だよ。……わたし、すっごくあったかい防寒具、用意してるから」


絆創膏だらけの指先を、少しだけ背中に隠すようにして笑う彼女。

俺は気づかないフリをして、彼女の頭をポンポンと撫でた。


「そっか。楽しみにしてるよ」


冬の夕暮れ。

吐く息は白いが、繋いだ手と、互いを思いやる不器用な優しさが、俺たちの帰り道をどこまでも温かく照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。