267.
俺は風と峻耀達の間に入る位置に移動する。
「風はどうしてここに? 香蓮府にいたはずだろう?」
「あっ、本当だ。風じゃねぇか」
シモンも風に声をかけながら、峻耀達のすぐ横に移動した。
よしよし、ちゃんとすべき事をわかっているな。
「あ、シモンも一緒なんだね。帝国の服似合ってるねぇ。香蓮府で別れた二日後には俺も出発したから、もしかしたら会うかもと思ってたけど……本当に会えるとは。案外縁があるのかも」
「そういえば本店が都にあると言っていたな。このまま都へ向かうのか?」
「ん~……、今さぁ、高貴なお方がこの町に滞在しているんだって。その一行の後ろについて行こうかと思ってるから、出発は未定かな」
確かに野盗に襲われないように、商隊の後について移動するというのはよく聞く話だ。
実際峻耀の一行は大行列だから嫌でも目立つ。
ただ、風が東宮がここにいる峻耀だとわかっていて近付いて来たのかがわからない。
烈陽が隠れている方を見ると、変な踊りを踊って……いや、あれはジェスチャーか。
どうやら風の事を知っているらしい。
だから警戒する様子がなかったんだな。
とりあえず烈陽には今度、簡単なハンドサインを教えてやろう。
「なるほど。風の所属している商会は、都の城にも出入りしているというわけか」
「まぁ、そういう事。結構顔が広いから、知り合いになっておくと便利な男だよ?」
「へぇ、それじゃあこの辺りで子供が喜びそうな店を知っているか?」
「一番喜ぶのはもう連れて来たみたいだから、他にかぁ……。おもちゃを扱っている店が一本向こうの通りにあるけど、その前に何とかした方がいいんじゃない? それ」
俺の後方を指差す風。
振り返ると、口の周りと手をベタベタにした峻耀とジェスがいた。
しまった。風に気を取られたせいで目を離しすぎたか。
二人の前にしゃがみ、棒を受け取る。
「ほら、両手を出せ。『清浄』」
「ジュスタンありがと!」
「感謝する……」
ジェスにつられるように、峻耀もお礼を言った。
「どういたしまして。あそこにいる風という商人がおもちゃを取り扱っている店を教えてくれたぞ。行ってみるか?」
「「行く!!」」
二人は同時に元気よく返事した。
そういえば、ジェスにはお菓子や料理を与えた事はあっても、おもちゃはないな。
おもちゃを目にする事自体なかったから、どんな物があるのかも知らない。
図工の授業で作るような物であれば、材料を手に入れて作ってやる事もできるが、まずは黄鱗帝国のおもちゃ事情を調べるか。
「それじゃあ決まりだね。こっちだよ。なかなか器用な細工師がやってる店で、事前に注文しておけば自分だけの特別な物も作ってもらえるんだ」
風は先導するように前を歩きながら説明する。
「細工師がやっているという事は、作っている本人がやっている店なのか」
「そりゃそうだよ、じゃないと収入が減っちゃうからねぇ。ほら、あそこだよ」
碁盤目状の街並みで、ひとマス分が全て店舗ばかりなせいか、店から店への移動がすぐにできる。
目指す店舗はすぐにわかった。
店の前の台に木彫りの動物……だけじゃないな、魔物も置いてある。
二人で手を繋いでいる峻耀とジェスは、今にも走り出しそうだ。
「走るなよ」
そう言うと、前傾姿勢だった二人がビクッと身体を震わせた。
「わ、わかっておる!」
峻耀は即座に言い返したが、本当にわかっていたら、ビクッとしないはずだぞ。
その証拠に、ジェスは言い返してこない。
だが、再び競歩の速度で移動を始めた。
「ほぅ、見事なものだな」
「いっぱいあるねぇ」
峻耀とジェスが目を輝かせながら、木彫りの商品を見ている。
ちゃんとヤスリもかけてあるようで、棘の心配はなさそうだ。
店主は商品の台の向こうで無言のまま何かを彫っていた。
「この長いのは何かな? 魔物?」
ジェスが指差したのは、いわゆる東洋の龍だ。
「他国から来たから知らぬのか。これは黄龍だぞ。初代皇帝の友と言われておる」
「これドラゴンなの? 長いねぇ。ボ」
二人の後ろに立っていた俺は、とっさにジェスの口を塞いだ。
危ない、絶対今ボクと違うとか言うつもりだっただろう。
ジェスはいきなり口を塞がれて驚いたようだったが、数秒考えて何かに気付いたように目が大きく開かれた。
その後、俺を見上げると、誤魔化すように笑った。
後ろでシモンがずるいとか、ジェスには甘いとかブツブツ言っているが、お前とジェスの扱いが同じなわけないだろう。
俺達のアイコンタクトを峻耀が不思議そうに首を傾げて見ている。
「せっかくジェスも帝国の服を着ているんだ。よそ者と思われない方がいいだろう? 俺達の国では身体の長い龍はいないんだ」
「そういえば文献で見た事があるな。一度くらいこの目で見てみたいものだ」
目を輝かせながら言う峻耀に、俺達は口をつぐむしかなかった。




