第69話:【スローライフ世界の買収】『のんびり農家』は資産の遊休(機会損失)です。癒やしの村を『24時間稼働・完全自動化スマート農場』にリフォームしました
「はぁ……。今日もいい天気だ。自分で育てた無農薬のトマトと、エルフの淹れてくれたハーブティー。……スローライフ、最高だな」
養殖宇宙・第9ブロック。
緑豊かな森に囲まれた辺境の村で、チート能力を隠して隠居生活を送る主人公が、縁側でほっこりと茶を啜っていた。
時間という概念すらゆっくり流れているような、究極の癒やし空間。闘いもノルマもない、理想の田舎暮らし――。
「そこまでだ。……貴殿の農地の『面積当たりの収益率(坪単価)』は0.0001%。これはテラリウム農業法第12条『資産の甚大な遊休および機会損失』に該当する!」
バキィィィン!!
主人公が丹精込めて作った木製の柵が、理不尽な物理攻撃で粉砕された。
黒いリクルートスーツに身を包み、手にはクワ……ではなく『農地法違反の是正勧告書』を握りしめた新人社畜(レベル9999勇者)アークが、血走った目で踏み込んできたのだ。
「な、なんだお前は!? せっかくのんびり育てている俺のトマト畑に――」
「のんびり育てる? 成長するまで何ヶ月も待つなんて、タイムパフォーマンスの概念がないのね」
アークの背後からゼータが現れ、魔剣を軽く一閃した。
すると、畑を覆っていた『四季の移ろい』や『植物の自然な成長速度』という概念が分子レベルで斬り落とされ、時間がバグったように早回しになる。
「ひぃぃ!? 泥! 虫! 雑草! なんだこの不衛生な生産ラインは! 土のバクテリアなど許さん!!」
さらに元・神(清掃員)が激怒しながら乱入し、高圧聖水スチームモップ・アグリカルチャーモードを起動。
猛烈な勢いで畑を滅菌・洗浄していくと、豊かな土壌は一瞬にして『チリ一つない真っ白な無菌の水耕栽培プラント』へとリフォームされてしまった。
「……なるほど。これが『スローライフ』ですか。ストレスフリーなのは結構ですが、生産ラインを太陽光と自然に依存するなんて、経営として甘すぎますね」
私は、ピカピカのステンレス製プランターの上へ、プルプルと這い出した。
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【第9ブロック:スローライフ世界・アグリビジネス化プロセス】
1. 成長速度の強制ハッキング(担当:バレル):
バレルが農場の重力と時間の流れを局所的に圧縮。
「種を蒔いてから収穫まで半年」という常識を破壊し、「種子投下から3秒で収穫(即出荷)」という超速・完全養殖サイクルを構築する。
2. スマート農業の徹底(担当:AIオメガ):
気温、湿度、日照時間をAIが完全管理。
主人公が手作業でやっていた「水やり」や「雑草抜き」といった非効率なスローライフ要素を全廃。
3. 農家の工場労働者化(担当:アルド):
のんびり暮らしていた主人公や村人(エルフや獣人)たちを、テラリウム直営『第9オーガニック食品工場』のライン工として強制雇用する。
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「やあ、スローライフ愛好家の皆様! 素晴らしい自然の恵みだね!」
完璧なビジネススマイルのアルドが、完全に無菌室と化した農場(元・畑)で呆然とする主人公たちに、真っ白なテラリウム指定・防護服を手渡した。
「君たちは今まで、自分たちが食べる分だけをチマチマと育てていた。だが、今日からは違う! 全マルチバースで働く我が社の『社畜(派遣スタッフ)たち』の胃袋を満たすため、1日300万トンのトマトを出荷してもらう!」
「さ、300万トン!? そんなの、のんびり農業じゃない! 完全に24時間稼働の食品工場じゃないか!」
主人公が絶叫する。
「その通り! AIオメガの緻密な管理と、バレルの時間圧縮魔法により、この農場は『3秒でトマトが実る』無限の生産ラインとなった! さあ、休んでいる暇はないぞ。君たちのそのチートな体力は、ベルトコンベアの前で『不良品を仕分ける作業』にこそ輝く!」
「ふざけるな! 俺はスローライフを送るために転生したんだ! 誰がそんなブラック労働――」
主人公が魔法を放とうとした瞬間、アークが背後に立ち、首筋にピタリと『コンプライアンス順守同意書』を押し当てた。
「……反抗的な態度だな。このまま『無許可農地転用』で資産を全没収され、第4ブロック(サイバーパンク)のスクラップ処理場に左遷されるか、ここで手厚い歩合給(DP)をもらってトマトを収穫するか。……選べ」
レベル9999の社畜が放つ、残業で極限まで研ぎ澄まされた殺気に、主人公のチート能力すら完全に沈黙した。
「……し、収穫しますぅ……」
エルフも獣人も主人公も、全員が防護服に身を包み、涙を流しながら『テラリウム食品工場・期間工契約書』にサインを捺した。
そして、猛烈なスピードで流れてくるベルトコンベアの前に立ち、3秒に1回実るトマトを無表情で箱詰めし始めた。
チャリン! チャリン! チャリン!
チャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリン!!!!!!!!!!!!
彼らが箱詰めした「癒やしのトマト」は、第8ブロックで買収した『転生トラック(テラリウム急便)』によって、全次元のダンジョンやブラック職場へと即日配送されていく。
スローライフという名の生産性の低い時間は消滅し、完全なる『食のサプライチェーン』が確立された。
「……ふふっ、素晴らしいですね。これで我が社の社員たちの福利厚生(栄養補給)もバッチリです。彼らには、健康的に、倒れることなく限界まで働いてもらわねばなりませんからね」
私は、工場の最上階に作られたコントロールルームのプールの中で、もぎたてのトマト(秒速栽培)を味わいながらプルプルと笑った。
「船長! 食糧問題、完全に解決しました! 次のターゲットですが……AIオメガの解析によると、養殖宇宙・第10ブロックの【熱血バトル(少年漫画)世界】です! 彼らの『友情・努力・勝利』という熱いエネルギーを、我が社の『社内競争(ノルマ達成)』のモチベーションに変換しましょう!」
アルドが、闘気でメラメラと燃え上がる事業計画書を掲げて報告する。
「おや、少年漫画ですか。強敵と戦って成長するシステムは素晴らしいですが、『友情』や『努力』は、少し方向性を間違えればただの非効率です。……さあ皆様、次はあの熱血馬鹿どもに『ネットワーキング・残業・独占市場』という真の勝利条件を叩き込みに行きましょうか!」
元・神のスライム率いるテラリウム・ホールディングス。
癒やしのスローライフすらも24時間稼働の工場に変えたその無慈悲な経営手腕は、次なる標的である「少年たちの熱きバトル」すらも、血も涙もない出世競争(社内政治)へと染め上げるべく、次元の扉を蹴り破るのであった。




