246.
「しっかし、エルフ様ねぇ……」
村を出て二日目、陽が傾いてきたから夕食の準備をしていると、シモンが思い出したように呟いた。
「人族に比べて我々エルフは優秀ですからね。伝説に残っていたとしても不思議ではありません」
「まぁな。実際、俺もこっちに来るまでは伝説というか、子供に聞かせる話の中にしかいないと思っていたしよ」
「里から出るエルフはよほどの変わり者でしょうけど、皇帝の側妃になったというのは信じられませんね。本当にエルフだったのでしょうか」
藍は話しながら、道中で狩った角兎を手際よく解体し、俺が使い方を教えたハーブを使って調理していく。
水や火は魔法で出し、片付けの洗浄ももちろん魔法だ。
人族からしたら魔力の無駄遣いと思える事を平気でやってのけるのは、エルフの魔力量ならではだろう。
「それも都に到着したら確認すればいい。藍がいれば皇帝に会うのも簡単そうだしな。萌の言っていた友というのは、案外皇帝の周りにいるのかもしれない。それこそ側妃になったエルフとか」
萌は行けばわかると言って、詳しく教えてくれなかったからな。
それとも藍がいれば、向こうから接触しに来るのだろうか。
暗くなる前に各自テントを張り、早々に寝る事にした。
野営の間は藍が認識阻害の魔法をかけてくれるおかげで見張りは必要ない。
「明日も太陽が昇ったら食事をしてすぐに出るからな。おやすみ」
「おやすみなさいませ」
「おやすみ~」
藍の魔法が問題ないのは、この数日で確信できたからか、すぐに睡魔に襲われた。
そしてまどろむ俺は、覚えのある感覚で夢を見る。
◇ ◇ ◇
山の中で一人の男が黄色い鱗の龍に出会った。
竜ではなく龍、いわゆる東洋のドラゴンだ。
好奇心いっぱいでキラキラした目の男に、龍は興味を持って色々話をしている。
男の服装が変わっているから、季節が変わったらしい。
男は朱玄耀という名前だったが、黄龍と共に過ごすうちに小さな国の王となった。
人々に慕われ、その傍らには常に黄龍がいる。
男はいつしか皇帝となり、名を黄玄耀と改めた。
黄龍は「朱から黄に変わったのか」と嬉しそうに笑っている。
黄龍が刺繍された豪華な服を着た皇帝の玄耀と黄龍は池のほとりでよく笑って話していた。
季節が変わり、色々出かけ、その中には山で萌が一緒の時もあった。
玄耀に子が生まれ、孫が生まれ、いつしか玄耀の命が尽きても黄龍は玄耀の子孫を見守り続けた。
それは玄耀の最後の願いだったからだ。
黄龍が手助けするおかげで、黄鱗帝国のほとんどの民は貧しさを知らずに生活していた。
だが、それに慣れると人々はもっと、更に豊かさを求めるようになる。
玄耀の子孫の何代も後の皇帝の一人に、かなりの野心家がいた。
兄弟を殺して皇帝になった男だ。
黄龍は嘆いた。
そうして帝国を離れようかと考えていた時、一人のエルフが帝国に現れる。
そのエルフは皇帝の側妃となった。
気付いた時には黄龍は皇宮の地下に封印され、魔力が少しずつ抜けていくのを感じていた。
どのくらい月日が過ぎたのだろう、黄龍の鱗は輝きを失い、かなり弱っているのが見て取れた。
幼さの残る女性が悲しそうな表情を浮かべながら黄龍の世話をしている。
魔力を分け与えてるようだが、それでも黄龍の死期が近いと見ていてわかるほどだ。
黄龍は最後の力を振り絞り、己を封印し続けた帝国に呪いをかけて絶命した。
世話係の女性は全ての責任を負わされ、生きたまま四肢を縄で四頭の牛に繋がれ、牛裂きの刑に処され……。
◇ ◇ ◇
「うわぁっ!」
あまりにも残酷で、生々しい夢だった。
さすがに今回はすぐにわかる、これは女神が見せたものだと。
これまでの夢から、最悪のパターンを教えてくれているようだが、もう少し手加減してほしい。
生きたままあんな風に……ウッ。
ダメだ、思い出すのはやめよう。
今使っているテントはエルドラシア王国で買った物のため、認識阻害の効果のおかげか、シモンも藍も起きて来る気配はない。
だが、少し空が白み始めているからもうすぐ起きて来るだろう。
それにしても、夢で見た感じでは萌の友というのは側妃になったエルフではなく、皇宮の地下に封印されている黄龍の方だと見た。
しかし、何代前の皇帝の側妃なのかは知らないが、エルフであればまだ皇宮にいてもおかしくない。
何となく、本当に何となくだが、蘭と側妃のイメージが重なる。
エルフとダークエルフだから別人なのはわかっているが、もしも今の蘭がダークエルフの身体を乗っ取っていたと仮定すれば、可能性がなくはない。
むしろあのエルフが闇堕ちしてダークエルフになったという可能性もある。
この先にあるという交易都市に到着してから、情報収集をするか。
目が覚めてしまったので、先にテントを片付ける。
テントを片付け終わった時には、太陽自体は山に遮られて見えないものの、周囲は十分明るい。
二人が起きて来るまでに朝食の準備でもしておくか。
起きて来たシモンが文句を言ったが、朝食に肉が一切なかったのは、仕方のない事だと思う。




