第70話:【少年漫画世界の買収】『友情・努力・勝利』は非効率の極みです。熱血主人公たちを『社内営業コンペ(ノルマバトル)』に強制参加させました
「はぁぁぁぁぁッ!! 喰らええええ! これが、俺と仲間たちの……『絆の力』だあああぁぁぁッ!!」
養殖宇宙・第10ブロック。
「天下一」と銘打たれた巨大な武闘会のリング上で、ボロボロになった熱血主人公の少年が、ライバルに向けて渾身の必殺技を放とうとしていた。
観客席からは仲間たちの熱い声援が飛び交い、少年の拳には『友情』という名の目に見えないオーラ(謎のエネルギー)が極限まで収束していく。まさに少年漫画の王道、最大最強のクライマックス――。
「そこまでだ。……技を放つ前に『技名』を叫ぶな。その3秒のロス(無駄)の間に、我が社の競合他社は契約を3件まとめているぞ」
ドスゥゥゥン!!
リングの中央に、黒いリクルートスーツを着こなした新人社畜(レベル9999勇者)アークが、音もなく着地した。
彼は聖剣ではなく『業務効率化の推進に関する通達書』を掲げ、主人公の拳を片手で軽々と受け止めた。
「な、なんだお前は!? 俺たちの神聖な闘いに水を差すな! 俺は仲間の想いを背負って――」
「仲間? ああ、その『非正規の組合』みたいな馴れ合いのことかしら」
アークの背後からゼータが現れ、魔剣を軽く一閃した。
主人公の拳に宿っていた『仲間の想い(という名の不安定な出力ブースト)』が、分子レベルで美しくスライスされ、あっという間に霧散してしまう。
「ひぃぃ!? 汗! 血! そして無駄に舞い上がる砂埃! なんだこの極めて不衛生な職場環境は!!」
さらに元・神(清掃員)が激怒しながら乱入。高圧聖水スチームモップで、熱血バトル特有の泥臭いリングを猛烈な勢いで洗浄していく。
激闘の痕跡やドラマチックな血痕は一瞬で漂白され、武闘会のリングはチリ一つない『テラリウム第10会議室(ホワイトボード完備)』へとリフォームされてしまった。
「……なるほど。これが『熱血バトル』ですか。有り余るエネルギー(若さ)は素晴らしいですが、そのベクトルが『ただの喧嘩』に向かっているのは、リソースの重大な損失ですね」
私は、ピカピカに磨き上げられた会議室のデスクの上へ、プルプルと這い出した。
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【第10ブロック:少年漫画世界・企業戦士化プロセス】
1. 『友情・努力・勝利』の概念アップデート(担当:アルド):
少年たちの行動理念を強制的に書き換え。「友情」は『人脈』へ、「努力」は『サービス残業』へ、「勝利」は『市場の独占』へとビジネス用語にコンバートする。
2. 修行パートのeラーニング化(担当:バレル):
「山ごもり」や「精神と時の部屋」といった時間のかかる修行を全廃。
バレルが重力魔法で時間を圧縮し、10年分の修行を『テラリウム・コンプライアンス研修(全3000時間)』として、脳内に直接ダウンロード(強制視聴)させる。
3. 武闘会のコンペ化(担当:AIオメガ):
相手を殴り倒すのではなく、どちらがより多くのDP(売上)をテラリウムにもたらすかという『プレゼン&営業成績バトル』へルールを変更する。
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「やあ、熱血の少年たち! 素晴らしい闘気とガッツだ!」
完璧なビジネススマイルのアルドが、完全に無菌室と化したリング(会議室)で呆然とする主人公とライバルに、真っ黒なリクルートスーツと名刺入れを手渡した。
「君たちは今まで、ただの『名誉』や『大会のトロフィー』のために血を流していた。だが、そんなものは貸借対照表には1DPも計上されない! 今日から君たちの闘技場は『マルチバース市場』だ!」
「し、市場!? 俺は世界一の格闘家に……!」
「格闘家などという生産性の低い夢は捨てたまえ!」
アルドはホワイトボードに、右肩上がりの狂った売上グラフを描き殴った。
「君たちのその『何度倒れても立ち上がるド根性』! それは、度重なる取引先のクレームや、上司からの理不尽なノルマに耐えうる『最強の社畜適性』だ! さあ、己の拳ではなく、このPowerPointの企画書で競合他社を打ちのめせ!!」
「ふざけるな! 俺の拳は、大切なものを守るために――」
主人公が再び立ち上がろうとした瞬間、アークが聖剣の柄をカチャリと鳴らし、レベル9999の『凄まじい圧迫面接のオーラ』を放った。
「……言い訳は聞かない。今月の営業ノルマ(10億DP)を達成できなければ、貴様の大切な仲間たちは全員、第4ブロックのスクラップ処理場へ『出向』だ」
冷徹な社畜の瞳に見下ろされ、主人公の野生の勘が「こいつらには物理攻撃など一切通じない(資本主義の理不尽)」という絶対的な絶望を悟った。
「……う、うおおおおおッ! 俺の……俺の企画書で、テラリウムのトップを取ってやるあああ!!」
主人公は涙を流しながらスーツを素早く着込み、ライバルと共に猛烈な勢いでキーボードを叩き始めた。
闘気はすべて『タイピング速度』へと変換され、彼らはテラリウムの営業部員として、徹夜で全次元の顧客にテレアポ(魔法通信)をかけ続ける狂気の営業バトルを開始したのである。
チャリン! チャリン! チャリン!
チャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリン!!!!!!!!!!!!
彼らが持ち前の「絶対に諦めない心」で契約を勝ち取るたびに、莫大なDPが我が社の口座へと雪崩れ込んでくる。
「友情・努力・勝利」という熱いエネルギーは、一滴残らず「社内競争・残業・利益」という究極のブラック労働システムへと完全に組み込まれた。
「……ふふっ、素晴らしいですね。若者の情熱ほど、安く買い叩けて高く売れるリソースはありません。彼らなら、過労で倒れる直前で『覚醒(限界突破)』して、さらに働いてくれるでしょう」
私は、会議室の特等席に設置されたプールの中で、プルプルと至高の悦びに浸った。
「船長! 営業部の売上が、熱血バトル効果で前日比5000%増です! 次のターゲットですが……AIオメガの解析によると、養殖宇宙・第11ブロックの【巨大ロボット(SFメカ)世界】です! 彼らの乗っているあの巨大兵器、無駄に合体プロセスに時間をかけて燃料を浪費しています!」
アルドが、メカニカルな設計図が描かれた事業計画書を掲げて報告する。
「おや、巨大ロボットですか。男のロマンかもしれませんが、無駄な変形機構はメンテナンス費用の増大を招くだけです。……さあ皆様、次はあの非効率なロボットどもを差し押さえて、我が社の『多次元重機(社用車)』として徹底的にコストカットしに行きましょうか!」
元・神のスライム率いるテラリウム・ホールディングス。
少年たちの熱き血潮すらも営業ノルマの燃料に変えたその漆黒の経営戦略は、次なる標的である「巨大ロボットのロマン」すらも、血も涙もない重機リース事業へと解体すべく、次元の扉をぶち破るのであった。




