第60話:【新入社員(勇者)の最終面接】養殖宇宙のレベル9999勇者が本社に殴り込んできましたが、待っていたのは『圧迫面接』でした
「ハァ……ッ、ハァ……ッ! 遂に、遂に辿り着いたぞ! 幾千の理不尽な課金トラップを抜け、法外な手数料をむしり取る神殿を越え……俺はついに、この狂った宇宙を創り出した黒幕の元へ……!」
我がテラリウム・ホールディングスがゼロから創り出した完全新規事業『養殖宇宙』。 その第3惑星から旅立ち、全108の銀河系ダンジョンを踏破した最強の勇者アークが、ついにマルチバース本社の最上階・社長室の重厚な扉を蹴り破った。
彼のレベルは9999。身に纏うのは、ガチャ排出率0.0001%の『極・神聖竜の鎧』。 まさに、我が社が提供したエンターテインメント(搾取システム)をしゃぶり尽くし、莫大な利益(DP)をもたらしてくれた「究極の優良顧客」である。
「……よくぞ辿り着きましたね、勇者アーク」
私がスライムの体で、大理石の巨大なデスクの上からプルプルと声をかけると、勇者は聖剣を構えて鋭く睨みつけてきた。
「スライム……!? 貴様が、俺たちの世界を『ただの利益回収装置』として創り出した邪神か! 貴様のせいで、俺の故郷の村人は『呼吸するたびに酸素税(DP)』を引かれて苦しんでいるんだぞ!」
「人聞きの悪い。我が社は『命のサブスクリプション』という新しいビジネスモデルを提供しているだけですよ。……さあ、役員の皆様。彼が誕生した第一号のお客様です」
私が合図をすると、社長室の奥から、完璧なスーツを着こなした我が社の狂人たちが姿を現した。
【新入社員(勇者)採用面接・最終フロー】
1. 実技試験(担当:ゼータ):
* 勇者が放つ渾身の『アルティメット・ホーリー・スラッシュ(一撃10万DP消費)』を、ゼータが「モーションが長くて非効率ね!」と魔剣で分子レベルにスライス。
* 攻撃の無駄を指摘し、タイムパフォマンス(タイパ)の重要性を叩き込む。
2. 履歴書の精査(担当:アルド、AIオメガ):
* アルドが勇者の「冒険の書」をモニターに映し出す。
* 『魔王城での滞在時間が平均より15%長い』『ポーションの無駄遣いが多い』など、コスト意識の低さをAIオメガと共に徹底的に論破する。
3. 身だしなみチェック(担当:元・神):
* 激戦を潜り抜けて血と泥にまみれた勇者を、元・神(清掃員)が「面接にその汚い鎧で来るバカがいるか!」と激怒し、高圧聖水スチームで物理的に丸洗い。強制的にリクルートスーツ(DP製)に着替えさせる。
「な、なんだお前たちは!? 俺の最強の剣撃が、ただの『非効率』の一言で片付けられただと……!?」
全身をピカピカに洗浄され、パリッとしたスーツ姿にされた勇者アークは、面接官の放つ圧倒的な「ブラック企業のオーラ」に圧倒され、思わずパイプ椅子に座らされていた。
「勇者アーク君」
アルドが、分厚いバインダー(勇者の課金履歴)をめくりながら、氷のようなビジネススマイルを浮かべた。
「君のこの『魔王討伐実績』だけどね。……第4銀河のボスを倒すのに、わざわざ寄り道をして『伝説の盾』を取りに行っているよね? これ、我が社のAIオメガのシミュレーションによると、盾を取らずに回避特化で進んだ方が、攻略の工数(時間)を30%削減できたはずなんだ。……なぜ、あんな無駄な工数をかけたのかな?」
「む、無駄だと!? あの盾がなければ、俺の仲間は――」
『言い訳は不要です。コスト意識の欠如と判断します』 部屋のスピーカーから、AIオメガの冷徹な声が響く。
「ま、待て! そもそも俺はお前たちを倒しに来たんだ! なのになぜ、俺は椅子に座らされて『圧迫面接』を受けているんだ!?」
アークは混乱の極みに達し、再び聖剣(ガチャ産)を抜こうとした。 しかし、その手がピタリと止まる。剣が、床に固定されたように微動だにしないのだ。
『……おっと。その剣のエネルギー源である魔力は、私が管理する「重力サーバー」から有償で提供しているものだぞ』 部屋の隅で、空中に展開したキーボードを超高速で叩きながらバレルが鼻で笑う。 『利用規約(EULA)第452条。【当社および当社役員に対する、当社提供リソースを用いた敵対行為の禁止】。……お前が振り回しているその伝説の力はすべて、我が社の「リース品」に過ぎないんだよ』
「リ、リース品……!? 俺の血と汗と涙の結晶が、ただのレンタル……!?」
勇者の目から、絶望という名の光が零れ落ちる。
「……そういうことです、アーク君」
私はデスクの上から、彼の手元へプルプルと滑り寄った。
「君は、我が社が提供した『理不尽な環境』の中で、誰よりも努力し、誰よりもレベルを上げ、最も多くのDPを消費してここまで辿り着いた。その『諦めの悪さ』と『圧倒的な体力(残業耐性)』は、経営者として高く評価しています」
私は、黄金に輝く一枚の書類を彼に差し出した。
「我が社は現在、新しい宇宙(市場)を管理する『エリアマネージャー』を急募しています。……君のそのレベル9999の力、理不尽をぶっ壊す(という名のクレーム処理)仕事に活かしてみませんか? 君の故郷の『酸素税』くらいなら、君の社員割引で免除してあげますよ」
「……ッ!」
勇者アークは、故郷の村人たちの笑顔と、目の前に突きつけられた「テラリウム・ホールディングス正社員登用契約書」を交互に見比べた。 勝てない。剣も、魔法も、奇跡さえも、この狂った組織の「経費」でしかないのだ。
「……初任給(DP)は……いくらですか……」
勇者は涙を流しながら、スーツの袖で顔を拭い、震える手で契約書にサインを捺した。
チャリン! 彼がサインをした瞬間、彼が養殖宇宙で蓄積してきた『レベル9999分の莫大な経験値』が、すべて我が社の「法人税(利益)」として口座に吸収されていく。
「……ふふっ、採用おめでとうございます。君の配属先は、一番過酷な『クレーム対応(魔王討伐)部署』です。明日から徹夜ですよ」
私はスライムの体を歓喜に震わせた。 養殖宇宙で最高に育て上げた『勇者』を、最終的に自社の『社畜』として収穫(採用)する。この完全なるマッチング・システム。
「船長! 次の宇宙の第7惑星でも、新たな勇者パーティーが育ってきてます! こちらは『魔法少女』の概念を組み込んだ市場です!」
アルドが、新たな有望株の履歴書を持って飛び込んでくる。
「おや、それはグッズ展開(集金)が捗りそうですね。……さあ皆様、新入社員の歓迎会もそこそこに、次の市場の開拓(面接準備)へ向かいましょうか!」
元・神のスライム率いるテラリウム・ホールディングス。 宇宙そのものを養殖池とし、その中で育った英雄たちを次々と「面接」で刈り取っていく、究極のエコシステム(ブラック経営)は、休むことなく全マルチバースを侵食し続けるのであった。




