第67話:【ホラー世界の買収】『呪いのビデオ』は視聴率(リーチ)が悪すぎます。怨霊たちを『年中無休の絶叫キャスト』としてシフト表に組み込みました
「……キキキ……呪ってやる……。このビデオを見た者は、七日後に必ず……」
養殖宇宙・第7ブロック。
月明かりすら届かない薄暗い廃病院の一室で、テレビの砂嵐の中から、長い黒髪に白いワンピース姿の怨霊が、這うようにして姿を現した。
彼女の放つ底知れぬ冷気と怨念が、部屋の温度を急激に下げていく。まさにジャパニーズ・ホラーの真骨頂、ターゲットを恐怖のどん底に突き落とす――はずだった。
「おい、遅いぞ。テレビから這い出すのに10秒もかけている。タイムパフォーマンス(タイパ)が悪すぎるだろうが!」
バンッ! と病室のドアが蹴り破られ、完璧な黒のリクルートスーツを着こなした新人社畜(レベル9999勇者)アークが、ストップウォッチ片手に怒鳴り込んできた。
「えっ……?」
怨霊は、貞操観念ならぬ『ホラーの文法』を完全に無視された展開に、思わずテレビの枠に手をかけたまま硬直した。
「それに『ビデオを見た者限定』だと? いまどきVHSなんて再生機を持っている人間がどれだけいると思っている! ターゲット(顧客)のリーチが狭すぎる。マーケティングを根本からやり直せ!」
アークは、聖剣の代わりに『業務改善命令書』を怨霊の顔面に突きつけた。
「な、なによあんたたち! 私は物理攻撃を無効化する悪霊よ! 呪い殺して――」
「物理が無効なら、概念ごと斬ればいいだけの話よね」
怨霊の背後へ瞬時に回り込んだゼータが、魔剣を軽く一閃した。
怨霊が抱えていた『現世への未練』や『個人的な恨み(呪いの根本)』という非効率な概念だけが、分子レベルで美しくスライスされ、パラパラと塵となって消滅する。
「ああっ!? 泥だらけの足で這い回るな! カビと埃で湿度が異常だ! こんな不衛生な環境で『呪い』など提供できるか!!」
さらに元・神(清掃員)が激怒しながら乱入。高圧聖水スチームモップで、ホラー特有のジメジメした空気や、おどろおどろしい血文字を猛烈な勢いで除菌・漂白していく。
数秒後には、廃病院は爽やかなアロマの香る『ピカピカの清潔なオフィス空間』へとリフォームされてしまった。
「……なるほど。これが『怨霊』ですか。物理法則を無視して現れる点は素晴らしいですが、人を呪い殺してしまっては『リピーター』が獲得できませんね。ビジネスモデルとして完全に破綻しています」
私は、真っ白に漂白されたテレビのブラウン管の上から、プルプルと這い出した。
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【第7ブロック:ホラー世界・絶叫アミューズメント化プロセス】
1. **呪いのサブスクリプション化(担当:アルド):
怨霊の「ターゲットを殺す」という仕様を廃止。
アルドが「死なないギリギリの恐怖(冷や汗)をコンスタントに与え続けることで、顧客から精神エネルギー(DP)を永続的に搾り取る『サブスク型・呪い』」をプレゼンし、怨霊たちを納得させる。
2. 怨霊専用CRM(顧客管理システム)の導入(担当:アーク):
アークが、ランダムなポルターガイストを固く禁じる。
ターゲットの心拍数やスマートウォッチのデータをリアルタイムで監視し、「最も恐怖度が高まるタイミング(KPI)」で効率よく脅かすための『脅かしマニュアル』を徹底的に叩き込む。
3. 年中無休のキャスト契約(担当:CEO):
「夜しか出ない」という怨霊の労働条件(甘え)を撤廃し、24時間シフト制のテラリウム直営・お化け屋敷の専属キャストとして強制雇用する。
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「やあ、怨霊の皆様! 素晴らしい冷気とホスピタリティだ!」
