266.
翌日、朝食後に護衛の半分は平民服に着替えて先に驛から出て行った。
昨日の内に話をつけた店に客として潜入しておくためだ。
その間に俺達も着替えを済ませる。
テーマは地方貴族の子息達とその護衛、らしい。
俺とシモンはいつもの黒装束ではなく、グラデーションに染められた色違いの漢服。
部屋に迎えに行くと、峻耀とジェスも色違いの服を着ていて、並んでいると本当の友達同士みたいだ。
しかもジェスの髪型が油のような整髪剤でオールバックにされている上、つけ毛と思われる頭の上のお団子までお揃いにされていた。
「ククッ、似合うじゃないか、ジェス」
「何だか頭がベタベタする……」
本人はあまり気に入らないようだ。
「それじゃあお出かけから帰ったら、洗浄魔法で落とせばいい。今回のお出かけはその格好の方が目立たないからな」
「でしたらジュスタンも髪を結いましょう。私が結ってあげます。シモンはどうしようもないのでそのままでかまいません」
そう言う雪瑤の手には、すでに櫛がある。
幸い俺の場合はオールバックではなく、横髪を掬って頭の上の方でお団子を作られただけだった。
確かに中国の歴史ドラマでこんな髪型を見た事がある気がする。
「これでいいでしょう。髪の色はどうしても目立ってしまいますが、髪型だけでも黄鱗帝国風にしておけば印象は違うはず。あからさまなよそ者扱いはされないでしょう」
なるほど、峻耀に同行するのが黄鱗帝国民に見えなくもないが、どう見ても子供のジェスと、明らかに外国人の俺とシモンだから心配になったのか。
いざとなったら周りにいる護衛達を巻き込むという手もあるし、何とかなるだろう。
「準備はできたかっ!? では行くぞ! 雪瑤はゆっくり休んでいるといい。お土産を買ってくるからな!」
事前に文官から今回の外出に使う分のお金は受け取っている。
形は違うが、基本的に価値は同じようなものなので騙されたりはしないだろう。
少なくとも俺なら漢数字くらいは読めるからな。
「では、私は隠蔽魔法を使ってついて行きます。『隠蔽』」
藍之介が魔法を使った瞬間、完全に俺達には認識できなくなった。
認識阻害であれば、わかっている者なら注意すれば認識できるが、隠蔽魔法は魔力感知ができないと無理だ。
今回の外出では、藍之介は同行のメンバーに入っていなかったため、この方法を採ると本人が決めて烈陽に交渉したらしい。
普段は部屋の前から馬車に乗って移動しているが、今回街歩きが目的だからと、峻耀は意気揚々と歩いて門へと向かった。
門を一歩出ると、一定の距離を置いてこの数週間で見知った顔がチラホラ立っている。
「峻耀、迷子になるといけないから手を繋ごう」
返事を待つより早く、ジェスは峻耀の手を握った。
普段手を繋いで歩く事がないせいか、戸惑いながらも嬉しさを隠しているような顔だ。
数分歩くと商店が並ぶ大通りに出た。
峻耀は周りを見回し、振り返る。
「好きな所に行っていいぞ。その代わり、走るなよ」
「わかった! ジェス! あの店を見るぞ!」
「うん!」
手を繋いだまま、走らないという約束を守るためか、競歩のような急ぎ足でお菓子を売っている店に近付く二人。
それなりの人気店のようで、壺から茶色い水あめのようなものを二本の棒に絡めては客に渡している。
「店主! これは何だ!?」
「金持ちの坊っちゃんなのに食べた事がないのかい? 麦芽糖だよ。食べてみるかい? 大銅貨一枚だよ」
恐らく食べた事がないのではなく、この状態で食べた事がないだけなのだろう。
大きなひと口で食べられそうなサイズで、大銅貨一枚……つまりは千円もするのなら、結構な高級チョコレート並みの価値なわけだ。
という事は、東宮という立場なら普段のおやつに出ていてもおかしくない。
だが、こういうのは体験するのが楽しいからな。
俺は大銅貨を三枚店主に渡した。
店主は上客と見たのか、イソイソと棒に麦芽糖を絡め始める。
「はい! まずはひとつね!」
店主が差し出した麦芽糖をシモンに渡す。
「えっ、オレが食っていいの!?」
峻耀がショックを受けた顔をしていたので、笑いそうになった。
「雪瑤から言われているからな。峻耀に食べさせるなら、先に毒見をするようにと」
そう言うと、峻耀はすぐに納得したようだが、シモンが麦芽糖の付いた棒を咥えたまま複雑そうな顔をした。
「そんな顔をするな。毒見と言っても形式的なものだからな。考えてもみろ、こうやって街中の店で毒なんてそうそう仕込まれるものじゃないだろう」
「そうだよな。それにしてもこれ、変わった食感だけど、優しい甘さで結構美味いぜ」
「はい、お待たせ」
次に店主が差し出した分は、峻耀が振り返って俺に確認したので、頷いて受け取るよう促した。
自分で直接商品を受け取るのも、こうやって店で買うのも初めてなのだろう、峻耀は目をキラキラさせている。
最後に差し出された分はジェスが受け取った。
いらないかもしれないが、一緒に雰囲気を楽しむには食べた方がいいだろう。
味はともかく、硬めの水あめのように伸びる食感を楽しんで、峻耀とキャッキャと笑いながら食べている姿はほっこりする。
「あれ? 団長さん?」
なごんでいたら、聞き覚えのある声が聞こえた。
馬車で知り合った風だ。
不審者として護衛達が反応するかと思ったが、なぜか誰も反応しない事に、俺は逆に警戒を強めた。




