S4-10 非常識な人物。
観測者
[お盆なので…。]
蝉の鳴き声。
線香の香り。
灯は、
静かに倒壊家屋へ手を合わせる。
その後ろで、
大地も手を合わせていた。
風が、
髪を撫でる。
湿気がまるで、
“おかえり”と体を包む。
背後から、
スマホの、
シャッター音が聞こえてきた。
灯は、
立ち上がり、
大地へ視線を向けた。
灯
「付き添って頂きありがとうございます」
「祖父母もきっと喜んでいると思います」
大地
「どういたしまして」
「家族が困ってるのを放っておけない主義でね」
なおパパ。
優しいな…世の中のお父さんってこんな感じなのかな?
おじいちゃん。
いつも笑顔で、いつも優しかった。
不意に、
南戸中将の姿を思い出す。
カッコ良かったなぁ…。
倒壊した、
自宅へ視線を戻した。
一歩足を踏み入れる。
大地
「待って」
歩み寄ってきた。
大地
「軍手とヘルメット忘れずに」
軍手を、
手渡された。
灯
「すみません」
ヘルメットも装着した。
大地
「大切な娘さんを傷つけるわけにはいかない」
「…気をつけないと」
「危ない場所は俺がやる」
「大丈夫。心配しないで」
小さく、
微笑む、
なおパパ。
灯は、
微笑み返し頷いた。
灯
「はい!」
2人は、
瓦礫の中を入って行った。
灯
「あの…位牌を探したいです」
「…父と母とおじいちゃんのを……」
「あと、ユキちゃんも」
大地
「ユキちゃん?」
灯
「はい…」
「飼ってた猫ちゃんです」
「逃げ遅れて…」
寂しそうに俯いた。
肩を、
ぽんっと叩かれた。
顔を、
覗き込まれた。
大地
「生きてるかもしれないだろ!」
「落ち込んでる暇があったら、名前を呼び続けろ!」
はっとさせられた。
灯
「はい!」
大きく、
息を吸った。
灯
「ユキ〜!!」
倒壊した家へ叫ぶ。
大地
「ユキちゃ〜ん」
呼びながら、
瓦礫をどかして行く。
隙間を覗き込む。
大地
「メス?」
灯
「はい。女の子です」
大地は、
2階の、
割れた窓へ踏み入れた。
大地
「ここは誰の部屋?」
灯
「私の部屋です」
大地
「危ないからそこで待ってて」
「持ち出せそうなの出すから受け取って」
灯
「分かりました」
大地は、
半壊仕掛けた部屋の中を捜索する。
大地
「ユキちゃーん」
ノートパソコン、
衣類、写真など視界入る。
Ratio
【真彩を連れてっくればよかったですね。】
大地
「真彩を怪我させたくない」
Ratio
【失礼しました。】
「あら!」
「藤田さんの娘さんじゃない!」
「どこに居たの?」
「ずっと探していたのよ」
灯の背後から、
活気のある女性の声が聞こえてきた。
ゆっくり、
その声へ振り向く。
そこには、
年配のおばあさんが立っていた。
灯は、
驚いた。
女性の腕に抱えられた、黒猫。
黒猫は、
ジタバタと暴れ出した。
灯
「ユキ!!」
愛猫
「にゃ〜ぁ〜」
地面に飛び降り、
灯目掛けて跳びついた。
灯
「ユキ…ユキ…良かった」
優しく抱き、
毛並みに沿って背を撫でた。
クルルゥ…、
と喉を鳴らし擦り寄ってくる。
大地
「灯さん。これ受け取って……」
割れた窓の、
隙間から顔を出した。
おばあさんと、視線が重なる。
取り敢えず、
会釈だけした。
おばあさん
「灯ちゃん。あの方は…ボランティアの方?」
灯
「違います」
おばあさん
「そう。じゃあ誰?」
灯
「………」
おばあさん
「あら、もしかして、お付き合いしてる方?」
「その人の、お宅に居候していたのかしら?」
「ユキちゃん可哀想に…」
灯
「やめてください」
おばあさん
「待って!あの人、自衛隊の人?」
「まぁ、若いわねー。あなた、手が早いこと」
「パパ活でもしたのかしら」
「まともに仕事していないものね〜」
灯
「森さん…いい加減にしてください!!」
森 とみこ
「何よ!本当のこと言っただけじゃない」
「どうせ住む場所ないじゃないの」
「男に媚び売って上がり込んで……」
大地
「黙っていただけますか!」
大地は、
灯へ歩み寄ってきた。
森 とみこ
「……」
「ん!!」
灯へ、
手を差し出した。
灯
「……」
