パワー・オブ・ザ・キング
「ここは?」
《回答)どうやらここが城の中心部のようです。》
俺の質問に解析を完了したナビが言う。
中心部....つまり城の王の部屋とかそのような感じの部屋だろう。
俺はその部屋の壁に掛けられている絵などを眺める。
悲鳴を上げている人間に手を差し伸べる謎の生物。
共に武器を持って原型を留めていない怪物に向かう人間とツノの生えた人型の者の姿。
他にもさまざまな装飾品が飾られていた。
そんな中、俺は疑問に思った。
「なぁ、ナビ。」
《応答)なんでしょうか?》
「ここ、今までの壁と比べたら何も汚れてなくない?」
その言葉にナビも考えていたのか、はい。と感情がこもった言葉を出す。
《報告)解析をした結果、この部屋では何も争いの跡が出来ておりません。しかし、マナの異常な数値を確認しました。》
「異常な数値?」
俺がそう聞こうと言ったすぐだった。
「!? グリ!?」
「パフ!!」
部屋に入って今まで大人しかったグリが突然、俺の腕から飛び出したのだ。
そのままグリは部屋の奥にある部屋へと走って行く。
「っちょ。おい! 待てよグリ!!」
俺の言葉にグリは止まらずにそのまま開いたままの扉から中へと入って行った。
俺はそれを追いかけてその部屋へと向かう。すると
《警告)ご主人!!それ以上中には....》
「え?」
俺はそのナビの警告も虚しく、足を止められなかった。そしてそこで。
ゾッ!!!!!!!
今まで感じたことの無い殺気を感じ取った。
「....っなんだよ.....さっきの....」
一瞬、目の前が真っ暗になった俺は体勢を崩していたようだった。
急いで立ち上がり部屋を見渡そうとした俺はその光景を見て汗を垂らす。
グリが尻尾を高く上げて威嚇している目の前に、大きな頑丈な檻があった。
檻といっても、部屋の半分から先に檻の棒が直接部屋の天井と床にささった.....いわゆる檻の部屋?のようなものがあった。
その中にいる「それ」を見て俺は穴という穴から汗が溢れ出る感覚に襲われた。
俺の本能が言っていた。こいつは危険だと。
それを感じ、俺はグリの元へと走る。すると
『貴様は誰だ。』
そんな声がその部屋と俺の脳に響いた。
俺はそれを見る。
薄茶色のボサボサとした汚れた髪に、真っ青な皮膚。爪がとても伸びた指と足に黒く淀んだ目をした玉座に座る「それ」はその鋭い目で俺を見据えていた。
『もう一度聞こう。』
そう言った「それ」はそう言い言葉を切る。そして。
『貴様は、誰だ!!!!!』
叫び声に似た咆哮を俺にぶつけてきた。
俺はそれを聞き体を固める。
殺されると思ったから。だがしかし。
《ご主人。大丈夫ですよ。》
その言葉を聞き俺は体の中から暖かさを感じた。
あぁ。ナビが。守ってくれてるんだ。
そう思い俺はその朦朧としたその顔を殴りつける。
顔に熱がこもる。が、それは自業自得だと考えて俺は顔を振りそいつに目を向ける。
それを見て「それ」はニヤリと口元を歪める。
『ほう。儂の咆哮を耐えるか。そこに転がっている奴らとは違うというわけじゃな。』
その言葉で俺は初めてその部屋の両端に倒れている白骨死体に気付く。
こいつが.....彼らをやったのか?
普通ならそれで認めていいはずだが、俺は何故かそれを疑問視した。何故かは分からない。先ほどの殺気もきっと偽物では無い。
だが何か違うように思えた。彼らを殺したのはこいつでは無いと。
『して、貴様は何者じゃ?』
「それ」は3度目となる似た質問を聞く。
俺はもう震えてはいなかった、ビビっていなかった。ナビがいるから、腕のグリがいるから。
「悠人。 人間の悠人という。こいつは俺のペットのグリだ。」
「パフ!!」
俺が顔を向けるとグリは「それ」に向かって怖くはない。と見せつけるように鳴く。
『.....ほう。』
「それ」は立ち上がると檻の近くまで近づき俺をその高い身長で見下ろす。
『人間が何故ここにいる。ここはモンスターしか存在しないはずじゃが?』
その質問には困った。近くに村があると言えばいいか?そう思ったがこいつはここがモンスターだらけなことを知っている限りでそんな嘘は見破られるだろう。
そう思い俺は真実を口にする。
「.....俺は.......異世界の転生者だ。」
『カッカッカッカッカッ!!それは面白いわ!!! 異世界の転生者か!!しかも性別がないとな!? こりゃあ面白い!!』
「う、うるせぇ!! 俺だって好きでここに来た訳じゃねぇんだよ!!」
突然笑ったそいつに俺はいつものノリで突っ込んでしまう。
だがそれを気にもとめず、そいつは楽しげに話しを進めようとしていた。
話しをしているとどうやらナビの分析の通り、ここは五百年前に作られたものでこいつはここでずっと暮らしているようだった。
俺の転生前やここの世界に来ての話しをすると笑って腹を抱えていたが、こいつの話になると先ほどの笑顔が嘘のように消え、どこからか寂しさと孤独感を感じられた。
やはり、と俺は思った。この者は話し相手が欲しかったのだ。一人が怖くて。
だから白骨死体をここに置いているのだ。気を紛らわせようとして、五百年近くも......
