第68話:【転生トラックの買収】無許可の『異世界転移』は運送業の違法行為(白タク)です。暴走トラックを我が社の『多次元物流ネットワーク』の社畜ドライバーに再雇用しました
「オラオラァ! そこをどきなァ! 今日も冴えない高校生を撥ね飛ばして、剣と魔法のファンタジー世界へ『勇者』として出荷してやるぜェ!!」
養殖宇宙・第8ブロック。
ごくありふれた現代日本の交差点で、猛スピードで突っ込んでくる一台の大型トラックがあった。
運転席では、血走った目をした運転手(転生トラックの神)が、横断歩道を歩く少年をターゲットに定め、アクセルをベタ踏みしている。
いざ、異世界転生への扉(物理的衝突)が開かれようとした、その瞬間――。
「そこまでだ。……貴殿らの『無許可での多次元空間跳躍』ならびに『人間の無差別投棄』は、テラリウム運送事業法の第4条違反に該当する!」
ドゴォォォォォン!!!
けたたましい衝突音。しかし、吹き飛んだのは少年ではなく、トラックのフロント部分だった。
真っ黒なリクルートスーツに身を包んだ新人社畜(レベル9999勇者)アークが、片手で大型トラックを受け止め、もう片方の手でフロントガラスに『違法操業による差し押さえ令状』をピシャリと貼り付けたのだ。
「な、なんだテメェは!? 俺のトラックを素手で……!? ていうか、異世界転生を『無差別投棄』って言うな!」
運転手がエアバッグの中から悲鳴を上げる。
「おっと、その雑な『空間の歪み』、周囲のトラフィックの邪魔よ」
アークの背後から現れたゼータが、トラックの周囲に発生していた『異世界へ繋がるゲート(次元の歪み)』を魔剣で分子レベルにスライス。あっという間に空間を美しく縫い合わせ、転生フラグを物理的に消滅させた。
「ああもう! 排気ガスとタイヤの焦げた匂いで空気が最悪だ! こんな不衛生な交差点でCEOに呼吸させる気か!」
さらに元・神(清掃員)が激怒しながら乱入。高圧聖水スチームモップで、アスファルトのタイヤ痕から大気中の排気ガスまで猛烈な勢いで洗浄・消臭。
数秒後には、交差点は爽やかな柑橘系の香りが漂う『テラリウム急便・第8物流センター(白線引き立て)』へと美しくリフォームされてしまった。
「……なるほど。これが『転生トラック』ですか。物理的な衝撃をトリガーにして次元を跳躍する技術は素晴らしいですが、荷物(転生者)に『追跡番号』も『送料』も設定していないなんて、物流業として終わっていますね」
私は、ピカピカに磨かれたボンネットの上へプルプルと這い出した。
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【第8ブロック:転生トラック・多次元物流インフラ化プロセス】
1. 空間跳躍エンジンの接収と最適化(担当:バレル):
バレルがトラックのエンジンを重力魔法でハッキング。
「ランダムな異世界」へ飛ぶ非効率な仕様を書き換え、我が社の各ダンジョン、ホストクラブ、お化け屋敷を正確に繋ぐ『テラリウム専用・多次元ワープゲート』として最適化する。
2. 配送ルートのAI管理(担当:AIオメガ):
「誰をどこへ転生させるか」という運転手の個人的な裁量を完全剥奪。
AIオメガが算出した「今、どの次元にどんな人材(奴隷)が不足しているか」という需給データに基づき、全自動で配送先を決定するアルゴリズムを導入。
3. 『テラリウム急便』への再雇用(担当:アルド):
運転手たちに対し、「無料で人を転生させるのはボランティア(悪)だ。これからは運んだ荷物の分だけDP(歩合給)を払う」とプレゼンし、多次元物流の専属ドライバーとして強制雇用する。
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「やあ、転送業者の皆様! 素晴らしい馬力と空間突破力だ!」
完璧なビジネススマイルのアルドが、完全に包囲されて震え上がるトラック運転手たち(数十名)に、お揃いの『テラリウム急便』の制服と端末を配り始めた。
「君たちは今まで、無料で若者をファンタジー世界へ送っていた。だが、これからは違う! 第6ブロックで生成された『脱出ゲームの罠パーツ』を第1ブロックへ! 第2ブロックの『魔法少女のグッズ』を全マルチバースの顧客へ届けるんだ! 君たちのトラックは、我が社の経済圏を繋ぐ『大動脈』になる!」
「だ、大動脈……? 俺たちは、選ばれし者を異世界へ導く神聖な役割だったはずじゃ……」
運転手の一人が、渡されたハンディターミナルを握りしめて咽び泣く。
「神聖な役割だと? 笑わせるな」
アークが、バキバキにキマった目で聖剣の柄を叩きながら詰め寄った。
「追跡番号すら発行せず、アフターサポート(転生後の生活保障)も丸投げする業者が何を言う。今日から貴様らは、時間指定配達に1秒でも遅れたら『ペナルティ(減給)』のプロドライバーだ。……この不在票を握りしめて、全次元を走り続けろ!」
圧倒的なコンプライアンス(という名の暴力)と、AIオメガから次々と端末に送られてくる「過密すぎる配送スケジュール」を前に、運転手たちは完全に心を折られた。
彼らは震える手で『テラリウム急便・業務委託契約書』にサインを捺し、荷台に山のように積まれたダンジョン資材を運ぶため、次々と多次元ゲートへトラックを走らせていった。
チャリン! チャリン! チャリン!
チャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリン!!!!!!!!!!!!
その日から、異世界転生トラックは「無作為な転生」をやめた。
代わりに、テラリウム・ホールディングスが全マルチバースで展開する事業の物資を、24時間365日、時間指定(最短翌日・次元またぎ配送無料)で完璧に運び続ける『最強の物流ネットワーク』が完成したのである。
「……ふふっ、素晴らしいですね。物流を制する者は市場を制す。これにて我が社のサプライチェーンは完全に掌握(ブラック化)されました」
私は、交差点に急造された物流センターの特製プール(荷室の冷却装置直結)の中で、至高の悦びに浸った。
「船長! 多次元物流網の稼働により、各ブロックの利益率がさらに300%跳ね上がりました! 配送ドライバーたちもエナジードリンク(DP製)を飲みながら徹夜で次元を爆走しています!」
アルドが、真っ赤に染まった(利益的な意味で)売上グラフを掲げて報告する。
「おや、それは結構。やはりインフラの整備は経営の基本ですね。……さて、AIオメガ。次のターゲットは?」
『承認。養殖宇宙・第9ブロック……【スローライフ(農業)世界】です。現状、彼らは「のんびりと畑を耕し、近隣住民とスローな日常を送る」という、生産性の極めて低い時間泥棒を行っています』
「なるほど。スローライフですか。資本主義の対極にある、最も『怠惰』な世界ですね」
私はプルプルと邪悪に震え、目を細めた。
「さあ皆様、休んでいる暇はありません。次はあののんびりした農民どもに『徹底的なKPI(重要業績評価指標)』と『24時間体制のスマート農業』を導入し、我が社の『オーガニック食材(完全養殖)工場』として地上げしに行きましょうか!」
元・神のスライム率いるテラリウム・ホールディングス。
異世界転生という次元の奇跡すらも「宅配便のルート」へと組み込んだその狂気は、次なる標的である「癒やしのスローライフ」すらも、血も涙もない徹底的なアグリビジネス(農業搾取)へと染め上げるべく、容赦なく歩みを進めるのであった。




