第65話:【乙女ゲーム世界の買収】『壁ドン』は事前の合意なきコンプライアンス違反です。イケメン攻略対象たちを『完全歩合制ホスト』として再雇用しました
「……ふっ、お前は本当に面白い女だ。もう、俺のそばから離さないぞ」
養殖宇宙・第5ブロック。
中世ヨーロッパ風のきらびやかな王立学園の裏庭で、金髪碧眼の第一王子が、ヒロインの少女を壁際に追い詰めていた。
いわゆる『壁ドン』である。二人の周囲には、どこからともなく幻影の薔薇が舞い散り、甘くロマンチックなBGM(謎の音源)が響き渡っている。
まさに、愛と運命のフラグが成立しようとした、その瞬間――。
「そこまでだ。事前の書面による同意なき物理的接近(壁ドン)は、テラリウム・コンプライアンス規約第14条『ハラスメント及び不適切業務行為』に抵触する!」
ロマンチックな空気を物理的に引き裂き、黒いリクルートスーツに身を包んだ新人社畜(レベル9999勇者)アークが、間に割って入った。
彼は第一王子の顔面に、愛の告白ではなく『是正勧告書』を勢いよく叩きつけた。
「な、なんだ貴様は!? 俺と彼女の神聖なロマンスの邪魔を――」
「おっと、動かないでね。この『運命の赤い糸』とやら、サーバのトラフィックを無駄に食うスパム・コードじゃないの」
王子の背後から現れたゼータが、ヒロインと王子を結んでいた『目に見えない愛のフラグ(概念)』を、魔剣で分子レベルにスライスして切断した。
「ああもう! なんだこの無駄に舞い散る薔薇のエフェクトは! 床に花びらが散らかって不衛生極まりないだろうが!!」
さらに元・神(清掃員)が激怒しながら乱入し、高圧聖水スチームモップで学園の裏庭を猛烈な勢いで洗浄していく。
王子が放っていた甘いオーラも、キラキラした恋の魔法も、すべて『ただの汚れ』として一瞬で滅菌・除湿されてしまった。
「……なるほど。これが『恋愛』という名の非合理的な感情エネルギーですか。確かに熱量は高いですが、いささか無料で垂れ流しすぎですね」
私は空間ゲートからプルプルと這い出し、王立学園の大理石の噴水の上に陣取った。
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【第5ブロック:乙女ゲーム世界・恋愛マネタイズプロセス】
1. 恋愛フラグの完全有料化(担当:ゼータ、バレル):
ゼータが「偶然の出会い」や「運命のすれ違い」といった恋愛イベントのフラグをすべて斬り落とし、自然発生をゼロにする。
バレルが重力演算により「胸のときめき」を数値化。今後、イケメンと会話するには『1文字につき100DP』の課金が必要なシステムへと世界の理を書き換える。
2. 攻略対象のホスト化(担当:アルド):
「愛の言葉を無料で振りまくのは、己のブランド価値を下げる行為だ!」とアルドが王子や騎士団長たち(イケメン)を説教。
彼らを『テラリウム直営ホストクラブ・Royal』の完全歩合制キャストとして強制雇用する。
3. 悪役令嬢のヘッドハンティング(担当:CEO):
ヒロインを虐めていたプライドの高い「悪役令嬢」の管理能力(取り巻きへの指示出しの的確さ)を評価し、ホストクラブの『フロアマネージャー』としてスカウトする。
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「やあ、第一王子殿下! 君のその甘いマスクと囁き、タダで消費するのは資本主義への冒涜だよ!」
完璧なスーツ姿のアルドが、呆然とする王子に『ナンバーワン・ホストへの道』という業務マニュアルを手渡した。
「今日から君たちは、我がテラリウムの『プレミアム接客スタッフ』だ! ヒロインからの好感度(愛)は、すべて『シャンパンタワー(DPの結晶)』の売上で証明してもらう! さあ、売上ノルマを達成できなければ、アーク君のレベル9999の『個別指導(物理)』が待っているぞ!」
「な、なんだと!? 愛はお金で買えるものじゃないはずだ!」
ヒロインの少女が叫ぶが、そこへ扇子で口元を隠した高飛車な美女――この世界の悪役令嬢、イザベラが進み出てきた。
彼女はすでに、テラリウム指定のタイトな黒スーツ(管理職用)に身を包んでいる。
「ふふっ、甘いわねヒロインちゃん。愛が無料だなんて、無産階級の幻想よ」
イザベラは、かつての婚約者である第一王子に冷たい視線を向けた。
「さあ王子。私はこの店のフロアマネージャーとして、貴方の接客態度を厳しく査定(ルビ:しご)かせてもらうわ。私に『ドンペリ(10万DP)』を入れさせるくらいの営業トークを見せてみなさいな」
「イ、イザベラ!? お前まで、この狂ったスライムの企業に寝返ったのか……!」
「寝返った? 冗談。私は『実力主義』の美学に惹かれただけよ。血筋だけの男より、月の売上トップの男の方が美しいもの」
圧倒的な資本の論理と、バキバキにキマった新人アークの聖剣の威圧を前に、第一王子をはじめとする攻略対象たちは、完全に心を折られた。
彼らは震える手で『ホストクラブ専属契約書』にサインを捺し、夜の街(テラリウム特設歓楽街)へと連行されていった。
チャリン! チャリン! チャリン!
チャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリチャリン!!!!!!!!!!!!
その夜から、乙女ゲーム世界は一変した。
ヒロインたちは「推し(攻略対象)」と会話するために、ダンジョンで泥水にまみれながらモンスターを狩ってDPを稼ぐ『廃課金冒険者』へとクラスチェンジ。
王子たちは売上ノルマのために、徹夜で愛の営業メール(魔法通信)を送信し続ける社畜ホストと化した。
「……ふふっ、素晴らしいですね。愛と欲望は表裏一体。感情のすべてを可視化(数値化)して回収する、これぞ究極のロマンス(集金)です」
私は、ホストクラブの最上階VIPルームに設置されたゴールデン・プールの中で、高級シャンパン(ヒロインの課金で生成されたもの)を味わいながらプルプルと笑った。
「船長! 乙女ゲーム世界の感情リソース、底なしです! ヒロインたちが推しのために自己破産スレスレまでDPを貢いでいます! 悪役令嬢のマネジメント能力も高すぎて、利益率が前月比800%を突破しました!」
アルドが、札束の雨の中で最高のビジネススマイルを浮かべている。
「おや、それは結構。やはり適材適所ですね」
私は満足げに頷き、AIオメガが弾き出した次のターゲット市場を見据えた。
「さあ皆様! 愛の市場も制覇しました。次は養殖宇宙・第6ブロックの【本格ミステリー(推理)世界】です! あそこの探偵たち、タダで事件を解決して警察の手柄にしているそうじゃないですか。……その『知能と謎解き』、我が社の『有料脱出ゲーム・コンテンツ』として地上げしに行きましょうか!」
元・神のスライム率いるテラリウム・ホールディングス。
乙女の純情すらも札束でひっぱたくその漆黒の経営戦略は、次なる「謎と論理の世界」すらも狂気のエンターテインメントへと変貌させるべく、休むことなく歩みを進めるのであった。