俺はそいつのことを考えてそうまとめた。
だから俺は動いた。
ガンッ!!
そんな音が響く。
その音に他の二人と一匹は一斉に反応を示す。
『お主。何をしておる?』
「何って? この檻を壊すに決まってんだ....ろ!!」
俺は拳をその檻に何度か打ち付ける。
だが俺はそこで違和感に気付く。俺は今、以外と力を込めてその鉄の棒を殴った。しかしその時の痛みが全くない。
鉄のように冷たい物に触れる感触はあるのに痛みが感じ取れなかった。
ナビ曰く、俺の体はどうやら痛覚を感じなくなっているらしい。
何度殴ろうが痛みは感じない。しかし俺はそれを気にすることなく殴り続ける。
《警告)ご主人。この檻は破壊できません。》
もう一度。という時にそんなナビの声が耳を通った。
《この檻は触れた生物のマナを吸収します。そしてそのマナにより強度を増す仕組みになっているのです。》
その言葉に俺は耳を疑う。そしてマナは続ける。
《この世界の生物は全員、体内のマナがあることで活動できています。そのマナを奪われてしまえば生き物は体を保てなくなりそのまま自然に抜け殻.....つまり死んでしまいます。》
つまりその檻を壊そうとすればマナを吸収されて逆に固くなるのか.......そしてずっと触れてたら死.......ねぇ.....
そう考えをまとめる。が、俺の腕は止まっていない。
《報告)ご主人!!これ以上はやめて下さい!!》
そうナビが言った言葉が聞こえる。勿論俺はこの動きを止めようと思えば止められた。
しかし俺は右手で殴りつけ、その部分をさらに左手で殴り、勢いが消えた右手で殴る。という行動をやめなかった。
「いやだ。これを壊すまで殴る。」
そう言って俺は拳を檻の棒一本一本に殴りつける。子供のように。
その檻の一本の鉄の棒に向かって。だが
『諦めろ。それは転生者だからどうにかなるといった粗末な代物ではない。』
その檻の中のやつは座り込んだまま立とうとも手伝おうともしなかった。まるでそれが無駄だと主張するように。
『それはある者が儂を封じ込めるために使った特別な檻じゃ。お主のような人間ならばすぐに死んでしまうぞ?』
そうそいつは言うが俺は止めない。
そのまま鉄が叩きつけられる音が響く中、数秒たち、そいつは口を開く。
『何故じゃ?』
「.....何故......って......何...っが!」
俺は拳を振りながら途切れ途切れに聞く。
『何故そこまでするのじゃ?』
その言葉に俺は拳を止める。
「理由がないと駄目なのか?」
その言葉に、そいつと は目を見開き、ナビは声を漏らす。
俺はたまに不可解な行動をする。
何故?そう聞かれて俺は返す理由を模索する。
(存在しない)
それしか俺の頭には浮かばない。
今回のこいつを檻から出して仲間にするという考えも、逆にこいつをそのままにする方がメリットが多い。
こいつが俺の言うことを全て聞くのか?
こいつに裏切られたらどうするのか?
そもそも仲間になるのか?
足手まといになるのでは?
考えれば考えるほど嫌な疑問や答えは出てくる。
それは仕方がないことだ。「可能性」それは、どんな完璧な作戦であっても、どんなに完璧な人間にも、生物にも必ず存在する。
無い方がおかしいくらいだ。そんなものを相手にしていればきりが無い。
だから俺はそんなことどうでも良かった。
だから。
「理由とか堅っ苦しいことはどうでもいいよ。俺はただ。」
俺はそこまで言いもう一度拳を動かす。
「ただ、俺がしたいという道に進む。」
それを聞き何故かそいつが口を緩めた。
バカなやつ
そう思われていそうだが俺は気にしない。
笑いがそれで生まれるなら安いものだ。
『カッカッカッカッ。』
そう笑い声を漏らしてそいつは何もない天井を見上げる。黒く汚れているのだろうが、そいつはそれを見て顔を引き締めた。
それを見て俺はさらに拳に力を込めてそれを叩きつける。
《.......警告........あとご主人のマナは残りわずかです........ご主人!!もうやめてください!!》
「いやだ。まだ....つづけっ!?」
そこまで言った時、俺の目の前が真っ暗に染まった。
「な!?....なん....だ!?」
そのまま膝をつき俺は顔を左右に振る。と
元の視界が見えた。どうやら貧血の時のようなものがきたらしい。
真面目にまずい。先ほどから身体中も痛い。
《もう....やめてください!!》
......ギリッ。
俺は歯を食いしばり檻に拳を叩きつける。
《......ご主人....もう.....》
「うるさい!!」
俺はそう言い、檻の中でひたすら俺を一点に見つめるやつと目があった。
そして拳を握り返しさらに叩きつける。
「!!っこの!! っこの!!」
俺の力は弱くなって行き、
俺は地に伏せた。
《ご主人!!》
ナビが呼ぶが力が入らない。
俺は返す言葉も思考出来ず、返すこともできずにただただうつ伏せのままだった。
そんな俺を睡魔が襲った。
俺は必死にナビの言葉を聞こうと目を開けようと試みるが。
睡魔に勝てなかった。
俺はそのまま目を閉じた。
俺は終わるのか?