「何も持っていません」
森 とみこ
「保護と餌代」
「感謝しないわけ?」
灯
「私は頼んだ覚えはありません」
「でも…ありがとうございます」
森 とみこ
「いい男ね」
大地を、
舐めるように見る。
森 とみこ
「ねえ〜。私の家の片付け手伝って貰えないかしら〜ん」
大地
「お断りします」
即答。
灯の肩に、
手を添え優しく寄せた。
大地
「作業戻るぞ」
肩を、
ポンポンと叩いた。
灯
「あっ。はい!」
黒猫を抱えつつ、
“森 とみこ”から背を向けた。
大地
「タンスは無事だった。持ち帰れるんじゃないか?」
灯
「ありがとうございます!」
「机にバッグがあるはずです。それに入れます」
大地
「わかった。探してみる」
2階の窓から、
中へ入って行った。
なおパパって、
ベテランの自衛隊なんだ…。
端末が振動した。
ポケットから取り出す。
Connect
【自衛隊ではありません。TSIです。】
灯
「…じゃあ、軍人さんって言えばいい?」
少しだけ、
呆れながら呟いた。
Connect
【…お好きにどうぞ。】
そっと、
端末をポケットへ仕舞った。
大地
「灯さん。受け取って」
灯
「はい!」
足元に、
気をつけながら、近づいた。
バッグに、
詰められた衣類を渡される。
大地
「種類分けは後で、今は受け取るに集中して」
灯
「わかりました」
黙々と、
2人は作業をした。
その後ろ姿を見つめる、森 とみこ。
大地
「しつこいな」
小声で呟いた。
灯
「ああいう人なんです」
大地
「俺が居る、心配するな」
「それとも、直樹がよかったか?」
灯へ視線を合わせる。
冗談交じりに笑った。
灯
「そ…そんなことないです」
暑さでの赤みなのか、
わからないほど、顔が真っ赤だった。
灯
「とても、助かります。ありがとうございます」
大地
「…灯さん大丈夫?」
「熱中症が心配だ」
「それに、ユキちゃん抱えたままだと危険だ」
「一度基地に戻ろう」
大地は、
窓から出てきた。
灯
「すみません…」
大地
「……ちょっと待ってろ」
「Ratio、Naparnikに通信」
Ratio
【了解。呼び出します。】
大地
「純なら飛んでくるだろうな」
灯は少し、
クスッと笑った。
魔法でワープしてくる。
確かに飛んでくる。
想像、
してしまった。
数分もせずに、
目の前に現れた。
………。
え。
何で…なおママ?
ラファルサに、
抱き抱えられた、
なおママは不快そうな表情。
灯の顔を、
見た途端笑顔になった。
ラファルサ
「どうした」
大地
「どうしたって…」
「なぜ…真彩を連れてきた」
Dovira
【大佐、呼ばれて嬉しそうだよ。】
Naparnik
【錯覚か?尻尾ブンブン振ってる様に見える。】
ラファルサ
「…んん?」
首を傾げた。
大地は、
額に手を当てて、ため息ついた。
大地
「荷物を持ってくれないか」
真彩
「任せなさい!」
大地
「……」
「純、真彩のことではなくこの荷物だいいな?」
ラファルサ
「わかっている」
Naparnik
【…相棒。わかってないだろ。】
ラファルサは、
真彩から離れない。
大地
「どれだけ寂しがり屋なんだ」
Ratio
【リミッターが外れた様子が見えますね。】
大地
「我慢していたと…」
灯
「あ。この写真…」
「ありがとうございます!」
「たった1枚の両親の生前の写真なんです!!」
写真立てを見つめる。
一粒の涙が落ちた。
灯
「お母さん…お父さん…」
「おじいちゃん…おばあちゃん…」
「勇輝…」
ユキを、
抱き直した。
3人は黙り込む。
大地
「一旦帰ろう」
「純」
ラファルサへ、
アイコンタクトした。
頷く。
3人は、
荷物を担いだ。
真彩
「灯ちゃん、行きましょ」
手を、
灯の肩へ添えた。
4人は、
静かに音もなく線香の香りだけを残し消えた。
それを見ていた、
“森 とみこ”は腰を抜かしていた。
森 とみこ
「ば…バケモノ!」
一目散に、
逃げて行った。
Next time
――部外者。
観測者
[こういう人居ますよね。]
[S4-01で出てきた『森 とみこ』です。]




