264.
「くすくす」
「ふふっ」
ジェスと峻耀の密やかな笑い声で目が覚めた。
何を笑っているのかと、寝たふりを続ける。
「存外ジュスタンは寝相が悪いのだな」
「いつもは違うんだよ。だけど、どうして今日はあんな向きで寝てるんだろう」
どうやら二人共俺の寝ている位置で笑っているようだ。
「お前達がくっついて、俺の寝る場所がなくなったからだぞ」
「「わぁっ」」
目を瞑ったままそう言うと、俺が眠っていると思っていた二人は驚きの声を上げた。
素直な反応が可愛くて、口元が緩む。
「おはよう! ジュスタン起きてたの?」
片目を開けると、ジェスが俺の身体の上に飛びついた。
「おはよう。二人が笑っていたから起きたんだ。まだ起きるには少し早くないか?」
飛びついてきたジェスをシーツごと抱き締めて包み込むと、シーツの中でキャッキャと笑っている。
その様子を見ていた峻耀が、ソワソワと視線をあちこちに向けた後、ジェスのように俺に飛びついた。
二人共、まるでジャレついてくる子犬のようだ。
峻耀の事も抱きとめ、ジェスと纏めてシーツに包み、シーツを巾着のように持ち上げると、中から聞こえる笑い声が更に大きくなった。
「我に対してこのような扱いをするのはそなたが初めてだぞ!」
まるで咎めるような言葉だが、峻耀の声は何だか嬉しそうだ。
あと三十分くらい眠れたはずだが、すっかり目が覚めてしまった。
もう寝る気はないので先に着替える事にする。
着替え始めると、昨夜のように峻耀がじっくりと俺の着替えを見学していた。
しかし、昨夜と違って俺を見ているというより、パジャマを見ているようだ。
「どうした?」
「うむ……、ジュスタンとジェスの夜着は着心地がよさそうだな」
「これは特注してつくってもらったものだからな。ジェスのは魔力でできているが」
俺の言葉に促されるように、峻耀はジェスに視線を向けた。
そこにはすでに昨日と同じ服装のジェス。
「いつの間に!? そういえば昨夜もいつの間にか着替えておったな」
そうだな。峻耀が俺の筋肉に気を取られている間に、俺とお揃いの格好に変えていたから気付かなかっただろう。
ジェスの服装は、瞬きしている間に変わるからな。
「最初に人化した時の姿が一番魔力消費は少ないけど、どんな格好もできるんだよ」
そう言ってジェスは昨日峻耀が着ていた服装になった。
「おお! 凄い! 変えられるのは服装だけか!? 顔とか身体の見た目は変えられぬのか!?」
「う~ん、大人になったらできるかもしれないけど、今のボクには無理かなぁ」
「そうか……それは残念だ」
心底残念そうにしているが、まさか……。
俺は峻耀にジトリとした目を向けた。
「顔も変えられたら、自分の影武者にできる……なんて考えていないよな?」
「……そ、そんなわけなかろう」
なぜ目を見ない。
最初に会った時も、烈陽達の目を盗んで離れた隙に誘拐されたからな。
東宮という立場が息苦しいのはわかるが、逃走したり、ジェスを影武者にしようと考えるのはいただけない。
「自由を満喫したいのなら、最初から行き先をしっかり報告して、峻耀にはわからないように、離れたところから護衛をするように言っておくといい。店の者にも何かあった時はすぐに知らせるとか、取り決めがあった方が案外自由に動けるぞ」
エルネストのために第二騎士団が平民のフリをして、行く予定の店に先に客として潜伏したり大変そうではあったがな。
その代わり、エルネストは周りが護衛だらけと気付かず、ディアーヌと街中デートを楽しんでいた。
第一騎士団の護衛は馬車と一緒に待機だったらしく、ただ待つという時間が苦行だったらしい。
だが、勝手に抜け出されて誘拐やら襲撃を受けるくらいなら、烈陽達は迷わずこの提案に飛びつくだろう。
酒の席で聞こえてきた話からして、黄鱗帝国は人の命がラフィオス王国やエルドラシア王国に比べて軽く扱われている印象を受けた。
「ふむ……、ならばその提案をしてみよう。それで快適であれば今後はそうすればよいわけだ」
今の言い方だと、快適じゃなかったらこれまで通り抜けだす気満々なんじゃないか?
後で烈陽に警備の際の注意事項を教えておいてやろう。
『おはようございます、東宮。雪瑤です』
「うむ、入れ」
話をしている間に起床の時間になったらしく、雪瑤がやって来た。
「東宮はお着換えをしますので、お二方は自室に戻ってください。もうすぐ朝食に呼ばれるはずです」
すまし顔というのがピッタリの表情で、俺とジェスは部屋を追い出された。
どうも雪瑤には敵視されている気がする。
しかし悩んだところであと数日で会う事もなくなる相手だから、気にしても仕方ない。
「シモン達のところに行くか」
「うん!」
当然のように俺の手を握るジェスに頬が緩む。
部屋に戻ったら黒からの伝言とやらを聞かないとな。
その後、部屋に戻ったらシモンとジェスが楽しそうに遊び出したので、朝食の呼び出しもあり結局伝言は聞きそびれてしまった。