完璧なビジネススマイルのアルドが、完全に浄化されて正座させられている怨霊たち(貞子風、ゾンビ、ポルターガイスト現象など)に、分厚いマニュアルを配布した。
「君たちのその『恐怖を与える技術』は、夏のエンタメとして最高峰だ。だが、個人経営の呪いでは限界がある。今日から君たちは、全マルチバースに向けた『テラリウム・絶叫アミューズメント』のプレミアムキャストだ!」
「プレミアム……キャスト……? 私たち、呪う理由(未練)を斬られて、もう何をモチベーションにすればいいのか……」
怨霊の一人が戸惑うように呟く。
「モチベーション? 決まっているだろう。『顧客満足度(アンケート評価)』と『歩合給(DP)』だ!」
アルドは、ホログラムで売上グラフを展開した。
「ターゲットから回収した『冷や汗(冷却エネルギー)』は、我が社のサーバー冷却材として高値で買い取られる! 恐怖を与えれば与えるほど、君たちの口座には莫大な給与が振り込まれ、最新の呪いガジェット(プロジェクションマッピング等)を経費で買えるようになるんだ!」
「経費で……最新の呪い装備が……!」
怨霊たちの虚ろな目に、かつての『怨念』とは違う、ギラギラとした『資本主義の光』が宿り始めた。
「……そういうことです」
私はスライムの体でプルプルと跳ねた。
「無意味にテレビから這い出している暇はありませんよ。さあ、スマートウォッチの心拍数データを睨みながら、最も効率の良いタイミングで『最高の恐怖』を提供しなさい。……クレームが出たら、アーク君のレベル9999の『個別指導』が待っていますからね」
アークが、聖剣の柄をカチャリと鳴らして冷徹に微笑む。
怨霊たちは圧倒的なブラック企業の圧力と、歩合制という魅力的な報酬の前に完全に心を折られ、震える青白い手で『テラリウム・キャスト雇用契約書』にサインを捺した。
チャリン! チャリン! チャリン!
チャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリン!!!!!!!!!!!!
その日から、怨霊たちは「ターゲットを殺す」ことをやめた。
代わりに、全次元の冒険者たちを恐怖のどん底に陥れ、悲鳴と冷や汗(DP)を限界まで搾り取る『プロの絶叫エンターテイナー』として、24時間365日、完璧なシフトで働き始めたのである。
「……ふふっ、素晴らしいですね。これで第3ブロック(神話)で手に入れた電力に加え、サーバーの冷却コストも『怨霊の冷気』で完全にゼロになりました。我が社の利益率はもはや天文学的数値です」
私は、廃病院を改装して作られた『マルチバースお化け屋敷・管理センター』の特製プール(怨霊の冷気でキンキンに冷えている)の中で、至高の悦びに浸った。
「船長! 夏のホラーイベント、大盛況です! そしてAIオメガから次の地上げターゲットの報告ですが……養殖宇宙・第8ブロックの【異世界転生の世界】です! 転生希望者を無差別に撥ねているトラック運転手たちの『空間跳躍(転生)技術』を接収し、我が社の多次元物流ネットワークに組み込みましょう!」
アルドが、トラックのハンドルを持ったまま狂気の事業計画書を読み上げた。
「おや、あの理不尽に人を異世界へ送るトラックですか。確かに、あの『強制転移システム』は物流のコストダウンに革命を起こしそうですね。……さあ皆様、休んでいる暇はありません。次はあの暴走トラックどもを、我が社の『優良ドライバー(社畜)』として再雇用しに行きましょうか!」
元・神のスライム率いるテラリウム・ホールディングス。
死者の魂すらも笑顔(?)で働くキャストに変えたその狂気の経営手腕は、次なる標的である「異世界転生トラック」すらも、全自動搾取システムの物流網へと組み込むべく、次元のハイウェイを爆走するのであった。