藤原悠人は?
こんな馬鹿な死に方で?
こんな..........無様に.......誰も助けられるまま。
第二の人生が終わるのか?
《冗談だろう?》
「え?」
俺はその言葉に目を開ける。
そこには、果てなき地平線。その地平線を覆い尽くす白い世界。白い地平線。
何もないただの平らな世界が広がっていた。
ただ俺はそこで目の前にいるそいつを見上げる。
檻のやつと似たような高い身長にそいつとは違った独特の雰囲気を漂わせたその和服の男は背を向けたまま声をかける。
《汝はそれで良いのか?》
いいわけねぇよ。
そんな言葉が勝手に口から漏れる
《汝の限界はここか?》
ちげぇよ。
《汝の終わりはあって良いのか?》
いいわけねぇよ。
《では何故行わない?》
......力がねぇんだよ?
《.......だから......逃げるのか?》
........何だと?
それは何か、俺を今まで見ていたかのような発言だった。
《力を得て、壁にぶつかり、砕けぬ壁だと判断したから.......逃げるのか?》
逃げてねぇ!!
《逃げている。現実に畏怖を感じている。世界に恐怖を持っている。》
そんなの!!......そんなの......
《だから死を受け入れようとしている。逃げようとしている。現実から。》
.........そんなの.......
俺は下を向く。そして同時に気づく。
俺は.......。馬鹿だな。
そう言い俺はその握っていた拳をさらに握る。
そして。それを俺の顔に殴りつける。
《!?.....汝!?何を!?》
イタタタ.....何って.......目を冷ますためだよ。
それを見ていないのに驚くそいつに俺は言う。
俺は目を冷ます力は持ってるんだ。周りがいてくれればだけどな?
それを聞き、そいつはため息をつく。
周りを巻き込んでまで自分のしたいことをする。
周りを巻き込むから.........
そこまで思いそいつは口を開く。
《汝は.........》
そう言う後ろ姿を俺は見上げる。
《進むのか、戻るのか?》
その言葉に俺は顔の表情を引き締める。
その返答に俺は即答で答えなければならない。
答えないといけない。
きっとそんなことが言えないと。
「あの世界で救った命にも申し訳ねぇよ。」
俺は口でそう言った。
漏れたのではなく。はっきりと。
それを聞きそいつは頷いたように顔を上下に振る。
《では、汝はどうするのだ?》
「常識をぶっ壊す。」
《........常識.......をか?》
「そんな縛りみたいな鎖なんていらないだろ?」
《縛りか?》
「現実から逃げかけたんだからそんぐらいはしないとな。それに異世界から戻りたいし。そしてみんなでワイワイしてぇし。」
周りを......か。
そいつはそれを思い出し考察する。
《..........成る程な。》
そんな答えに俺はただただそいつを見据える。
《...........汝は.........》
そう言いそいつは振り返って初めてその顔を見せる。
《.........汝は......》
俺はその先のセリフを知っている。
後輩から、兄から、妹から、じいちゃんから。そして檻のあいつからも、もしかしたらナビも思っていたりするのかもしれない。
だから俺はそれが二重に聞こえた。
『《馬鹿か?》』
それを聞き俺は、こんなやつからもそんなセリフを聞くのかと、初対面のその和服を着こなす者にそう思い口元を緩める。そして深呼吸する。そして呟く。
「いつも言われるよ。」
それを聞きそいつは不敵に笑い、フッと声を漏らす。
《良かろう!!汝の好きなようにするが良い。》
そう言いそいつは手を伸ばした。
俺はその手の意味がわからずそのままそれを見る。
そして何故か俺は右手を出してその手を拳で小突く。
すると、
《我、世界に至りし技術なり、全てを混沌へと誘い、全てを力で切り開く者なり、力で自由になりし者に力を貸す時あるにけり、察すれば、全てを其の者に。従って我は主人に降りし者になりかねん。》
そんな呪文のようなことをそいつは口走る。
やがて俺とそいつを中心に大きな真っ赤な輪が幾千も回転する。
《後、主人よ。我を共にする覚悟はあるか?》
その言葉を聞き俺は即答する。本当は聞きたいことが山ほどあった。
これは何か?
お前は誰か?
仲間になるのか?
だが俺は即答した。
何故かはわからない。だがそれでいいと思った。
わざわざ理由なんかなくても。
そう思い俺は言う。
「ある。」
《ならば、我を手にする名を今唱えよ。》
そう言い頭に響いたその名前を俺は口にする。
「《オルグ・スキル【自由乃力乃王】》」
と。




